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.政治,.経済  投稿日:2017/10/19

日本を解凍する?少数株主シンデレラストーリー1


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト

 

「日本解凍法案大綱」という小説の寄稿の相談があったのが1年以上前だった。その時伺った構想に私はいたく感銘を受けたのを覚えている。それは私が今まで考えたこともないテーマだったからだ。目からうろこ、というがまさにそんな感じだった。

タイトルが言う通り、「日本を解凍」するストーリーなのだ。何のことかわからない、という向きにはとにかくこの物語を読んで頂きたいのだが、言い換えると、「日本経済の再起動」ということだ。

バブル崩壊後20年以上経ってなお、我が国は未だデフレのトンネルから完全に抜けたとはいいがたく、政府・日銀が目指す物価上昇2%の達成時期も見通せていない状況だ。アベノミクスも5年目になろうとしているのに、だ。

そうした中、一体どうやって日本経済を再起動するというのか。そのかぎがこの物語の中に隠れている。キーワードは「同族会社の少数株主」だ。

本小説の作者で、弁護士の牛島信氏に話を聞いた。

 

安倍:なぜ「同族会社の少数株主」が日本経済を再起動することになるのか、ピンとこないのですが?

 

牛島:この小説にはヒントがあるんですよ。

それが「大日本除虫菊」事件です。これは知っている人は知ってるんですけど、おばあさんの株を相続した人がいましてね。その人は4.99%の株しか持っていない、全然経営にタッチしてない人ですよ。0.49%の株を相続したのですが、配当もたいしてもらっていなかったし、相続税なんて安いものだろう、と思っていたら税務署から、あなたは相続で5%を超える株主になったから、あなたの株の評価額は1億6千万円です、税金1億円を納めて下さい、と連絡があったんですよ。

安倍:いきなりそんなこと言われたら腰抜かしますよね?その人は異議申し立てとかしなかったんですか?

 

牛島:そりゃあ大変だということで裁判をやったんですが最高裁判所まで争って、結局負けたんですよ。そういう事件。つまり、うかうかと同族会社の株を持ってて、たまたま会社の経営がいいと、マイホームを取られかねない、という話ですから。

安倍:それは怖い話ですねえ。

牛島:そうです。

でもそういうことが身に降りかかるまでピンとこない人が多い。

実際に、こんな例がありました。

一族で約42%の非上場・同族会社の株式を保有しているが経営に関与していない株主から、「株を捨てたい」という痛切な悩みの相談がありました。約11%の株を持っている方だったのですが、詳しい話をうかがうと、会社に対し、相続税対策のために一族が保有する株を買い取って貰いたいと頼んだら断られてしまって困っている。配当はほとんど無く、相続が発生した場合、相続税がすごく高くなるけれどとても支払えないから、何とかしたいという相談でした。

少数株と言っても一族で42%もの大株主であるにもかかわらず、株を捨てたいとまで言わせることに困っていらっしゃることがありありと伝わってきました。そこで、どうしてこのような株という財産を捨てたいという痛切な、通常考えにくい相談があったのか改めて事情を詳しくうかがってみました。

すると、このご相談には3つの、解決すべき問題点があることが分かりました。これを解決すれば、その根本は日本経済の再起動につながる!と思いました。

 

安倍:再起動ですか?具体的にはどういうことなんでしょうか?

 

牛島:1つ目は、非上場同族会社にコーポレート・ガバナンスが機能していないこと、2つ目は、現行の会社法の下では非上場同族会社の少数株主は会社に株式の買い取りを強制できないこと、3つ目は、硬直的な相続税の評価方法です。

 

安倍:まず、1つ目の非上場同族会社にコーポレート・ガバナンスが機能していないというのはどういうことですか?

 

牛島:非上場の、特に同族会社は、支配株主と経営者が一致していることが多く、他に少数株主がいても、その利益のために経営を行うという意識はまったく希薄であるということです。このような会社では、会社の利益は主に役員報酬に充てられ、剰余金の配当という形で株主に分配することはまれです。その結果、経営に携わっていない株主は会社から経済的利益をほとんど得ることができないという状況に放置されていることが多いのです。

 

安倍:少数株主としては、会社に不満があるなら株式を売却して資本を回収すればいいですよね。これが2つ目の問題点ですか?

