[清谷信一]C-2輸送機の開発遅延は人災②〜調達コストが高く・性能も中途半端・外国に売れる見込みの無い機体を「国産機だから」と調達すべきではない

清谷信一(軍事ジャーナリスト)
【①から続く】二機種同時開発には他にも弊害がある。新しい世代の設計者から中型、大型機を設計する機会を奪ったことだ。まず、CXを開発し、次にPXを開発するのであれば、大型機独自開発のノウハウを継承でき、またCXで得た教訓をPXに使えばPXはより少ないリスクとコストで開発できたはずだ。
更に諸外国の航空機に較べて、開発費や試験予算が少なすぎる。これは防衛省の装備全般に言えることだが、試作品が少なく、試験の予算も少ないので、量産初期型が実質的な量産試作品と化している。P-1のエンジンである、IHIが開発した国産ターボファンエンジン、XF7-10の運転試験は僅か3000時間程度であり、1万時間を超える欧米のメーカーとは大きな隔たりがある。
また、先の東日本大震災では「大災害やNBC(核・生物・化学兵器)環境下での偵察に必要で開発は大成功」と防衛省が自画自賛していた陸自のヘリ型UAVは一度も使用されなかった。C-2の開発は見通しが極めて甘く、国内企業には十分なノウハウがなく、また開発・試験予算も極めて少なかった。故に、昨今の開発上のトラブルがあって「当然の開発時及び初期不良」とはいえない。これらは「人災」である。
C-2を民間転用して海外に販売するという話があり大々的に報道されているが、これを信用するのは極めてナイーブだ。民間転用するためには欧米で滞空/型式証明を取得する必要があるが、一旦軍用機として開発した機体で新たに証明をとるのは極めて莫大な費用がかかる。このため販売価格は高騰するだろう。その費用を回収するためには多数の機体を販売する必要がある。
故に、C-2がライバルと目しているエアバスの新型輸送機、A400Mは開発しながら、滞空/型式証明の取得を行っている。また売り込みにしても多額の費用がかかる。しかもC-2は舗装滑走路でしか使えず、他の軍用機を転用した民間輸送機のようにアフリカなどの未舗装の滑走路では運用できない。これではPKOなどの輸送業務を請け負うことができない。
また、これは本来の軍用輸送機としても問題がある。島嶼防衛でもさほど役に立たない。島嶼防衛の対象とされている南西諸島では2000メートル級の舗装滑走路は少ない。実際に戦争になれば急造の滑走路での運用も必要だろうが、C-2はそのような滑走路では運用できない。
更に機体単価は200億近くである。ペイロードが70トン代と二倍以上あるボーイングのC-17輸送機と対して変わらない。これに耐空証明取得などのコストを乗せれば調達価格は更に上がるだろう。このような機体にポテンシャル・カスタマーが魅力を感じるだろうか。
主契約社である川崎重工が売れるか売れないか民間型にそこまでのリスクを取ることはないだろう。同社は、かつてはヘリコプターでは外国と共同でバートルやBK117など開発するなど、海外進出の野心があったが、現在では防衛省需要とボーイングなど外国の下請けで、リスクのない商売しかしていない。
リスクを負ってリージョナルジェット、MRJを立ち上げた三菱重工や、米国でビジネスジェット機を開発しているホンダのような野心やリスクをとって将来につなげようという度胸はない。実際そのようなプロジェクトはない。
C-2の開発・装備化は中止すべきだ。せめてこれまで発注した6機で生産を終了させるべきだ。C-17やC-130J、あるいはA400Mなど他の輸送機を調達するほうがよほど国益にかなっている。これらの既存機を調達するのであれば、調達までの時間は大幅に短縮できる。またC-17であればC-2の二倍以上のペイロードが一挙に運べ、C-130であればC-2よりも遙かに短い、非舗装の滑走路でも運用できるので、よほど島嶼防衛には有用だ。
これから空自では1機が恐らく250億円以上になるであろう「国産」のF-35Aの本格的な算的な余裕は少ない。C-2のような調達コストが高く、性能も中途半端、外国に売れる見込みの無い機体を「国産機だから」と漫然と調達すべきではない。【①を読む】
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