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.政治  投稿日:2017/7/28

災害派遣に不向き「AAV7」


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・水陸両用装甲車、通称「AAV7」は災害派遣に不向き。

・運搬が難しく、踏破性能が低いので島嶼防衛にも向かない。
・戦闘と災害救助のバランスを取ったコストパフォーマンスの高い装備の調達を行うべき。

 

トップ画像:米海兵隊のAAV7 (提供:米海兵隊)

防衛省は島嶼防衛に必要であると水陸両用装甲車、AAV7を導入した。そのときこの車輌は災害派遣にも有用であると、その必要性をアピールした。だがAAV7は島嶼防衛にも災害派遣にも向かない。災害派遣に使える装備は実は充実しておらず、災害派遣は現場のガンバリズムに頼っているのが現状だ。

7月九州北部では豪雨に見舞われ、豪雨被害の死者は35人、行方不明者は6人(7月26日現在)、となっている。今回の被災現場には消防の汎地形車輌、レッドサラマンダーが投入された。

レッドサラマンダー

画像①全地形対応車「レッドサラマンダー」愛知県岡崎市HP

これはシンガポールの総合軍事メーカー、STK社が開発した二連結の装軌式の水陸両用車輌で、前後の車体の連結部分が回転し、また幅広のゴム製履帯を有しており極めて低い接地圧を実現している。

またニ連結方式のために起伏の激しい場所でも確実に、前方ないし後方のどちらかの履帯が接地する構造になっている。このため極めて高い不整地走行能力を有しており、沼沢地や雪原でも活動が可能だ。

サラマンダーの原型は装甲車であるブロンコだが、これはBAEシステムズ社傘下のヘッグランド社の同様の車輌Bv 206S、BvS 10などを参考に開発され、当初は軍用の装甲車両として開発された。BvS 10はバイキングの名称で、英海兵隊で採用され、英軍のアフガンにも投入用された。その他スウェーデン、オランダ、フランスなどの多数の軍隊でも採用されている。ブロンコもまた英海兵隊で採用されている。

このような水害の際にはレッドサラマンダーのような不整地走行能力が高い水陸両用車輌が非常に有用な装備である。ご案内のように陸自が採用した水陸両用装甲車、AAV7は大災害にも有用だと納税者にアピールされてきたが本当だろうか。

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AAV7は最大25名の兵員の搭乗が可能で、海上を最大時速13キロで移動できる。確かにAAV7は東日本大震災のような津波の後では、海からのアプローチは可能だ。だが、それならば海自はビーチングが可能なLST戦車揚陸艇などを調達した方が余程多くのモノが搭載できる。

ところがこのような揚陸艇を海自は殆ど持っていない。昭和62年、平成元年に進水した輸送艇1号、2号(基準排水量420トン)の2隻があるだけだ。揚陸の主力はおおすみ級輸送艦に搭載されているエアクッション艇であるLCACが6隻だけだ。LCACは調達・維持費が高い割には使い勝手が悪い装備だ。揚陸できるのは砂浜だけ、しかも後進ができないので、方向転換するためにはかなり広い砂浜が必要であり、揚陸地点が限定される。揚陸作戦も勿論だが、このようなビーチングが可能な揚陸艇は災害派遣に極めて有用だ。海自のようにほぼLCACしか持っていない海軍は世界に存在しない。

AAV7は上陸後そのまま活動できる利点はあるが、戦車が搭載できるLSTほど搭載量が多くはない。しかも戦闘重量26.5トン、全長8.16メートル、全幅3.27メートル、全高3.3メートルと図体が大きいので、狭い国内では使い勝手が悪い。また履帯の幅は53センチであり、エンジン出力を車体重量で割ったパワー・ウエイトレシオは、15.83hp/t、接地圧は59kg/m、登坂力は60パーセントで路外走行能力が低い。しかも図体が大きいで起伏が多い場所では車体底部がつかえて立ち往生しやすい。

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画像②:バイキング自走迫撃砲型 ©清谷信一

対して英海兵隊のバイキングはどうだろうか。バイキングは戦闘重量11.3トンで全長7.6メートル、全幅2.2メートル、全高2.2メートルだ。水上航行速度は時速5キロとAAV7に比べて低いが、LCACやLSTなどで海岸近くまで運べば問題ない。履帯幅は620ミリで、パワー・ウエイト・レシオ24.33hp/tとAAV7の1.5倍以上で登坂力は100パーセントと、不整地踏破能力が極めて高いので珊瑚礁も難なく踏破できる。

