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.経済  投稿日:2018/1/3

中長期的な社会保障・税制の姿示せ【2018:財政】


小黒一正(法政大学教授)

【まとめ】

・2018年のイベントは、「消費税率10%引き上げに関する政治判断」と「財政健全化フレームの見直し」。

・2015年度で約50兆円の医療・介護費は25年度に約75兆円に膨らむ。

・2018年の財政健全化フレーム見直しで、中長期的な社会保障・税制の姿を示す改革案の検討期待。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37857でお読み下さい。】

 

明治維新から150年目の節目である2018年は、日銀総裁人事(交代か留任か)、自民党の総裁選新元号の決定等があるが、財政も大きなイベントがある。一つは、2019年10月に予定する消費税率10%への引き上げに関する政治判断であり、もう一つは財政健全化フレームの見直しである。

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▲写真 日銀黒田東彦総裁 flicker:Asian Development Bank

2020年度に国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランスを黒字化する目標は断念したものの、後者の財政健全化フレームの見直しについては、先般(2017年12月8日)、政府は、人づくり革命と生産性革命を柱とする「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定し、以下の文書を盛り込んでいる(下線は筆者)。

消費税率引上げ分の使い道の見直しにより、国・地方のプライマリーバランスの黒字化の達成時期に影響が出ることから、2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成は困難となる。ただし、財政健全化の旗は決して降ろさず、不断の歳入・歳出改革努力を徹底し、プライマリーバランスの黒字化を目指すという目標自体はしっかり堅持する。この目標の達成に向け、これまでの経済・財政一体改革の取組を精査した上で、来年の「経済財政運営と改革の基本方針」において、プライマリーバランス黒字化の達成時期、その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示すこととする。

また、12月19日に閣議了解した「平成 30 年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」でも、以下の文書を盛り込んでいる(下線は筆者)。 

財政健全化については、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指すという目標を堅持し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。この目標の達成に向け、これまでの経済・財政一体改革の取組を精査した上で、来年の「経済財政運営と改革の基本方針」において、プライマリーバランスの黒字化の達成時期及びその裏付けとなる具体的な計画を示す。平成30年度予算は、「経済・財政再生計画」における集中改革期間の最終年度であり、同計画に掲げる歳出改革等を着実に実行する。

なぜ、財政健全化の旗を降ろしてはいけないのか。それは、社会保障費の増大が今度も財政を圧迫するためである。今回の2018年度予算では、社会保障関係費が過去最大の33兆円に達したことが一つの話題となったが、国と地方の公費や保険料で賄う社会保障給付費は約120兆円に達する勢いである。

このうち、年金は約60兆円、医療は約40兆円、介護は約10兆円であるが、社会保障給付費は、ここ10年ほどの間で、消費税1%の増税分に相当する毎年平均2.6兆円のスピードで増加している。特に、団塊の世代が75歳以上となる2020年度から25年度において、医療費や介護費が急増することが予測されている。

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▲写真(イメージ) 出典:Pixabay

医療費や介護費の急増は、国が負担する公費(=社会保障関係費)の増加を通じて、日本財政を直撃する。例えば、65歳から74歳の前期高齢者一人当たり医療費55.4万円のうち国が負担する公費は約7.8万円であるが、75歳以上の後期高齢者一人当たり医療費90.7万円のうち国が負担する公費は約5倍の35.6万円である。

また、前期高齢者一人当たり介護費5.5万円のうち国が負担する公費は約1.5万円であるが、後期高齢者一人当たり介護費53.2万円のうち国が負担する公費は約10倍の14.5万円である。

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▲写真(イメージ)出典:Pixabay

つまり、いま一人の前期高齢者がさらに歳をとって後期高齢者になると、医療費・介護費で国が負担する公費は40.8万円増加する可能性を意味する。このため、75歳以上の人口増加に伴って医療・介護費には膨張圧力が加わる。

では、75歳以上の人口はいつまで増加するのか。国立社会保障・人口問題研究所の平成29年人口推計(出生中位・死亡中位)によると、75歳以上の人口がピークとなるのは2054年である。このとき、75歳以上の人口は2449万人で全人口の24.9%、つまり4人に1人が後期高齢者となる。2017年の後期高齢者は1749万人(全人口の13.8%)であるため、38年間で700万人も増える。

厚労省の「社会保障に係る費用の将来推計について《改定後(平成24年3月)》(給付費の見通し)」では、2015年度で約50兆円の医療・介護費は2025年度に約75兆円に膨らむと予測している。

2018年度予算の編成では、薬価は引き下げる一方、診療報酬は引き上げており、社会保障関係費の伸びを5000億円に抑制するという数字合わせに終始してしまった感も否めない。

日銀の異次元緩和で長期金利が抑制でき、財政規律が緩みつつあるが、日本財政は厳しい。東京オリンピックが終了する2020年以降では、日本経済や財政を取り囲む環境や景色は激変するだろう。

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▲写真 新国立競技場完成予想図 出典:日本スポーツ振興センター

2020年代前半のプライマリーバランス黒字化達成に向けて、増税判断をしっかり行う必要があることはいうまでもないが、2018年に予定する財政健全化フレームの見直しでは、中長期的な社会保障・税制の姿を示しつつ、一段踏み込んだ改革案の検討を期待したい。

トップ画像(イメージ):出典 Pixabay


この記事を書いた人
小黒一正法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。

小黒一正

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