舛添騒動 政策と資質を検証せよ 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
メディアの注目を背に政界の荒波をかいくぐって成長したトップリーダー?センテンススプリングが発見したゲスの極み知事?自分のお金を使って逆ギレする「第三者」を雇ってまで開き直るプレゼンター?政治学の専門家らしく法の目をかいくぐることにまことに優秀な政治家?
舛添東京都知事の公私混同疑惑が広がり、6月6日第三者による調査結果が会見で明らかになった。一言で言うと、違法性はないが、不適切な支出があったということであった。会見で舛添都知事は、不適切な支出内容、様々な誤解を生んだ行動、自身の発言と行動との乖離などについて「心から」反省した。
これまで、都知事の高額海外出張から始まり、公用車の「活用」方法、政治資金の「普通ではない」使い方(セコさあふれる漫画や書籍などの購入)、「第三者」を本人が選任するという不可思議な対応、(テレビで以前注目を浴びた)親の介護の際の裏事情などなど出るわ出るわのオンパレードで、政治家の資質そのもの、さらに、人間性について疑われる始末。
そもそも何のための政治家をやっているのか?政治家になることが目的だったのか?自分の能力の高さに見合う地位を得てプライドを満たしたかっただけ(有名になりたかった)?東京都民や自分以外の他人のために本当に何をやりたかったのか?政治資金を活用してどういった暮らしをしたいのか?絵画鑑賞など趣味を満喫したかったのか?などの疑問が生じている。
世論の8割近くが「辞任すべき」と答えるこの事態。世論の8割が「不支持である」というレベルよりも一段進んだ猛烈な反発を受けているものの、「逃げ切れる」との憶測も上がっている。これは、東京都知事の権力がいかに強いかを如実に示しているといえよう。
今回の騒動の根本原因は、東京都知事という仕事が比較的たやすいことだ(非常に失礼な言い方になるが行政経営の専門家として言わしていただきたい)。優秀な舛添知事ではなくても、正直、そこそこの知性と熱意と経験があれば務めあげられると断言できる(議会との関係が良好であるという条件がつくが)。
そもそも、東京都知事の仕事は大変だと多くの人は誤解している。皆さん忘れていないか?かの石原慎太郎元都知事も、週3日しか都庁に出勤していない実態があった。
第一に、都知事の仕事は、リーダーや顔としての振る舞いが求められることが多い。他の自治体と比較して、大きいイベントへの挨拶・講演・スピーチ、表彰などの活動が相対的に多い。東京都自身がそれだけの予算を持ったイベントを主催することも多いし、東京の顔として民間のイベントに呼ばれる機会も多い。様々な組織の顧問など名誉職としての活動もある。知事がイベントに参加し聴衆の心を掴むプレゼンテーションでその巧みな言葉を操っていても、保育所の現場にいかないで絵画鑑賞や自分が行きたいところへの視察にかまけていても都政は回るのだ。
裏では非常に優秀な都庁職員が頑張ってくれる。都庁職員が信頼してくれないとうまく進まない?という疑問を持つ人もいるだろう。いやいや、庁内では、選挙に勝ったという事実と人事権は、批判や不満や不信の声を退ける。
第二に、多くの自治体の首長と違って切迫した状況に追い込まれていない。予算の削減や住民に我慢を強いる政策など厳しい施策を取ることもない。身を切る決断をする必要がない(改革を進めてしまった場合、既得権益を持つ利害関係者の不満や選挙への影響を心配する必要がない)。他の自治体においては「事業仕分け」されても仕方のないような事務事業も残ったままだ。
世界有数の繁栄を誇る世界都市。そもそも東京は恵まれている。政治・経済・金融・文化などのあらゆる面で競争力の高い都市であり、特に、世界的なグローバル企業が集積するなど民間企業の力が非常に強い。そのため、税収も相対的に多い、いや莫大だ。正直、日本全国に広がる「(人口)消滅可能性都市」に配分してあげたらどうかと思ってしまうほどだ。
話を戻して、東京都はいろいろなアイデア・構想を実行できる(行政の役割と考えられる以上に)。悲しいかな、この資本主義社会の「首都」でもある都市では、お金があればほとんどのことが可能になる(日本国政府に歯向かわない限りは)。
しかも、市町村と違って住民から遠く、国家レベルの予算規模を持つため、住民からは何をやっているのか理解しづらい。そもそも多くの人は市町村の仕事や国の仕事はイメージできても都道府県の仕事はイメージしにくい。住民からもっとも心理的距離が遠い自治体といっても過言ではない。
このことを如実に表しているのが選挙戦だ。東京都知事を見ていていつも感じるのは争点がなかなか見出せないことだ。国政と勘違いしてしまうような政策が並べられ、行政の役割とは思えない政策が提示される。制約条件は一顧だにされない。
舛添都知事の公約を見てみよう。
「史上最高のオリンピック・パラリンピック」「大災害にも打ち勝つ都市」「安心、希望、安定の社会保障」・・・・。この抽象的な文言が示すのは、争点などないということだ。この抽象的な政策が実行されたかをどうやって判断するのか!東京都知事の業績・実績を問うことが難しいことがわかるだろう。
東京都の都内総生産GDP(平成25年度)は93兆円、1人当たり県民所得450万円と圧倒的に他の道府県を凌駕している。この巨大都市に住む東京都民やメディアは、東京都知事の仕事の範囲や制約を踏まえた上で、一段と厳しい目を東京都知事に向けていく必要があるだろう。
(1)政策面
・「都市外交」とは何が目的なのか?東京都が行うべきなのか?
・高額の海外出張はそもそも必要か?視察がその一部であろう事業の目的は何か?どんな成果がでているのか?視察は全体におけるどういう位置付けか?
(2)トップリーダー面
・トップリーダーの資質や倫理としてはどういった条件が必要か?
・そもそも政治家としてどんな成果・実績を残してきたのか?厚生労働省時代の実績の根拠は?
・過去の言動と比較して矛盾する点、言行一致されていないと思う点に対してどう考えるのか?
トップリーダーを作るためには、まずは上記のことを投げかけ、誠実に答えてもらい、議論をしていくこと、さらに言うと感情的になるだけではなく、特には条件をつけて許すことから始める時ではないだろうか。おそらく任期を全うするだろうから。
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。