またC-130は勿論、チヌークによって空輸も可能であり戦略輸送性に優れている。AAV7に比べて車体もコンパクトで、そもそも不整地踏破能力は極めて高いので、島嶼防衛作戦は勿論、災害地への戦略機動能力、自力での移動能力も極めて高いものがある。

BAEシステムズの動画

http://www.baesystems.com/en/product/bvs10

AAV7は戦略移動の面でも被災地救援には向かない。これを被災の現場まで持って行くには母船に搭載して、砂浜があるところに自力で陸(おか)にあがるか、LCACに乗せて揚陸する必要がある。

陸路ならばかなり大きなトレーラーに搭載する必要がある。C-130輸送機は勿論、C-2輸送機でも輸送は無理だろう。ましてヘリで空輸することもできない。つまり被災地にたどり着くまでが困難である。

そして、ご案内のようにリーフを超えることができない程度の不整地機動力しかないので、倒木などを超えるのは困難であり、完全に洪水で水没した処ぐらいしか役にたたず、泥濘地や増水で沼沢化したような地域、豪雪地帯では役に立たない。

AAV7は水陸両用装甲車ではあるが、艀を装甲車化したような存在で、海岸堡を確保するためのモノである。つまり、通常の装甲車輌としての能力は低い。比べて主として海岸と母船を往復して兵員を揚陸させるための装備であり、内陸での機動戦闘は本来想定していない。

実はAAV7は本来の任務である島嶼防衛の主たる対象地域である南西諸島の珊瑚礁や防潮堤も越えられない。政府のいう島嶼防衛とは尖閣諸島など無人島、小島などを指していたはずだ。ところがAAV7はそのような南西諸島の離島では運用ができず、沖縄本島とか、宮古島とか大規模なビーチが存在する島でないと運用できない。

そもそも運用が想定される南西諸島の離島での運用が可能かどうかの実験すらやっていない。防衛省は瀬戸内海でおおすみ級輸送船からAAV7を水上に発進させる程度のおざなりの試験しかしていない。

ということは、政府と防衛省は本来の島嶼防衛は諦めて、宮古島や沖縄本島が人民解放軍に占領されて、それを奪回する作戦=民間人を巻き込む作戦を考えている、ということになる。つまり始めから尖閣諸島などの防衛は放棄し、相手に更に宮古島や沖縄本島を占領させてから、島民を巻き込んでの奪回作戦前提の作戦を考えていることになる。

だが、それならば島嶼防衛で想定していた離島の小競り合いではなく、中国の本格的な日本侵攻となる。現防衛大綱は「大規模着上陸侵攻等の我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低い」としていることと矛盾する。まるで精神分裂だ。

政府、防衛省は沖縄県民に対して、本来の島嶼防衛は放棄し、先の戦争同様に沖縄県民を巻き込んで沖縄本島など人口が多い場所での作戦を採用すると説明したのか。防衛問題に過剰なくらいセンシティブな沖縄のメディアやリベラル系メディアがこのことを取り上げないのは不思議としか言いようがない。

更に申せば沖縄本島が占領されるということは、米軍の空軍拠点である嘉手納も壊滅して、在日米軍の航空戦力、沖縄や九州における自衛隊の航空戦力も壊滅している状態だが、そのような荒唐無稽なシナリオの起こる可能性は、無人島を対象にした本来の島嶼防衛よりも起こる可能性が高いはずもない。

そんな可能性が低いシナリオよりもより起こりうる、本来の島嶼防衛に身を入れるべきだった。そうであればAAV7という時代遅れで役立たずの装備を買う必要は無かった。

そのAAV7の採用は政治決断だったようだ。防衛省は本来AAV7の採用に関しては、APC(装甲兵員輸送車)型のみならず、指揮通信車と回収車と併せて3年度掛けて試験運用し、採否を決定するはずだった。試験用として初めにAPC型4輌が調達され、翌年度に発注された指揮通信車と回収車が発注された。だが指揮通信車と回収車の到着を待たず、僅か半年に試験を端折って、AAV7の採用を決定した。

先に述べたように南西諸島での珊瑚礁に囲まれた離島への揚陸や、擱座したときに回収車を使用して回収するなどもまったく調査も試験もしていない。にも関わらず採用が決定されたのだ。

