金正男氏、暗殺4日前米情報機関員と接触?
大塚智彦(Pan Asia News 記者)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・金正男氏殺害4日前に米国人と面会していたことが明らかになった。
金正男氏が殺害される4日前に米国人と面会していたことが明らかになった・タイ・バンコク在住の韓国系米国人とされ、米情報機関と関係があったとの報道あり。
・ このままでは実行犯2被告だけが有罪となり「スケープゴートによる幕引き」の懸念あり。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=38302でお読みください。】
北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で2017年2月13日に猛毒神経剤VXガスで殺害された事件の公判が1月29日にクアラルンプールの裁判所で開かれ、新たに金正男氏が殺害される4日前に米国人と面会していたことが明らかになった。
これは同日の公判で証言に立ったマレーシア警察の警察官が被告側弁護士の質問に答える形で明らかにした。証言によると、金正男氏は殺害の4日前にあたる2017年2月9日にマレーシア北西部アンダマン海にあるリゾート島ランカウイで米国人と面会していたという。
写真)ランカウイ島
出典)Pixabay フリー写真
警察官は面会相手の米国人の名前、滞在先のホテルなどは明らかにしなかったが、この米国人はタイ・バンコク在住の韓国系米国人とされる。一部報道ではこの韓国系米国人は米情報機関で働く、あるいは米情報機関に情報提供する立場にあったといわれ、金正男氏との面会がなんらかの政治的目的があったことは確実とされている。
金正男氏は旅券の出入国記録から同年2月6日にマカオからマレーシアに入国したことが分かっているが、何日にランカウイに向かったのかは不明という。
米国人との面会後の2月12日にはランカウイからクアラルンプールに金正男氏は戻り、暗殺当日の13日、マカオに渡航するために空港に赴き、殺害された。
同裁判では金正男氏の顔面にVXガスを塗り付けた暗殺の実行犯としてインドネシア国籍のシティ・アイシャ被告とベトナム国籍のドアン・ティ・フォン被告の2女性が逮捕され、殺人容疑で起訴され公判が続いている。裁判で有罪となれば最高刑は死刑もありうる。両被告は逮捕直後から、「テレビ局のドッキリ番組の収録だと信じていた」として無罪を主張している。
被告弁護側は事件に関与し、金正男氏殺害を指示したとされる北朝鮮大使館員を含む複数の北朝鮮国籍の男性らがいずれも事件発覚後にマレーシア政府の特別措置もあり、北朝鮮にすでに帰国しており、法廷での証言が全く得られないとして「公平性からも問題がある」と指摘してきた。
弁護側によるとこのままでは実行犯の2被告だけに有罪判決が下され、「スケープゴートによる幕引き」の懸念があると主張している。
今回の警察官による金正男氏と米国情報機関となんらかの繋がりがある米国人が殺害直前にランカウイ島で面会していたとの証言で、この面会を察知した北朝鮮側がなんらかの理由で金正男暗殺の最終決断を下した可能性も浮上、今後の裁判で弁護側はさらにこの米国人と金正男氏の関係について詳しい供述を求めるものとみられている。
米政府、米情報機関は金正男氏の動向を把握し、情報が少ない金正恩委員長や政権中枢の情報を金正男氏から不定期的に得るために接触をしていた可能性も指摘されている。このため、今回の面会が「暗殺の早期実行」に関係していたとしたら、米情報機関にとっては大きな失態にもなりかねない。
事前に日本のメディアがこの面会の件を報道したことやこのような背景もあり、米CNNテレビなど米メディアは29日の公判の様子を詳しく伝え、米側の関心の高さを示していた。
TOP画像:クアラルンプール国際空港出発ホール 出典)photo by Morio
あわせて読みたい
この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。