フランスで女性医師急増中
Ulala(ライター・ブロガー)
フランスのお医者さんは女性の方が多く、今の大学の医学部はほとんど女性と言う話を聞き、調べてみたところ、確かにフランスでは2022年には全体の60%を女性が占めると予測されるほど急速に女性医師が増えており、その理由がとても興味深いものでした。
現時点では、フランスの医師全体で女性が占める割合は45%ほどではあるのですが、女性が本格的働き出した時代以降に生まれた45歳以下を注目して見ると、なんと女性の割合は58%とすでに男性の数を上回っています。ちなみに、2015年度の医学部に入った学生の女性の割合は62.3%であり、大学で周辺を見回せば女性ばかりと感じる多さであると言って間違いないでしょう。(注1)
以前は、頭脳明晰な学生だけが行けるとされた医学部。しかし近年女性の方が多くなったと言っても決して男性の成績が悪いと言うわけではありません。ただ単に圧倒的に医師を目指す割合が女性の方が多くなったのです。それはなぜか?
フランスの女性が医師を目指す理由としては、医師は資格が必要な仕事であるため出産後も復職しやすく、十分な収入が得られ自立しやすいことが挙げられます。外科医など体力的にハードな分野では女性もまだまだ少ないものの、産業医、婦人科、皮膚科、小児科、一般医などの分野ではすでに全体の60%~70%が女性の医師で占められており、女性に適している分野があることも確かです。また、それと同時に女性が増えることによって医師全体の働き方がより女性にあわせたスタイルへと変化する流れも大きい要因かもしれません。
例えばフランスの町に点在する開業医。以前は一人で切り盛りし、週5日働くことが普通でした。しかし現在は2,3人が集まり複数で一つの診療所を開く形態が増えています。複数で働くことによって、お互いに休む日を調整しあいながら協力して切り盛りできるからです。
フランスの学校は水曜日は午前中しか授業がなく誰かが子供の世話をしなくてはなりませんが、そのため水曜日は休み、週4日のみ働くと言う働き方があります。複数で開業すればこのように週4日のみ仕事をするとしても、交代で休みを取ることで支えあうことできるため、子育てと仕事を無理なくこなせるというわけです。
そのため全体的に医師の働く時間も短くなる傾向にあります。以前の多くの男性医師は週5日仕事をし平均で週55時間働いていたのに対し、週4日のみの場合平均50時間労働です。その結果、平均月収が週5日であれば7000ユーロ(約77万円)のところ、週4日では5600ユーロ(約62万円)と差がでてきますが、それでも一般職業の平均月収が約3000ユーロ(約33万円)であることを考えれば普通の生活をする分には十分な収入ではないでしょうか。
このように働く女性が増えたフランスでは、以前は男性が多いと言われた職種にも女性が多く進出しています。しかも、女性が働くにあたって従来やってきた男性と同様の働き方にこだわることなく、女性のライフスタイルにあった働き方にシフトしていくことで女性に適した職業へと変化しているのです。さらに医師だけに限らず、弁護士、教師などの分野でも、女性の比率が増加し同様の現象が起こっています。
日本では、女性医師の占める割合は17.2%とまだまだ圧倒的に女性が少ないですが、それは、働く時間が長すぎると言うのも原因の一つではないでしょうか?日本では、50時間以上仕事をしている女性医師は、45.4%。男性が長時間働くことが慣習となった日本では、男性の働き方をそのまま女性にも求める傾向にあり、子育てとの両立にとても苦労しています。(注2)
日本の女性は今までは、結婚や出産を期に会社を辞め子育てが落ち着いた時点でまた働きにでるというスタイルで、M字カーブを描きながら「働く、産む、育てる、家事、介護する」と言ういろいろな役割分担をこなしてきました。しかし、現在でも、この従来の役割を続けなければいけないにもかかわらず、さらに「十分な収入、高いキャリア」という「輝く女性」プランが追加されたのです。しかしながらこの全てをこなそうと思うと、男性と同じような働き方をしていては物理的に無理なのは明らかです。なぜなら、一日は24時間しかないのですから。
いずれかの役割の作業を減らさなければすべての条件を満たした「輝く女性」などにはなることはできません。女性が働くためには、家事や子育ての作業量を減らすことも大切ですがそれだけでは不十分。世界的には女性が社会進出している国では少子化が解消されているという統計結果がありますが、ただ単に女性が働いても少子化は解消されるわけではありません。女性が無理なく働ける環境がなければ実現されないことなのです。
そういう観点からも、フランスの医師に女性が多いという現象から見えてくる女性の働き方は、今後、日本で無理なく仕事も子育ても両立しながら働くための大きなヒントにもなりえるではないでしょうか。また、働く時間が長い傾向にある日本の働き方自体にも参考になる点があるのではないかと思うのです。
(注1)Atlas de la démographie médicale 2015
https://www.conseil-national.medecin.fr/node/1607
(注2)日本の医療の中の女性医師支援のあり方
http://www.jsn.or.jp/committeepage/images/east40-01.pdf
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。