これが、日中関係が険悪化し、直ぐにでも不測の事態が起こりうるというならば話は別だが、政府、防衛省にはそのような認識はなかった(これは当時の小野寺大臣も岩田陸幕長も認めている)にもかかわらず、本来やるべき試験を怠って、「アメリカに言われたから」(当時の岩田陸幕長)と、無理矢理試験を縮めて導入した。まるで昔の総督がいた時代のフィリピン軍のようである。とても独立国の「軍隊」、政府とは言えない。

しかも発注され、一度も使用されなかった試験用の指揮通信車と回収車は部隊に配備される52輌のAAV7に組み入れられない。この試験の短縮は、指揮通信車と回収車の発注前に分かっていた。ところが防衛省は試験用に調達するはずの装備が、試験に使用されないのが分かっていて発注・調達したのだ。これは税金の無駄使いであるが、何故か国会も会計検査院も問題にしていない。これらのことから、AAV7の導入は政治主導、恐らくは最近はやりの「首相官邸の最高レベル」の意思が働いたのだろう。

上陸作戦は当然ながら揚陸後に内陸で戦闘を行う。だが陸自が編成を進めている水陸機動旅団(仮称)には現状陸上で使用する装甲車はない。そうであれば陸上では愚鈍なAAV7で戦闘を行うことになる。しかもAAV7は1個小隊が搭乗するので、撃破されたときの人的被害は大きい。つまりは内陸での戦闘では大きな被害を出すことになるだろう。

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画像③:アルゴ社の汎地形車輌の軍用型 ©清谷信一

主力装甲車がAAV7だけでは上陸作戦任務はこなせない。だから米海兵隊はAAV7と通常型の装輪装甲車で水陸両用機能のあるLAV25を併用し、その後MRAP(耐地雷装甲車)を採用している。英海兵隊はバイキングを選択している。その他多くの国の海兵隊や水陸両用部隊では揚陸艇とピラーニャなどの水陸両用機能のある通常型の装甲車を組み併せて使用している。

また水陸両用部隊はどこの軍隊でも能力の高いエリート部隊だ。同じエリート部隊の空挺部隊は単なる軽歩兵であるのに対して、装備や火力も充実している。このためPKOや海外任務などにも使用される。英海兵隊はアフガン派遣部隊の中核部隊となっていた。米海兵隊もアフガンに派遣されている。これらのことを考えれば水陸両用団もそのような使い方を考えるべきだ。単に上陸作戦だけに備えるべきではないだろう。

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画像④:水陸両用機脳を有したピラーニャIII ©清谷信一

本来の島嶼防衛においても災害派遣においてもAAV7よりもバイキングやブロンコの方が余程有用である。本来水陸両用機動団はバイキングやブロンコのような装甲車を採用すべきだった。これらの車輌には自走迫撃砲や野戦装甲救急車型なども存在しているが、水陸両用団には両方とも存在しない。特に自走迫撃砲は据え置き型に比べて、生存性が高く、また弾薬も運べるので、海岸堡を確保したばかりの上陸部隊には有用な装備である。

実は陸上自衛隊は水陸両用部隊編成にあたって、まともなリサーチをしていない。そのための予算も確保していない。単に米海兵隊を見よう見まねで新しい部隊のコンセプトを作ったのだ。筆者は4年前に日本人ジャーナリストとして初めて、英海兵隊の基地を取材したが、陸自が英海兵隊に調査のための人員を派遣したのは、その翌年であり、既にコンセプトを固め終わっていた。米海兵隊は巨大な組織であり自前の戦闘機や戦車も有しており、外征型の軍隊だ。我が国の水陸両用部隊の参考にはならない。本来規模や運用環境が似ている国の部隊を実地に調査すべきだったのだが陸自はやらなかった。これがプロの仕事といえるだろうか。

筆者はAAV7よりもバイキングやブロンコを採用すべきだったと考える。それにしても装甲型を減らして、非装甲型を兵站用として採用することも一案だった。これらは装甲型に比べて軽く、輸送も更に楽になり、また運用コストも低くなる。

âuâìâôâR文中画像⑤:ブロンコ ©清谷信一

バイキングのもととなった、非装甲のBv206は重量6.74トン、搭載量4.5トンである。バイキングの搭載量の2.8トンである。車体重量はバイキングの約6割で、搭載量は約1.6倍である。BAEシステムが2年前に発表したバイキングの非装甲型のBv10ベオウルフは、サイズが拡大されて重量15.5トン、ペイロードは8トンでバイキングの2.8倍となっている。

