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.国際  投稿日:2017/12/31

選挙の年、各国混戦模様【2018:アジア】


 

大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

マレーシア:総選挙はマハティール元首相率いる野党連合の動きがカギ。

カンボジア:野党弾圧の結果、与党勝利が確実。

タイ:2018年中に総選挙行われるかどうか不透明。

インドネシア:2019年総選挙・大統領選、ウィドド大統領の再選の可能性高し。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明や出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37753で記事をお読みください。】

東南アジアの2018年は「政治の年、選挙の年」となる。マレーシア、カンボジアにおいては国政の重要な総選挙を迎えると同時に、民政移管のタイミングを計っているタイ軍政の動向からは目が離せず、さらに2019年の大統領選、総選挙を控えたインドネシアでは本格的な政治の年を迎える。

 マハティール元首相が鍵のマレーシア

 6月24日に任期満了を迎えるマレーシア議会はその後60日以内の総選挙実施が規定されているため、遅くとも8月22日までの総選挙実施が確定している。

与党連合「国民戦線(BN)」を率いるナジブ首相は2017年以来総選挙に打って出るタイミングを計っているものの、首相自身が巻き込まれている政府系ファンド「1MDB」の汚職疑惑を国民に追及されている。さらに、与党を離党したマハティール元首相が野党連合に加わり、マハティール政権の主要閣僚でもあったナジブ首相への批判を強めるなど、反ナジブ勢力の結集を求めていることがナジブ政権に危機感をもたらせているという。

ナジブ大統領

写真)マレーシア ナジブ首相 flickr:Firdaus Latif

このためナジブ政権は2017年10月の予算編成では補助金などを手厚くする「バラマキ予算」で国民の支持拡大を狙う一方で、マハティール元首相の演説での発言を問題化するなど反転攻勢を強めている。

マハティール元マレーシア首相

写真)マハティール元マレーシア首相 flicker: amrfum

マハティール元首相は仇敵のアンワル・イブラヒム元副首相とも歴史的和解に漕ぎつけて野党連合を結成、総選挙で野党が勝利した場合の首相候補にも挙げられるなど、マレーシア総選挙はかつてマハティール政権を支えた顔ぶれが入り乱れた激戦が予想されている。

 野党弾圧のカンボジアで下院総選挙

 カンボジアでは、7月29日に下院の総選挙が実施される。当初は野党「救国党(CNRP)」が、長期独裁政権を維持するフンセン首相率いる与党「人民党(CPP)」にどこまで議席数で迫り、政権交代の道筋がみえるかどうかが最大の焦点とみられていたが、人民党の勝利が確実な情勢となっている。

フン・セン首相

写真)カンボジア フン・セン首相 出典)World Economic Forum

というのも2017年6月に実施された統一地方選挙で人民党が勝利したものの、救国党が予想外に議席を伸ばした。それを受け、国政レベルにその勢いが及ぶことに大きな危機感を抱いたフンセン首相が野党勢力への封じ込め、弾圧強化に踏み切ったからだ。

救国党で20年以上に渡って党首を務め、民主化運動のシンボルとされ国民の支持も強かったサム・レンシー党首が、政権側の意向を受けた治安当局の逮捕を逃れるため、2015年以来フランスに避難している。

レンシー元救国党党首

写真)サム・レンシー元救国党党首 2013年10月 Photo by Heng Reaksmey

後任の党首ケム・ソカ氏は2017年9月3日、反逆罪容疑で逮捕され、11月16日には最高裁から救国党の解党命令、同党幹部118人の政治活動禁止令が出された。この前後から当局の逮捕を逃れるため多数の救国党議員が国外に脱出、事実上救国党は消滅する事態になってしまったのだ。

米政府は「選挙に正当性も公平性も望めない」とフンセン首相を批判しているが、経済支援による中国の強力な後ろ盾を得ている同首相は全く意に介さず、国際社会からは「民主主義の死」「暗黒の独裁政権」との集中砲火を浴びている。

こうした経緯から、下院総選挙そのものは「無風」で与党圧倒的勝利が見込まれているものの、不測の事態が起きる可能性もあり、緊張が高まることは間違いない。

 軍政の民政移管時期判断が焦点

 タイは2014年5月のクーデターによって、当時のインラック首相から政権を奪取したプラユット首相率いる軍政が続いている。

インラック元首相

写真)タイ インラック元首相 2012年9月 出典)ロシア大統領府

軍政は当初、早期の下院総選挙実施での民政移管を主張していたが、政治的不安定に加え2016年10月にプミポン国王が死去、約1年の服喪などで民政移管が大きくずれ込んでいる。

プラユット首相

写真)タイ プラユット首相 出典)Flickr:by Prachatai

国外に脱出したインラック前首相、タクシン元首相を支持する勢力の動向、爆弾テロなどの社会不安を勘案しているとされる軍政が、2018年に総選挙を実施するかどうかも不透明だ。国民は軍政下で低迷する経済からの脱出には早期の民政移管が不可欠としているものの、ワチラロンコン国王の意向、民政移管後も政治に影響力を残したい軍政の思惑なども入り乱れて、2018年のタイ政治からは目が離せない状況が続く。

 大統領選に向け本格始動のインドネシア

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国・インドネシアは2019年に総選挙、大統領選が予定されているが、庶民派として人気の高い現職のジョコ・ウィドド大統領の再選の可能性が高くなっている。しかし、前回大統領選で惜敗した野党グリンドラ党の指導者、プラボウォ氏が、捲土重来を期してユドヨノ前大統領との関係強化、出身母体である国軍内部の人脈作りで虎視眈々と政権奪取を狙っている

グリンドラ党党首

写真)インドネシア プラボヴォ・スビアント グリンドラ党党首 出典)公式Facebookページ

地方自治体の首長選も控えており、大統領選・総選挙の前哨戦として各政党が力を入れており、2018年は政治の年となるのは確実だ。

トップ画像:インドネシア ジョコ・ウィドド大統領 出典)ジャカルタ州政府


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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