【大予測:政局】「自民党独裁」終わりの始まり
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
2016年末、安倍首相は真珠湾を訪問し、米国のオバマ大統領と最後の首脳会談を行った。その直後に稲田防衛大臣が靖国神社を参拝し、米韓から批判を受けたりもしたが、年の瀬とあって国内的には大した騒ぎにもならず、政権の基盤は揺るがないように見える。
2020年東京五輪と、憲法改正を花道として、戦後最長の政権となる可能性もあると語る政界ウォッチャーも、決して少なくない。
本当に、そうだろうか。
そもそも安倍内閣が現在のような強固な政権基盤を手に入れられたのは、「民主党政権で誕生した3人の首相が、あまりにもひどかったから」という要素を無視することはできない。鳩山首相は金銭スキャンダルに加えて、沖縄の基地問題で安全保障問題に関する見識のなさを露呈した。
ご承知のように来年は米国においてトランプ政権が誕生する。在日米軍の撤退をも示唆している彼の米国第一主義が、口先だけに終わるとは考えにくく、現在の沖縄の政治状況とも併せて考えると、安倍内閣はきわめて難しい対応を迫られることとなる。
もちろん、これを奇貨として「米軍基地のない沖縄」を実現できる道もなくはないが、安倍内閣にそれほどの能力と度量があるだろうか。
もしもそのようなことになれば、私は素直に脱帽し、首相に対するこれまでの言説を、本誌上で謝罪したいと思う。
通常の政治スケジュールだけ見ても、2017年には東京都議会選挙があり、ここでも自民党が舵の切り方を誤ると、つまり小池都知事と都議会自民党との関係修復に成功しなかった場合、都議会自民党は野党に転落する可能性がある。現状では、小池都知事は自民党から追放されていないし、様々な選択肢が残されている。彼女に新党を起ち上げて選挙を制するほどの資金力はない、などと見る向きもあるようだが、ならば都知事選になぜ勝てたのか、そこを今一度考えてみるべきだろう。民主主義の国において、票は本来タダなのである。
鳩山内閣の後を受けた菅内閣は、東日本大震災で命脈を絶たれた。
もちろんこれは、自民党政権だったらもっとまともな対応が出来た、という問題ではないが、民主党政権の危機管理能力が低かったことは間違いない。まったくの現実問題として、首都直下型地震はいつ起きてもおかしくないし、そこまで言わずとも、日本の原発はまだまだ安心できる状況とはほど遠い。これでなにかあったら、原発再稼働を強力に推進した責任は免れ得まい。
さらに私が心配なのは、自衛隊に付与された「駆けつけ警護」の任務だ。これについては、軍事ジャーナリストの清谷信一氏が、自衛隊にその能力はない、と喝破したが、実は彼だけでなく、安全保障問題ではしばしば私の論敵となる軍事関係者も、「このままでは2~3年のうちにPKOで〈戦死者〉が出ますよ」と漏らしたことがある。軍事問題に造詣の深い人たちにとっては、これがむしろ常識になりつつあるようだが、もしもそのような事態が起きたなら、安保法制をゴリ押しした安倍首相が、その地位にとどまれるだろうか。
この一文を読んで、新年早々、縁起でもないことばかり書いて、どういうつもりだ、というに近い感想を持たれた方も、中にはおられるかも知れない。お叱りは甘受する覚悟だが、ひとつ忘れないでいただきたいのは、「決してあってはならないこと」が、すなわち「絶対にあり得ないこと」ではない、ということである。
最後に、もうひとつ。かつて小泉純一郎という、国民的人気を誇った首相がいた。しかし、彼が後継者に残した遺産とは、ある種バブリーな議員と言うべき「チルドレン」の他は、二世議員ばかりが出世する、旧態依然たる自民党のイメージだけであった。
この結果、ジャーナリストや弁護士、若手官僚などが一斉に民主党からの立候補を指向し、政権交代への原動力のひとつとなったのである。現在の自民党もまた、稲田防衛大臣などは典型だが、安倍首相の覚えめでたい政治家ばかりが登用されるとの印象が、国民の間に広まりつつあるようだ。
野党の現状から見て、早期の政権交代が可能だとは考えにくく、また私自身、政局が不安定になることを望むものではないけれども、安倍首相の後継者は果たして誰かと考えると、わが国の明るい将来像は見えてこない。どうか平和な1年であって欲しいが、同時に、未来に向けた変化が始まる1年であれかし。
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。