例えばこれら非装甲型30輌ぐらい消防庁か国交省あたりの予算で調達し、消防などで運用し、整備は自衛隊が担当してはどうだろうか。整備や運転者は自衛隊退役者を再雇用した会社を作って、そこで行い、整備とその予算は防衛省が持つ。有事には運用者を現役復帰させて、兵站車輌として自衛隊の部隊に組み込むのだ。これならば災害に有用であり、国防にも寄与するし、防衛費も低減できる。

繰り返すがAAV7の導入は間接的なエビデンスを見る限り、政治的な「天の声」があったのは確実だろう。しかも無責任に調査を端折って役立たずの装備の採用を決定しただけではない。AAV7を導入するならば米海兵隊の中古の余剰在庫で十分で、海兵隊もそのようにアドバイスしていたようだ。中古といってもリファブリッシュして新品同様になるのだが、アメリカの企業(BAEシステムの米国の子会社が製造)に儲けさせるためか、「お古は嫌だ」と駄々をこねたのか、新造品を発注した。いずれにしても税金の無駄使いであり、納税者の理解を得られる所業ではない。

その上52輌のAAV7は既存の海自の輸送艦では輸送できない。現用のおおすみ級輸送艦はAAV7だけでいっぱいになるので、本来必要な隊員や燃料、食料、弾薬などの物資、トラックや施設科の資材などを運べない。DDH(ヘリコプター護衛艦、事実上のヘリ空母)の輸送能力をすべて動員してもまともな揚陸作戦はできないだろう。

海自は将来新型揚陸艦を導入するがその仕様の詳細も全く決まっていない。新しい揚陸艦ができるまで、3個中隊のAAV7の内、2個中隊は遊兵化することになる。これが通常型の水陸両用装甲車ならばPKOやその他の任務にも使えるがそれもできない。にもかかわらず多くのAAV7を調達したのだ。

また以下のようなカナダ、ARGO社の低圧タイヤを装備した車輌も消防では採用されている。

http://www.sms-argo.com/jp-argo

http://www.sms-argo.com/other/938

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画像⑥:南ア陸軍のゲッコー ©清谷信一

実は英空挺部隊ではこれと酷似したスパキャット社のスパキャットをかつて空挺用車輌として採用していた。水陸両用で不整地踏破性能が高く、搭載能力もサイズの割には大きい。また南アフリカ陸軍の空挺部隊でもアルゴ社のシステムを採用した同様の8輪車輌、ゲッコーを採用している。ゲッコーもスパキャットも専用の牽引式トレーラーを装備している。空中投擲が可能であり、あらゆる地形で、パラシュート降下し広範囲に散らばった将兵や装備をかき集め、またウエポンプラットフォームとしても使用される。

例えば陸自の第一空挺団でこのような車輌を採用することも検討すべきではないだろうか。既存の1/4トントラックや高機動車よりも遙かに高い不整地踏破能力、搭載力を有しており空挺作戦は勿論、水陸両用戦、災害派遣に有用だ。

陸自の装輪装甲車はすべて水陸両用機能を有していない。これはコマツの設計陣が我が国の河川は流れが速いから必要ない、と言ったことを陸幕が全く検証もしないで真に受け、水陸両用機能は不要という仕様要求をしてきたからだ。このような思いつきや思い込みを鵜呑みにして、まともな検証も試験もしないで装備を開発・調達するのが陸上自衛隊という組織である。これまた当事者能力と、当事者意識が欠けているとしか言いようがない。

しかも96式装甲車や軽装甲機動車は、そもそも舗装道路で使用することを前提とされているので、悪路ではスタックすることが多い。これでは軍用装甲車とはいえず、警察用の装甲車である。例えば96式装甲車などがパトリア社のAMVやスイスピラーニャのように高い不整地の機動性と、水陸両方機能を有していたら災害派遣も有効だろう。恐らくは東日本大震災でも活躍したに違いない。

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画像⑦:陸自の96式装甲車。水陸両用機能は付加されていない。©清谷信一

また陸自は野外炊事能力も極めて低い。陸自には中隊規模用(200~250名用)の牽引式炊事システム、野外炊具1号しかなく、炊事能力が不足している。またシステムが無天蓋なので、強風や豪雨では炊事が極めて困難になる。しかも人員不足で演習では食事の準備に普通科から「兵隊」がかり出される。実戦でこんな悠長なことができるだろうか。

