.国際 投稿日:2017/10/12
テロの温床マレーシア 容疑者8人逮捕
【まとめ】
・マレーシアで外国人4人含むテロ容疑者8人逮捕される。
・マレーシアは「テロ組織のデパート」と化している。
・ASEAN諸国にとっても「今、そこにある危機」といえ、深刻な状況だ。
マレーシア治安当局は10月7日にテロ容疑者として外国人を含む8人を逮捕したと発表した。
逮捕者はフィリピンが主な活動拠点の「アブサヤフ」、インドネシアのテロ組織「ジェマ・イスラミア(JI)」、そして中東のテロ組織「イスラム国(IS)」や「アルカイーダ」など別々のイスラム教テロ組織と関係があり、テロ計画やメンバーの勧誘などの容疑で逮捕された。
こうしたことからマレーシアでは複数のテロ組織に関連する外国人、マレーシア人がそれぞれにテロ活動を行っているという深刻な国内事情が浮き彫りになり、マレーシア政府、治安当局はさらに警戒と摘発を強めている。
マレーシア警察、情報機関などは今年9月27日から10月6日にかけて、マレーシア国内の首都クアラルンプールを囲むセランゴール州、その北に位置するペラ州、ボルネオ島北部のサバ州で個別に外国人4人を含む8人をテロ容疑で逮捕した。
このうちサバ州ではフィリピンのイスラム教武装組織「アブサヤフ」との関連でフィリピン人3人(うち1人はマレーシアの永住権を所持)とマレーシア人2人を逮捕した。容疑はアブサヤフのメンバーがフィリピンからボルネオ島に密入出国するためのルートの確保、維持を行っていたというもので、マレーシア国境の入国管理局職員を賄賂で買収し「密入国を黙認してもらう」ことも行っていた、という。
★アルバニア人大学講師も逮捕
また残る1人の外国人は35歳のアルバニア人で2012年にマレーシアの大学で法学博士号を取得、2014年から15年にかけてはクアラルンプールや隣接するクランバレーなどの大学で講師を務め、現在は地方の公立大学で法学講師として教壇にたっていた。
このアルバニア人は中東トルコで活動するISのメンバーと連絡を取っていた容疑がもたれている。治安当局によるとこの講師は、マレーシア人にトルコ経由でシリアに入りISのメンバーとなることを斡旋、仲介していたとされる。
さらにマレーシア人2人はそれぞれテロ組織のメンバーをリクルートしようとした容疑がもたれている。
うち1人(53)は2013年にテロ行為参加の罪で有罪判決を受けてペラ州タパの刑務所で服役中。イスラム教、キリスト教、ヒンズー教の宗教施設をターゲットにしたテロを計画し、それを実行するメンバーを刑務所内で勧誘した容疑で10月6日に逮捕された。
同じく10月6日に逮捕された残る1人(37)は、インドネシアを主な活動拠点とするJIと深く関連するとされるマレーシアのテロ組織「タンジム・アルカイーダ・マレーシア」のメンバーとして情報収集活動を行うとともに、2人のマレーシア人男性を同組織のメンバーとしてリクルートしていた疑いがもたれている。
マレーシアでは2015年12月にエジプト留学中にシリアに渡航してアルカイーダのメンバーとして活動、マレーシアに帰国した大学生が逮捕されているほか、同年11月には同組織の構成員とみられるマレーシア人6人が逮捕されるなど、アルカイーダ関連組織の活動は現在も続いている。
★テロ組織のデパート、マレーシア
こうした事例をみるまでもなく、マレーシアは複数のイスラム教系テロ組織の東南アジアでの主要な活動拠点と化している。
それも直接テロ行為を実行するのではなく、情報収集、メンバー勧誘、密入国ルート確保、資金・武器調達などの「兵站、リクルート、諜報」の主要な活動現場となっている。
この背景にはイスラム教国でありイスラム教徒が堂々活動できることに加えて、イスラム原理主義を掲げる政党「全マレーシア・イスラム党(PAN)」の存在が原理主義を許容する素地となっている。
さらにマレー系、インド系、中国系などが混在する多民族国家であること。アルカイーダやISなどの国際的テロ組織が活動を活発化しているフィリピンやインドネシアとの行き来が非合法を含めて容易であることなどが指摘されている。
2016年7月にバングラデシュのダッカで発生したレストラン襲撃テロでは日本人7人を含む20人が犠牲となったが、バングラデシュ人実行犯5人のうち2人がマレーシアの大学に留学経験があったことも忘れてはならない。
マレーシアはこうした状況から「テロの温床」「テロ組織のデパート」などという不名誉な呼び方をされるようになっているのだ。
こうした現状に加盟国が一致して「テロとの戦い」を進めている東南アジア諸国連合(ASEAN)としてもマレーシア治安当局との情報交換、協力体制確立で周辺国への余波、拡散予防に懸命となっている。
戒厳令下のフィリピン南部ミンダナオ島で続く武装テロ組織による地方都市占拠事件では組織メンバーの海外逃亡、支援者流入を阻止するために2017年6月からボルネオ島(インドネシア名・カリマンタン島)北東地域でフィリピン、インドネシア、マレーシアによる海域、空域での共同警戒監視活動も始まっている。
マレーシアが直面するテロの脅威はまさにASEANにとっても「今、そこにある危機」といえる。
【お詫び:2017年10月11日に掲載した記事「独裁者マルコスの再来か ドゥテルテ比大統領」は2017年9月18日掲載の「戒厳令全土へ?ドゥテルテ比大統領の野望」と同じものでした。お詫びして最新記事「テロの温床マレーシア 容疑者8人逮捕」に差し替えます。】
トップ写真)Royal Malaysia Police Facebookページより
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この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。
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