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.政治  投稿日:2018/11/12

追尾式機雷は琉球列島封鎖の役に立たない


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・日米は宮古海峡封鎖に機雷を用いる

・しばしば言及される追尾式機雷は阻止能力や在庫の問題から使われない。

・実際に使われるのは在来型の磁気・振動・触発の繋維機雷となる

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42793でお読みください。】

 

日米は琉球列島線での封鎖を目論んでいる。宮古海峡ほかで戦時において中国艦隊の外洋展開を阻止妨害する。そのようなアイデアだ。冷戦期に構想された三海峡封鎖のリバイバルである。

封鎖に関しては追尾式機雷の活用が主張される。これは誘導魚雷を内蔵した機雷である。米国製の名前をとってキャプター機雷とも呼ばれる。探知目標に魚雷を発射する方式のため待受面積が広い。直径2-4kmと通常機雷でカバーされる面積の1万倍に及ぶ。そのため海峡封鎖が話題となる際には識者により「キャプターが使われる」「活用すべき」と持ち出されることが多い。

しかし、追尾式機雷は琉球列島線封鎖の役には立たない。

それはなぜか?

整理すると次の3つである。まずは中国水上艦攻撃には使えないこと。また中国潜水艦への有効性も失われたこと。なによりも退役しており現物は存在しないことだ。

 

■ 追尾式機雷は水上艦攻撃には使えない

まず追尾式機雷は中国水上艦の阻止には使えない。追尾式機雷は潜水艦向けだからだ。戦時において中国軍艦や商船の通過を阻害する能力はない。(*1)

これはキャプターの用途で明らかである。封入されたMk46短魚雷は潜水艦攻撃専用だ。水上艦攻撃用ではない。

▲写真 Mk46短魚雷、キャプターの中身としても用いられた。対潜水艦用であり直径32センチ、2.5m、200kg超と小ぶりである。水上艦船には命中しないように設定されており実際にフォークランド紛争でアルゼンチン浮上潜水艦に発射したところ船底を素通りした。 出典:U.S. Navy Public Domain (photo by Justin R. Pacheco

短魚雷は原理的に潜航潜水艦だけを捜索・追尾する。軍艦や商船といった水上艦船は誘導・追尾しない。また味方水上艦への危険防止のため最低水深が設定されている。水上艦船の喫水水深まで魚雷を上昇させない。そのような制限がかかっている。

▲図

その上、破壊力も不足している。Mk46は火薬量40kg程度だ。これは水上艦船を攻撃用と比較すると1/5~1/7でしかない。しかも短魚雷の信管動作は直撃/近接モードのみだ。水上艦船攻撃に最適な艦底起爆モードはない。

 

■ 潜水艦用としても能力不足

また、潜水艦攻撃用としても能力が不足している潜水艦静粛化に対応できなくなったためだ。各国潜水艦はほぼ無音化している。そのため追尾式機雷は潜水艦探知や魚雷発射のタイミング判断ができなくなった。

追尾式機雷のセンサや判定ロジックは比較的単純だ。例えばキャプターでは音響センサはカプセル頭部に簡易小型のタイプが一個あるだけだ。

以前はそれで問題はなかった。目標潜水艦は大騒音だった。「潜水艦か否か」「射程内かどうか」の判定は容易である。騒音の大きさと周波数分布で機雷は「潜水艦まちがいなし」と判断できた。(*2) また騒音レベルだけでも距離は概算できドップラー・シフトの変化点で最接近も判断できた。そのタイミングで魚雷を発射すればすればよかった。

静粛化によりそれが困難となった。特に電池航行する在来潜水艦は空調雑音を含めてほぼ無音化している。依然として低能力のままの追尾式機雷のセンサでは対処しがたい。まず探知距離そのものが小さくなっている。また受音音量そのものが小さいため潜水艦判定や距離・最接近判断も厳しい。

センサの高級化改良は非現実的だ。機雷缶サイズから大型のセンサはつけられない。また発音-反射波による距離測定は電力を消費する。つまり長期間の待受ができなくなる。なによりも安価といった機雷の長所を殺すからだ。

時代遅れになったということだ。中国潜水艦も静粛性を向上させている。その点で追尾式機雷は海峡封鎖に役立つ兵器ではなくなっている。

 

