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.国際  投稿日:2017/3/15

仏でも深刻、引きこもり問題


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏でも「引きこもり」が注目され始めた

・若者の失業率の高さも一因

・相談窓口と社会のサポートが必要

 

■高い失業率も一因

最近フランスでは、本が出版されたり、演劇の題材になるなど、「ひきこもり」について触れられる機会が増えています。

「ひきこもり」。それは、学校にも行かず就職もせず、長期間に渡って家族以外と交流をもたず、社会参加しないで自宅や部屋にとじこもる状態のこと。対恐怖症、不眠、うつなどの症状を伴う場合もあります。

若者が自宅にひきこもる問題は、日本では1970年代からその存在が認識されはじめ、90年代から具体的なケースが知られるようになりました。欧州では2000年代に入ってから紹介されるようになりましたが、最初は「詰め込み教育、受験、コミュニケーション不足」が原因であり、日本特有の現象と紹介されていたのです。しかしながら、景気が悪くなりはじめた2008年頃から、フランスにおいても社会活動に参加できていない若者がいることが認識されるようになってきました。景気が悪くなることで若者の失業率が膨れ上がり(現在では25%前後)、失業者も増えると共に家にいる若者が増えたことも影響しているとも考えられます。

フランスでひきこもりの現象が認識し始めた2012年のルモンドの記事によると、パリのSaint-Anne病院では16歳以上の「引きこもり状態」と見られるケースがすでに15カ月で30件ほどあったと言います。

 

日仏「引きこもり」の違い

しかしながら、家に閉じこもっているため外で問題を起こすわけでもなく、社会から見えない存在であることが多く、現在に至ってもフランス全体のひきこもりの正式な人数は出されていません。

ひきこもりについてフランスにて講演も行ったこともある名古屋大学生相談総合センターの古橋忠晃助教授らによるレポート(注1)には、日仏の違いについてこう書かれています。

「ひきこもり」と考えられたケースを日仏両国で集めて全体を概観してみると、ひきこもりの「入り口」として、日本では本人にとっての目標を目指していることの途上でつまずくか、あるいはつまずきそうになってそのまま引きこもってしまうが、フランスにおいては社会から逸脱する形で(「実際に」つまずいて)そのまま引きこもってしまうという違いあるように見えた。こうした違いは個人と社会の関係性の両国での現れ方の違いを反映しているように思われた。

日本とフランスではひきこもりという同じ現象が現れるとしても、文化的背景の違いからそこに至るまでの過程は違うと分析されており、他にも、フランスでは北アフリカからの移民家庭など貧困層の若者が目立ち、薬物やネット依存、人種差別も背景にあることについても述べられています。

 

■原因は日仏、同じ?

フランスのテレビFrance2で紹介されたひきこもりについてのいくつかの番組には、実際、家にひきこもっている状態の若者やその親が出演し、そこに至るまでの過程を語っていますが、一番多かった理由が「他人とのコミュニケーションに問題があった」ことでした。

・引っ越しで新しい学校にいったが、友達ができず勉強をする気もなくなり成績もおちて何もかもが嫌になった

・ある日突然数学のテストで0点を取り、バカにされるのが怖くて学校にいけなくなった

・友達の話しに興味が持てず、自分がしていることをからかわれることに耐えきれなかった

・勉強もでき頭はいいのだが、大学まで行ったけど学校でも友達にうまくなじめず、その後に行われた会社での研修でもうまくなじむことができず、家に閉じこもるようになった。

フランス社会では、日本ほどではないにしろ周りと同じことをすることを求められ、何かあればあからさまにからかわれることが慣習となっており、それはフランスでも現在問題になっているいじめにもつながっていることも事実です。

いじめられた経験から家に閉じこもりがちになるケースも多く、この番組を見ている限りでは、日本で一般的に認識されている家に引きこもる原因のいくつかの例とそう変わりがないのではないかと言う印象を受けます。

 

必要な社会のサポート

番組では、社会の中に「自分の居場所を確立」することが重要であることを説明していましたが、それができないから悩み、今に至っているわけで、ひきこもり状態の場合、なんらかのサポートが必要なのは日本もフランスも関係なく同じであると言えるのではないでしょうか?

フランスと日本とを比べると、引きこもりになる原因は文化的な面から違う可能性はありますが、ひきこもり状態になると言う結果に至る点では同じだと言えます。いずれにせよ個人それぞれに合わせて解決していくことが必要であり、そのために「まず誰かに相談する」ことが解決への一歩に成りえることも同じであることは間違いありません。

(注1):名古屋大学生相談総合センターの古橋忠晃助教授らによるレポート:「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点についてhttp://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/bitstream/2237/20206/1/6_No34-1.pdf


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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