 

牛島:理屈としてはそのとおりですが、非上場会社の場合はそれが難しいのです。法律の建前では、非上場会社の株も買主が見つかれば必ず売却できることになっています。しかし、誰にとっても非上場会社の少数株主となるメリットなど無いため、実際問題、買主を見つけることなどできないのです。

そこで、会社に買い取って欲しいと申し入れる株主もいますが、現行法の下では、会社に、株主からの申入れに応じる義務はないので、株主の側から株式の買取りを強制することはできません。結局は不当な安値で手放すことになります。

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安倍:3つ目の硬直的な相続税の評価方法についても教えて下さい。

牛島:非上場同族会社の株式を相続した場合、相続税の算定のために税務署は株式の評価をします。

非上場同族会社の株式の評価は、会社を支配する株主と単に配当を期待する株主とで異なります。会社を支配する株主にとっての株式の評価は企業支配価値に基づく原則的評価方式により、単に配当を期待する株主におけるそれは配当実績に基づく配当還元方式により、評価されます。配当還元方式による評価は、原則的評価方式に比べて非常に低い金額となります。

税務署は、親族(配偶者、6親等内血族及び3親等内姻族)で30%以上の株を保有している場合、その親族を同族株主と呼びます。同族株主に該当すれば、例え経営に関与しておらず単に配当を貰っているだけの親族であっても、相続後の保有割合が5%以上になれば、税務署は、会社を支配する株主として、相続税を課すことになります。

 

安倍:先ほどの大日本除虫菊ですね。

 

牛島:そうです。

非上場同族会社の株式については、今ご説明しました3つの解決すべき問題点があります。そのうち、株式の買い手が存在しないという問題点さえ解決できれば、第三者の株主が経営に関与することができ、非上場同族会社の経営のガバナンスは改善され、多額に積み上がった内部留保や凍り付いてしまっている不動産が流動化し、ひいては、日本経済を再起動できると考えています。

他にも、この間、ある地方のご年配の女性から突然私のところに「助けてください」ってメールが来たんです。

安倍:おだやかじゃないですね。

 

牛島:そう。で話を聞くと、夫のやっていた会社、今は息子が継いでいるんですが、その女性は会社の株を7%ばかり持ってたんですね。これまでは生活の足しにということで株を少しずつ息子に買ってもらっていたわけです。それが突然息子がもう買わない、株はもういらない、といってきた、と。

 

安倍:それは老後のこともあるしその女性、お母様ですか、は心細かったでしょうねぇ。で、なんでこちらに相談に来たのですか?

 

牛島:それはね、当然その方は地元の弁護士さんに相談されましたよ。でも、「あぁ、それはどうしようもないですよ。なんとか話して買ってもらうしかないんです。」と、こうだったそうです。

 

安倍:買ってくれないから相談しているのに無責任な(笑)

 

牛島:それでその方はわらをもつかむ気持ちで私どものところに来られた。で、結論から言うと、最終的に裁判官が間に入って、株を買い取りなさい、とその息子に命じたんですね。いい和解をしてくれました。この経験からこういう例はほかにもたくさん溢れているんじゃないか、と思ったわけです。

 

安倍:つまり泣き寝入りしている人がたくさんいる、と?

 

牛島:そう。こうしたケースの救いの無いところは、相談しようにも分かる人がいないってことなんですよ。株の評価額が比較的高い非上場の会社で、後継者もいない、じゃあ、どうやってこの会社をつぶさないで残そうかということには皆関心を持つんです。例えば地方銀行や信用金庫などは、そういう会社に相続税対策やらないとあなたの会社潰れちゃいますよ、と相談に乗りますよね。いわゆる事業承継。

 

安倍:でもさっきの女性みたいな非上場会社の少数株主は蚊帳の外ってこと・・・

 

牛島:そうです。その事業承継の陰に隠れている全国250万の非上場会社、まあ、そのうち、実際に活動しているのは100万社くらいとして、その会社の少数株主って全然報われてないわけですよ。涙金みたいな配当があればまだまし、配当すらないところも多い。そして始末の悪い事に本人も株主としての権利を持っているという意識がないケースが多いんです。

 

安倍:ええっ?そんなことあるんですか?

 

牛島:ありますよ。この小説に登場する会社、元はおじいさんが興した運送会社という設定です。で、当時は得意先もあるし、色々出資してもらっていろんな事業やっていたんだけども、ある時もう運送会社も見込みがないから、と不動産管理会社にしちゃった。でも、運送会社の時代に出資した人たちは株主として残っているわけです。

 

安倍:事業の形態も時の流れとともに変わって・・・出資したことも忘れている人がいるってことですか?

 

牛島:そうです。株主としての権利を持っているのに、その自覚がないことが往々にしてあるってことです。自覚がないまま、無視されたまま。ところが株主権っていうのがありましてね、それは時効で消滅しなんです。

 

安倍:ほう、そこにこの問題の本質があるような気がしますね。

 

(その2に続く)

画像:Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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