.政治  投稿日:2018/12/1

陸自のAH-Xを分析する その2

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清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

陸自・航空部隊の予算は逼迫。

・調達、運用コストカットには既存機の輸入か?それとも・・・。

・大きな障害を抱えるネットワーク化に打つ手はあるか?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て掲載されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43061でお読みください。】

 

前回は陸自のAH-X(次期攻撃/武装ヘリ)について現時点での分かっていること、特に日本メーカーが提案するであろう武装ヘリ、軽攻撃ヘリについて述べた。今回は主として外国製の攻撃ヘリと陸自の航空部隊の予算事情などについて述べる。

AH-Xの仕様要求で陸自が専用の攻撃ヘリよりも、安価な既存機を武装化した武装ヘリに傾く可能性は小さくない。陸自のヘリ部隊の予算は逼迫している。現在陸自のヘリの稼働率は、公表はされていないが、関係者によると平均で6割程度に過ぎないという。これは整備予算が減らされていることが大きいという。

飛行時間も10年ほど前は年220時間程度だったものが、現在では年120時間程度に減らされているという。常に災害派遣という「実戦」に投入される可能性がある汎用ヘリの稼働率維持が優先され、戦闘ヘリや偵察ヘリの稼働率は後回しにされる傾向がある。

▲写真 FFOS(遠隔操縦観察システム) 出典:著者撮影

しかも陸自は現在ティルトローター機、V-22オスプレイ17機を調達中である。その調達費用3600億円は、概ね陸自のヘリ調達予算300億円の10~12年分である。またオスプレイ1機の整備費は1機年間約10億円といわれており、17機ならば170億円だ。対して陸自のヘリの整備予算は年間210~220億円程度に過ぎない。オスプレイが揃えばその2/3を喰うことになる。

▲写真 V-22オスプレイ 出典:the United States Marine Corps(Public Domain)

更には2セットで調達・運用費が8,000億円以上は掛かると言われているイージスアショアの導入も予定されている。そうなればただでさえ不足している維持整備費は逼迫を免れない。当然ながらAH-Xや次世代の偵察ヘリの調達予算も圧迫される。実際に2018年度予算で陸幕は航空機を含め装備の調達が抑制され、維持整備費を増額している。調達される機体はV-22、4機のみである。陸幕では航空隊の維持整備の確保のためにAH-Xの調達及び運用コストをできるだけ抑えたいという事情があるのだ。

▲写真 イージス・アショア 出典:USNI News(Public Domain)

であれば、安価な武装ヘリで済ませようということも、ある意味現実的な選択であると言えよう。このため各社とも汎用ヘリの武装型をAH-Xの候補と考えてきた。一般に攻撃ヘリより武装ヘリは安価である。これを導入し、輸送任務には武装を降ろして対応し、デュアルユースで運用すれば機数を減らして運用コストも下げようという考えも陸幕には存在する。

だが現実はそう簡単では無い。MHI、KHI、スバル三社とも武装ヘリの火器管制装置を開発した実績がなく性能に不安がある。またAH-Xの調達は少数、恐らくは30~40機程度であり、1機あたりの武装型の開発費は極めて高価になる可能性がある。このため汎用ヘリを利用して安くあげる、というコンセプトを実現できなくなる可能性がある。また武装ヘリと汎用ヘリを完全に両用で運用するのは訓練の面からも問題がある。

単に「安価な武装ヘリ」を求めるのであれば、UH-XやUH-60などの中型汎用ヘリよりも、より調達運用コストの低い偵察用ヘリと共用化する方が合理的だ。そうであればOH-1やOH-6Dの後継の偵察ヘリを採用し、武装ヘリを共用化する方がコスト面では有利となろう。またコスト削減という意味では国産ではなく、既存機の輸入に切り替えるべきだ。

▲写真 南アフリカ空軍・BK117 出典:著者撮影

現実問題として軽輸送や連絡に使われている観測ヘリが激減しており、これらの任務に支障がでている。AH-Xよりもむしろ観測ヘリの更新が必要では無いか。その場合旧式化したOH-6Dは勿論、全機が飛行停止から復帰するに10年はかかり、観測機能も低いOH-1も全機廃棄して、新たな観測ヘリを導入し、これの武装型を当てるというのも合理的である。

例えばOH-1、OH-6の後継機として武装型が存在するエアバスヘリの双発のH135Mを導入し、その一部を武装型とするならばLCCは大幅に低減されるだろう。武装化には同社のHフォースという武装キットを使用する。この場合新たな開発費が必要無い。H135Mの民間型は日本国内でも広く使用されており、海自も民間型のTH135を練習機として採用している。整備拠点も存在するので初度費もさしてかからない。

▲写真 airbusH135M 出典:Airbus

また既存のOH-6を延命化する、一部を追加調達するという手もあるだろう。OH-6にはボーイングの武装型のAH-6iが存在する。この場合既存の整備や訓練インフラを流用できる。陸自の既存のOH-6に延命措置を施し、あわせて新造のOH-6やAH-6iを輸入で導入するならばコストはかなり低減できるだろう。

