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.社会  投稿日:2018/3/21

何のための東京五輪?その3 真の復興五輪たれ 東京都長期ビジョンを読み解く!その59


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・結果オーライじゃない五輪を。レガシーはどこまで議論されたのか?

・サスティナビリティ五輪からもほど遠い。

・3.11から7年。復興五輪の理念はどこにいったのか?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39072で記事をお読みください。】 

 

■ 五輪の意義・価値

現代オリンピックの精神は人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させ、均衡のとれた総体としての人間を目指すものだそうだ。人間の尊厳保持に重きを置いた、平和な社会を推進することにもある。

しかし、この精神は理解されているのだろうかと疑問になることも多い。日本社会や国民が想定している東京五輪の意義・価値というと・・・・

・施設・道路交通インフラなどの整備・更新 

・都市開発(湾岸エリア、競技施設周辺)

・経済効果・雇用増加(事前の土木・建設、イベント・PR/広告宣 伝、観光、スポーツ関連産業など)

・国内の盛り上がり、国威発揚、ナショナリズム高揚

・スポーツ振興・関心増大

・文化振興・国際交流

・コーチや選手育成システムへの称賛、故郷に錦を飾るお話

・お涙頂戴ストーリーでの全国民の感動

といったものだろう。精神的なもの、理念的なものを考えるのは苦手な国民だが、それにしても、「価値」について、評論家や有識者から問題提起も少ない。「盛り上がり」空気至上主義と言ったら言い過ぎだろうか。

それは仕方ないことかもしれない。しかし、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会はまっとうな大会ビジョンを掲げている。それは「スポーツには世界と未来を変える力がある」ということ、そして、「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」という3つの基本コンセプトを掲げている(以下図1)。

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▲図1 大会ビジョン

この理念は本当に素晴らしい。世界と未来を変える力としては、子供の夢、協力・チームワーク、健康、努力の尊さ、競技の高度な技術、人材育成、人の交流などなどスポーツの力がある(参照)。しかし、そうしたことは語られていない。そして、その理念がどのように具体的な活動や内容に反映されるのか、そして、言語化されて価値として人々が受け入れるか、社会に定着していくのか、も明らかになっていない。

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▲写真 建設中の国立競技場 2018年2月 Photo by 晴耕雨読 @黄昏の番犬 さん

 

■ 結果オーライじゃない五輪を。どこまで議論されたレガシー?

レガシー、つまり、遺産。

アクション&レガシープランによると、2020年大会は「東京・日本がオリンピック・パラリンピックとどう向き合うか」、そして「復興に寄せられた世界中からの支援にどう感謝の意を示すか」「スポーツが復興・社会に寄与する姿をどう発信するか」等が問われるそうだ。

結果オーライではなく、早い段階から、東京2020大会を、東京・日本にとってどのような意義のある大会とするのか考えていく必要があるのではないか」(P6)という問題意識が記載されている。まさにそう。本当に素晴らしい。

「できるだけ多くの人が参画し、多くの分野で東京2020大会がきっかけとなって変わったと言われるような、広がりのある大会となるようにする」という記載にも賛同する。レガシーを1つ取り出し、細かく見てみよう。

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▲図2 レガシー「スポーツの力でみんなが輝く社会」(P28)

:誰もがスポーツを「する・観る・支える」社会に向けたレガシー:

「スポーツ参画人口が拡大」「『スポーツ』関連の産業分野が振興」「健康な人が増加」

:アスリートが活躍する社会に向けたレガシー:

「アスリートの『総合力』が向上」「競技(スポーツ界)以外で社会の様々な場で幅広く活躍」「スポーツ・インテグリティ(スポーツの高潔性)保護の認識や取組が向上」

:パラリンピックを契機とした共生社会に向けたレガシー:

「障がい者スポーツに対する認知度が飛躍的に向上し、ファンや支え手となる人が増加」「障がいのある人もない人も、身近な地域で日常的にスポーツに親しむことのできる環境整備が進展」「障がい者への理解が深まり、ハード面のバリアフリー化だけでなく、『心のバリアフリー』が浸透し、共生社会の礎を形成」

レガシー「スポーツの力でみんなが輝く社会」は3つのレガシーから構成されるようだ。前回東京五輪の「ハード」と比較して「ソフト」のレガシーなのだろう。しかし、全く意味不明だ。

単なる政策目標や事業成果みたいなものが並んでいて、中には「飛躍的に向上」とか希望的観測の文言もある。共通の価値観・理念、スポーツの価値や意味が語られていない。さらに、価値観的な文言がみられるが、国民栄誉賞のレジェンドがパワハラにあっているという内閣府への告発があったり、“国技”の相撲で横綱が引退せざるをえない暴力事件が起きたり、そんな事態が多発する日本のスポーツ界の現状で、「スポーツの高潔性」という言葉はむなしく響くだけだろう。

その他のレガシーを見ても、レガシーがどこまで議論されているのだろうか疑問である。今からでも遅くない、国民的対話・議論をすべきだと個人的には思う。

 

■ サスティナビリティ五輪までの道のりは遠い!

オリンピックの精神とは「スポーツを通して心身を向上させ、文化・国籍などさまざまな違いを乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって、平和でよりよい世界の実現に貢献すること」だ。

「スポーツ」と「文化」に、近年「環境」が加わり、オリンピックは世界中の人々が地球環境について考える機会にもなったとされる。この3つ目の柱とされる環境、特に「サスティナビリティ(持続可能性)」を重視することの重要性が増している。

レガシーとしても「持続可能な低炭素・脱炭素都市の実現」、「持続可能な資源利用の実現」、「水・緑・生物多様性に配慮した快適な都市環境の実現」、「人権・労働慣行等に配慮した社会の実現」、「持続可能な社会に向けた参加・協働」が明記されている。

しかし、ロンドン、リオデジャネイロ五輪でのサスティナビリティの取組み(以下図3)と比較するとかなり遅れている。相当努力しないとレガシーとして残るのか、微妙だと言わざるを得ない

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▲図3 サスティナビリティの取組み *西村作成

それは木材。新国立競技場建設において、環境破壊や人権侵害の疑いのある熱帯材(マレーシア・サラワク州の、面積が減少しつつある熱帯原生林で違法伐採されたもの)を使用したと環境NGOから批判を受けたのだ。

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▲写真 マレーシア ボルネ オサバ州で、大規模なアブラヤシプランテーション開発により浸食される熱帯雨林 Photo by T. R. Shankar Raman

サラワク州の伐採業者シンヤン社は貴重な原生林を組織的に伐採し、先住民族の人権侵害につながっている疑いがある。そもそも、日本は世界最大の熱帯合板の輸入国であり、日本の輸入合板の約9割はマレーシアとインドネシアから輸入している。(2016年木材輸入実績)建設現場で使われるコンクリートパネル用の合板の大半はマレーシアのサラワク州から供給され、合板はいかなる持続可能性基準も満たしてはいないとされる。

しかし、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は「持続可能性に配慮した木材の調達基準」を制定し、使用木材については、「実現可能性を確保するために木材貿易の実際のビジネス慣行を考慮」すると説明。NGOの懸念に対してきちんと対応できていない。そして、この問題、先住民族リーダーが日本の安倍首相に嘆願という事態になっている。

持続可能性とか、国際基準とか、サプライチェーン、人権侵害とか、この国は国際的な基準などにおいては先進国とは言えないから仕方ない。

3.11から7年、7万人の避難生活者。「復興五輪」の意味についても意味付けできていない。正念場だろう。

トップ画像:©Tokyo 2020


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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