無料会員募集中
スポーツ  投稿日:2016/9/12

ケニア人はなぜ速いのか?


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

昔読んだ本で、スポーツを様々な角度から科学したものがあった。今回の五輪を見ていて、内容をうろ覚えながら思い出している。

160912tamesuebook

「スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学」

デイヴィッド エプスタイン 早川書房

例えば、黒人選手はなぜ足が速く、白人選手が水泳に多いのかを文化的な背景(昔は人種差別でプールに入れなかったとかなんとか)以外で、上半身と下半身の比率の違いをあげている。上半身の比率が大きければ水に浮かべた時、水平に姿勢が保てるために水泳に有利であるから、上半身が長いアジア系、また白人選手が強いと書いてある。一方で、黒人選手は上半身よりも下半身が長いから、スプリント競技では、下半身が長い方が有利なために(理屈は忘れてしまった) 黒人の独壇場になっていると。

また高地適応した人種は長距離が速いことはよく知られているが、その適応も、段階があって、完全に適応しきってしまった人種はむしろ低地でもあまりパフォーマンスは高くないらしい。遺伝子で適応しきっていなければ、心肺機能でそれをカバーしていて、それがゆえに長距離が速いのだそうだけれど、遺伝子で適応してしまえば心肺機能でカバーする必要がないので長距離は特段速くないそうだ。確か。

面白かったのは、なぜケニア人が速いのかという説明の一つに、ただ家から学校までが遠いからというものがあって、それを証拠に金メダリストの子息が長距離を走っても、普段安全のために車で移動をしているために、さして能力を示さないというものがあった。確かにケニアでは二世選手を見かけない。ただ、裕福になって走る理由を見つけられないということかもしれないと思っていたが、それだけではないのかもしれない。

この本だったかわからないが、下腿部の引き上げ運動の繰り返しがランニングだから、下腿部の体積が小さい人種ほど速い傾向にあるというデータを見たことがある。下腿部の体積が大きく短いモンゴロイドの日本人はよく頑張っていると思う。

昔は、五輪というものは完璧な人間というコンセプトがあったから、どの競技も体型が似通っていたらしい。確かに古代オリンピアのアスリートの石像を見ていると円盤投の選手もレスリングもほとんど同じに見える。それが時代とともに、競技レベルが向上し、特化されるようになり、現在のように体型が細分化されてきたそうだ。

昔仲良くなった中国人が、小さいころ手首の幅を調べて競技を決められたと言っていたけれど本当なのだろうか。彼曰くそれで身長がわかるんだと言っていたが。

為末大 HPより)


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."