東日本大震災では自衛隊は被災者には暖かい食事を振る舞ったが、隊員は冷えた缶詰の飯を喰っていた。これをメディアは「美談」として紹介していた。だがこれは単に兵站軽視で、隊員に無用な負荷かけているだけだ。「このような美談」はアッツ島やガダルカナルでの玉砕=全滅や無謀なインパール作戦を礼賛するのと同じセンス、メンタリティーである。

陸自には先進国は勿論、トルコやシンガポールですら有しているコンテナ式の給食、食堂システムが無い。このようなコンテナ式の給食システムは嵐など過酷な環境でも炊事や食事可能である。それは被災者にも恩恵があるが、隊員の士気と能力を維持するためにも必要である。またこれはPKOなどでも非常に必要なシステムである。その反面、アメリカ軍の10倍も高い機関銃買うなどして予算を無駄使いしている。

自衛官は赤や黄色いタイツを履いて暴れ回る不死身のスーパーヒーローではない。普通の人間だ。一定のパフォーマンスを隊員に求めるならば、最高のコンディションを整えるべきだ。冬場の東北地方で暖かい飯も喰わずに、入浴もできず、長時間過酷な作業を強要するのは犯罪的ですらある。これは歴代の陸自首脳、幕僚監部の無能・無策の証である。不思議なことにリベラルなメディアすらもこういう視点で報道せず、日の丸を振るような、無邪気な自衛隊礼賛記事を書いている。

自衛隊の医官の充足率が以上に低いことをご存じだろうか。部隊の医官の充足率は約2割に過ぎない。これは防衛省のウエッブサイトでも述べられている数字だ。しかも一人の医官が複数の駐屯地を掛け持ちしているケースもあり、実態の充足率は更に低い。海自でも医官が搭乗していない護衛艦が極めて多い。また医官がおらず、薬剤官(薬剤師)が薬を隊員に渡している駐屯地や基地も多い。しかも薬剤官が処方すると薬事法違反になるので、コンビニなどで、売っている売薬を渡しているという有様だ。これで有事の戦傷医療に対処できるわけもない。このような医官の不足で災害派遣において十分な医官を派遣できているのだろうか。

防衛省はやたらに戦闘用装備が災害派遣にも役経つとアピールするが、非常に言い訳がましいし、余計胡散臭くなる。確かに災害派遣も自衛隊の立派な任務である。だが必要なのは戦闘に有用であるかどうかが、第一であり、災害派遣、民生協力に役に立つというのは二次的である。そうであれば、本来の戦闘任務に支障がない程度で、一定の災害での使用を想定した仕様を盛り込めばいい。併用が無理ならばそれぞれ別個に調達すべきだ。実際自衛隊では災害派遣専用の装備も調達している。あたかも一つの装備が万能であるかのように宣伝するのは控えるべきだ。

災害派遣にも使えるということを言い訳に、本来の戦闘で使えないものを調達するべきではない。AAV7に関して言えばこれまで述べたように災害派遣にも本来の戦闘任務にも向いておらず、まともに考えれば調達の候補から落ちていただろう。

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画像⑧:野外炊具1号 ©清谷信一

本来の目的にすら役に立たない装備をリサーチもせずに、多額の予算をつけて調達することは、その年度だけで終わらない。更に延々とその高い維持費を払うことになる。これは単なる税金の無駄である。のみならず自衛隊を自ら弱体化させることになる。限られた予算は本来の戦闘と災害救助に適したバランスをとった、コストパフォーマンスの高い装備の調達を行うべきである。

【訂正】 2017年8月2日08:40
以下訂正
1タイトル
訂正前:災害派遣に不向き「レッドサラマンダー」
訂正後:災害派遣に不向き「AAV7」
2まとめ
訂正前:・水陸両用車通称「レッドサラマンダー」は災害派遣に不向き。
訂正後:・水陸両用装甲車、通称「AAV7」は災害派遣に不向き。
3トップ画像
訂正前:全地形対応車「レッドサラマンダー」の写真
訂正後:AAV7の写真

タイトル、まとめで誤りがあり、愛知県岡崎市消防本部様にご迷惑をおかけしました。ここにお詫びして訂正いたします。(Japan In-depth編集部)

 


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

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清谷信一

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