■ 現物機雷の在庫はない

最後が実物不存在である。キャプター機雷はすでに米国機雷の在庫にはない。また日本も追尾式機雷は作っていない。キャプター機雷はすでに退役状態にある。機雷は1970年代末から80年代にかけて4678ヶ製造され、88年以降に小改修を受けた。だがあとはそのままだ。兵器としても90年代後半から露出が減り00年代にはほぼ話にも上らない。そして10年ころには在庫からなくなった。(*3)

日本は最初から作っていない。80年代以降、自衛隊は複雑巧緻な機雷の開発を続けた。上昇式機雷を実用化し自走式機雷も試作した。だが追尾式機雷は作らなかった。これは間違いなく効果に関する判断の結果だ。対潜用としても効果は見込めない。将来的にさらに静粛化する潜水艦には対抗できない。そのように判断されたのだ。この点でも追尾式機雷による封鎖は行われないのだ。

▲写真 クイックストライク機雷。P-3Cにクイックストライク魚雷MK-65を装備する兵士。(沖縄 2005年2月17日)米機雷は多様性を欠いている。キャプターや潜水艦から軍港を狙う自走式機雷SLMMは廃止された。残る近代的機雷は写真のクイックストライク系航空機雷だけとなっている。海底に沈む沈底式のため大水深には使えない。 出典:U.S. Navy  Public Domain(photo by Photographer’s Mate 3rd Class Shannon R. Smith)

 

■ 使用されるのは磁気機雷ほか

もちろん封鎖において機雷は活用される。

なによりもそれに向く兵器である。機雷は休まない。設定次第だが365日24時間不眠不休で動作する。この点で併用される哨戒機や水上艦、待ち伏せ潜水艦よりも優れる。また確実性も高い。特に磁気機雷や触発機雷は動作不良はない。爆発威力圏に入った艦船に対して確実に動作する。

このため琉球列島線での封鎖でも用いられる。戦時には間違いなく機雷原が構成される。実際に旧軍も機雷堰を作った。繋維(けいい)触発機雷で琉球列島線に長大な機雷線を構成し米潜水艦の東シナ海侵入を防いだ。

だが、そこで追尾式機雷の活用はない。その点で「キャプター機雷が使われる」意見は誤っている。

宮古海峡等で使われるのは確実性が高い在来型の機雷である。まずは垂直/三軸磁気感応をメインとする戦後型の繋維磁気機雷であり、または第一次世界大戦型の繋維触発機雷である。あるいは低周波/振動感応も使われる。これらは待ち伏せ面積は小さいが対象艦船を選ばず確実に動作する。威力も強力であり価格も安い。

▲写真 繋維(けいい)機雷。宮古海峡封鎖のような防勢的機雷原では繋維触発機雷が復活する可能性もある。極めて安価であり動作は確実、肥料水準の水雷用火薬さえあれば町工場でも大量生産可能だからだ。写真はドラム缶の下に隠されたイラク製LUGM-145。中身は帝政ロシア1908年式と大差はない。 出典:U.S. Navy Public Domain(Photo by Richard Moore)

場合によれば新型も使われる。アテにならない音響型ではなく磁気型の上昇機雷が存在していれば多用される。あるいは電位差を感知するUEP感応機雷も混用される。しかし、そこには追尾式は含まれない。

 

*1 例えば開発当時のニューヨークタイムスには「キャプターは水上艦は無視する」とある

Finney,John “Navy Torpedo Mine Hunt Down Subs” “New York Times”1974.4.15,p.16

*2 実際は別の潜水艦判定ロジックもあっただろう。例えば機雷に到達する潜水艦騒音は直接波と海面反射波の二経路がある。その干渉で生まれるウネリ音を利用して潜水艦か水上艦船かは判断する。そのような仕組みだ。

*3 Polmar,Truver ‘Weapons That Wait…and wait’ “Proceedings”June 2011,USNI,87.p.86-87.

トップ画像:Mk60機雷“CAPTOR”。60年代にGIUKギャップでのソ連潜水艦阻止のために構想された機雷。実際のところ米軍はウラジオストックやムルマンスク軍港の前面に敷設するような攻勢的運用も考えていただろう。 出典:U.S Air Force Public Domain(Photo by STAFF SGT. RUSS POLLANEN)


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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