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.政治  投稿日:2017/4/2

PKO5原則に限界 南スーダン自衛隊撤収


「細川珠生のモーニングトーク」2017年3月25日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(坪井映里香・井上麻衣子)

【まとめ】

・自衛隊に現地避難民保護は困難。

・PKO五原則は時代にそぐわない。

・防衛省で文民統制が効いているのか疑問。

 

今月10日、安倍首相は南スーダン国連平和維持活動PKO)に派遣している陸上自衛隊の5月末での撤収を発表。24日に稲田防衛相も南スーダンへの派遣部隊に対し指示を出した。その理由や、今年初めに公になった日報の問題などについて、民主党政権時代防衛大臣政務官を務めた大野元裕参議院議員に政治ジャーナリストの細川珠生氏が話を聞いた。

細川氏は、現在国会で話し合われていることも重要だが、南スーダンからの撤退の発表も重要だと思う、との認識を示した上で、「5年2か月派遣をしている中で今年5月に終了する意味がよくわからない。」と疑問を呈した。

まず大野氏は、「政府自身は南スーダンへのPKOがすでに5年たったこと、それから一定の段階を踏みながらめどがついたという言い方をしている。」と政府の見解を説明。そのうえで大野氏は「実はニーズを満たしたかどうかが一つある。」と指摘した。PKOに派遣されている自衛隊は、国連の南スーダン派遣団(United Nations Mission in the Republic of South Sudan: UNMISS)のいわゆる「国づくり」の部隊に対して協力をしてきたという。しかし、途中で国連側のマンデート(任務)が変わった経緯がある。今までのスーダンと南スーダンの戦いではなく、南スーダンの国内における政治問題・衝突等があって、任務が平成27年12月、平成23年の独立後から行ってきた「国づくり」から「文民保護」に変更された。つまり内乱によって生まれた数多くの避難民を保護することが任務となったのだ。

それに対して大野氏は、「(日本の自衛隊は)様々な能力を持っているが人民の保護、文民の保護やいわゆる人道支援の実施をするための環境づくり、つまり守るという任務としてふさわしくない。」と述べ、「これまでと状況が変わったということが一つある。」と撤収の理由を説明した。

大野氏は防衛大臣政務官だった際、ゴラン高原の撤収を担当していた。ゴラン高原には1996年から2013年まで、自衛隊はPKO活動の一環として派遣されている。「自衛隊が有意義でかつ安全に作業ができる環境にはもうなくなったという判断でゴラン高原を下げた。」と撤収理由を説明した。日本の自衛隊がPKO活動に参加する際の原則、PKO五原則(注)には抵触していなかったが、そういった理由により撤収を決めたという。

南スーダンからの撤収について大野氏は、「自衛隊の安全が確保できるかという状況に疑問がつかざるを得ない(状況だった)。」と述べ、ゴラン高原からの撤収理由と同様の理由があったのでは、との考えを示した。特に去年の7月以降は自衛隊の作業はこれまでとはずいぶん違ってきているとし、リスクが高まってきたことと、自分たちの能力にかなわない任務になってきた、という2つが撤収の理由ではないかと分析した。

細川氏は、「自衛隊の派遣先として安全の確保に万全の保証がないことが判断に大きく影響したのか。」と改めて質問。大野氏は、「今の基地の駐屯地の中にいる分にはリスクは相対的に低いかもしれないが、万全な作業をしようと思うとリスクがあまりにも大きい。」と答えた。

南スーダンからの撤収は、自衛隊のPKO活動がゼロになることでもある。細川氏は、「自衛隊が高い能力でインフラ整備を行うことは世界から期待される日本ができる数少ない貢献活動のひとつである。」との見方を示した。これについて大野氏は、「いわゆる世界に対するプレゼンスという意味では当然マイナスになる。」と述べた。しかし、「その一方で今自衛隊のPKOとして出せる場所は本当に数少ない。」とも指摘した。

大野氏によると、PKOは国連憲章で定まっておらず、状況に応じて変わってきているという。「例えば今の国連のPKOに関するガイドラインについていえば、もう日本の5原則が定めている中立原則というのはない。」と述べ、中立よりも「ミッションへの普遍性」を重視する傾向が高まっているとした。「もしもある勢力寄りであったとしても、目の前で殺される人がいたら助けなければいけない。これは中立ではないが、それを重んじろということ(=ガイドライン)になっている。」と説明した。前述のPKO5原則が維持できない状況の中で、「安定的で、かつPKO5原則が維持できそうな国はたぶんキプロスくらいしかない。」と、日本のPKOの限界を指摘した。

その一方で大野氏は、「日本は『どの国にPKOを出すか』、という発想だが、多くの国は、『(その地域を)安定させると自国にとって利益になるからそこにPKOを出そう』と、イニシアチブをもってやっている。」と他国と日本のPKOに対する考え方の違いを説明し、自国の利益に鑑みる発想をもつことの必要性も述べた。

細川氏も、「国益にかなう貢献をしなければいけないのは国際社会では当たり前だが、安全保障の分野になると日本は不得手と感じる。」と述べた。

次に、南スーダンの情勢を報告する「日報」が隠蔽されていた問題について細川氏は言及。「大臣も知りえない状況にあるのだとすれば、防衛省はきちんと統制がとれているのかと多くの国民は不安になっている。」とこの問題の重要性を指摘した。

大野氏は防衛省を、「ほかの省庁より正直真面目。しかし上からの指示に委縮するところや、不器用なところがあるというのも事実。」との認識を示した。大野氏はこの問題について、「日報を隠させて、そのあと発見されたのが12月26日、大臣に報告がいったのは1月27日。1か月以上報告がいかなかった」点に着目し、「シビリアンコントロール(文民統制)が効いていているかどうかが重要」だとした。

さらにそこから、「政治と役所、政治と部隊との距離が非常に大きくなってしまっていることの方が問題」との見方を示した。もちろん日報が出てこないというのも問題だが、「シビリアンコントロールが効いていることが国民の自衛隊や防衛省に対する信頼につながり、自衛隊も万全に仕事ができる。これが本来あるべき姿だが、そこが崩れかけているのではないか。」と述べた。

細川氏も、「一番大事なのは(国民との)信頼関係。」と述べ、「自衛隊は特に命を預けるという意味で私たち国民も、大臣をはじめ防衛省の体制に不安を感じる。」と述べ、今後も追及が必要との考えを示した。

 

(注)PKO五原則

1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること

2.国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。

3.当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。

4.上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。

5.武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

 

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年3月25日放送の要約です)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

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トップ画像:©細川珠生


この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト

1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。

細川珠生

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