▲写真 ボーイング AH-6 出典:Boeing

仮にAH-Xは攻撃ヘリに限定し、機種を増やさないというのが原則であれば、事実上対象になる攻撃ヘリはAH-64Eが最有力だろう。防衛大綱によれば陸自が想定すべきシナリオは、大規模な着上陸作戦ではなく島嶼防衛、ゲリラ・コマンドウ対処とされている。これらの任務に置いて、データリンク能力が低く、あるいは無い、音声無線だけを搭載した単に汎用ヘリに武装を搭載した程度の、ISR(情報・監視・偵察)が低い安価な武装ヘリでは対処は難しい。

▲写真 AH-64 出典:Jerry Gunner

また本土でのゲリラ・コマンドウ対処のためのISRや火力支援のプラットフォームであればヘリでは無くともよい。より調達、運用コストの低いスーパーツカノのようなターボプロップのCOIN機をこれに当てることもできるだろう。これを攻撃ヘリと組み合わせるという運用も検討すべきだ。

調達単価は12~15万ドル程度で、運用コストは時間あたり千ドル程度と極めて低い。また速度はヘリの約2倍、航続距離は約3倍というメリットもある。実際米空軍でもOA-X-プログラムでこのようなCOIN機の調達を検討している。だが航続距離の面では島嶼防衛には使用できない。

島嶼防衛ではネットワークとC4IR機能は特に必要だ。陸自のネットワーク化は遅れており、海自の護衛艦や揚陸艦、空自のAWACS、戦闘機、地上部隊とネットワークによる連絡が必要だ。また米軍との共同作戦においても、データリンク能力は必要不可欠だ。米軍はネットワーク化されていない友軍を戦域に入れない。

だがAH-64Dを含めて、10式戦車、16式機動戦闘車などもネットワーク機能は中隊規模に限定されており、特科などでも殆ど音声通信で指揮通信を行っている。また陸自には統合末端攻撃統制官JTAC(Joint Terminal Attack Controller)のような存在がない。またセミアクティブのレーザー誘導弾を誘導するデジネーターを有している部隊も無い。これは先進国の軍隊としては極めて異常だが、本年4月に発足する水陸機動旅団にはじめて終末誘導を担当する部隊が編成された。つまり現状では島嶼防衛のために編成されるであろう統合任務部隊は、米軍との共同作戦に著しい不具合が生じるということである。

リンク16やCDL(Common Date Link)、衛星通信システムを備えた攻撃ヘリは3自衛隊の上陸部隊、護衛艦、揚陸部隊司令部、AWACS、スキャンイーグル、統合末端攻撃統制官などのアセットと連携して中低空域におけるISRの中間関節として機能する。現状の候補の中ではAH-64Eなど攻撃ヘリしかこれに該当する機体は存在しない。導入コストや、米陸軍は2060年までアパッチを使い続けることを公約しており、今後40年間米軍とのインターオペラビリティの確保が可能という面からもAH-64Eが有利だろう。

「既存のAH-64DをE型にコンバートし、更にもう一個飛行隊を輸入調達し、合計30機ほどで2個飛行隊を編成するのがリーズナブルだ」と、ある内局高官は語る。既存機であるAH-64Dのコンバートは1機あたり30億円、新造が50億円程度だとされている。ただAH-64D同様にスバルがライセンス生産するならばコストは跳ね上がるので、輸入が現実的だろう。

陸自のネットワーク化には大きな障害が横たわっている。これも問題だ。野戦通信の基幹である野外通信システムの野戦用無線機、広帯域多目的無線機が極めて性能が悪いことだ。広帯域多目的無線機はNECが開発したソフトウエア無線機で、HF・VHF・UHFの周波数帯域で使用可能だが、数十メートルの短距離でも通じないことが珍しくない。その要因は総務省から割り当てられている電波が軍用野戦無線に適した周波数帯に適していないからだといわれている。陸自は相当な金額をつぎ込んで改良しているが成功していないようだ。

東日本大震災では陸自の無線が通じないことが多く、問題となったがその後も周波数帯が見直されることもなく、2013年から広帯域多目的無線機の配備が始まった。部隊では広帯域多目的無線機を使わず、旧型無線機を使っている所も多い。

▲写真 野外通信システム 中継ノード装置JWYC-R1 出典:Wikipedia

陸自の野戦ネットワークの中核となる当システムに不具合があるままでは、仮にネットワーク化を進めたとしても機能しないことが予想される。AH-Xの仕様決定前に広帯域多目的無線機の機能改善あるいは、機種変更の検討が必要だろう。

これらの要素を鑑みて、どのような任務や作戦を想定し、そのために必要とあらば攻撃ヘリ、武装ヘリ、COIN機、無人機などを、組み合わせて費用対効果の高いポートフォリオを決定すべきだ。

(了。全2回。その1こちら

トップ画像:離陸しようとする2機のAH-64D 出典:陸上自衛隊HPより引用

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この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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