朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー
.国際  投稿日:2019/3/14

ゴーン氏支えるレバノン人脈


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏ではゴーン氏に対して多くの人が擁護の姿勢を見せていない。

・ゴーン氏の心の祖国は、少年時代を過ごしたレバノン。

・レバノンアイデンティティを軸とする強力なネットワークがゴーン氏を助けている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44662でお読み下さい。】

 

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告がとうとう2019年3月6日に保釈された。しかしながら保釈されたことに大きな喜びを示すと思いきや、フランスではゴーン氏に対する盛り上がりはいまひとつのようだ。フランスのル・メール経済・財務相は日本で保釈されたことについて歓迎する姿勢を示したが、その後出演したメディアEUROPE1では、ゴーン氏が支援を与えてくれた多数の人々の名前を上げ感謝したのにもかかわらず、その名前のリストの中にはフランス政府が入っていないことが指摘されており、政府はゴーン氏を見捨てているのではとの質問を受けたほどだ。フランスではゴーン氏に対して多くの人が擁護の姿勢を見せていないことが、メディアで言われるようになってきた。

EUROPE1の問いには、ル・メール氏はこう答えている。

「国は誰も見捨てることはない。カルロス・ゴーンが保釈されている。彼はフランス市民だ。これで彼はより安心して自身を弁護できるようになるだろう。とても良いことだ。今日、朝(の会見で)も言った通りだ。とても良いことだ。しかし経済・財務相としての私の責任はルノーやルノー・日産アライアンスにおける数十万の雇用が守られるようにすることなのだ。」

肉声音を聞いていると、「とても良いことだ」と言う言葉の強調具合や、同じ言葉を2回繰り返していることが、何か空々しい印象を与えていて、ほんとによいことだと心から思っているようには伝わってこなかったが、文面的にはとてもスマートな内容ではあろう。

しかし、こういった態度はル・メール氏だけではない。ゴーン氏が逮捕された直後のエマニュエル・マクロン大統領の言葉からも、ゴーン氏を助けると言う強い意志が見えなかったと言われており、フランスの企業の社長たちやフランス国民からもあまりゴーン氏を支援する声が聞こえてこない

ゴーン氏の家族の弁護士が出演している討論などでも、家族の弁護士が熱を込めて人権に絡めてゴーン氏がおかれている状況を嘆き、無罪を主張するが、その内容に同調する人は少なく、他の出演者が多くの時間を割いて語ることは、給料の額を始めとする労働者との格差だ。

フランスの約9%は失業しており、48%に当たる労働者の給料の平均は月1700ユーロ(約21万円)程度。黄色いベスト運動も活発だった状況で、特に労働組合は鼻息を荒くし、ゴーン氏が一日4万5千ユーロ(約520万円)稼ぎ、ベルサイユ宮殿で結婚式をあげながら、多くの労働者をリストラしてきたことに憤りをぶつける

▲写真 黄色いベスト運動(2018年12月)出典:flickr Photo by Thomas Bresson

もちろん、能力に対してそれ相当の報酬が与えられることに対しては問題ないとの意見もでるが、しかしそれだけの報酬をもらっていながら、なぜ会社から私費を出させたのか、という疑惑に引っかかりを感じ、無条件に無罪を信じる擁護派には成り切れない人が多いようだ。

しかし、そんなフランスでも、活発にゴーン氏の無罪を信じ支援している人々がいる。それはフランスに住むレバノン系市民である。昨年11月26日にBNPパリバで働くエコノミスト ナディム・ナデール氏は、フェイスブック上にゴーン氏を支援するグループ「Comité de Soutien à Monsieur Carlos Ghosn」を立ち上げた。現在約6200人のメンバーが集っているが、そのメンバーのほとんどがフランスに住むレバノン系の市民だ。グループ内では、無罪を信じ、毎日活発に情報があげられ意見を交換している。

また、署名サイトchange.orgにおいて、長期勾留はただの人質だとして国連の人権機関に申し立てする署名を集める活発な活動も行ってきており、活動2カ月で2万5000人の署名を集めたのだ。そこで使われている写真は、ゴーン容疑者と知人関係にあるレバノンの広告会社の幹部ダニー・カマル氏がレバノンで掲げた「われわれは皆、カルロス・ゴーンだ」と書かれている無実を訴えた電子掲示板の写真だ。ここでは、全てのレバノン系の支援者が繋がっているかのように見える。

▲写真 「われわれは皆、カルロス・ゴーンだ」出典:Comité de Soutien à Monsieur Carlos GHOSN FaceBook

ゴーン氏はブラジルで生まれたが6歳の時に母親と姉と共にレバノンに移り住んでおり、フランスに進学するまでの子供時代をレバノンで送った

レバノンは地中海に面する中東の国で、イスラエルと国境を接している。レバノン国内の人口は約610万人。しかし、その数を大きく上回る「レバノンディアスポラ」と呼ばれるレバノン人が海外各地に居住しており、その数は1400万人と言われている。しかも、世界中にちらばったレバノンディアスポラの起業家やビジネスマンの多くは、ゴーン氏ほどではなくとも、あらゆる種類の分野において成功しており、レバノンと言うアイデンティティを軸に強力なネットワークを作りあげているのが大きな特徴だ。

そういった成功したレバノンディアスポラからは、多くのお金がレバノンの家族に送金されている。こういった送金は「見えざる収入」と呼ばれ、国の発展に貢献してきた。一時期は国内総生産(GDP)の26%に達したこともあったこともあるほどだ。しかし、近年はその送金額が占める割合も年々減ってはいるものも、それでもGDPの13.2%(2017年のデータ。世界銀行より)を占めている。これは日本では海外からの送金額がGDPの0.09%しかないことを考えると、かなりの大きな割合と言えるだろう。このことからも、レバノンでは海外に住んでいる自国に関係する人間に対する接し方は、日本人が考える海外在住者とのかかわり方とは違う。多くのレバノンディアスポラは、成功者であり尊敬される存在なのだ。

ゴーン氏レバノンディアスポラの中でも最も成功している人物とされていた。前出のナディム・ナデール氏はこう言う。「ゴーン氏は、ただレバノンディアスポラだからといってこれほど尊敬されているわけではない。彼は、レバノンに多くの投資をし、会社を作り、人々を助け、学校を無料で助けたからだ。」こういった功績に対し、レバノン政府はこれまで何度もゴーン容疑者を表彰しており、2017年にはゴーン容疑者の肖像が郵便切手のデザインにも採用された。

そのため、レバノンの政治家も逮捕されたゴーン氏への支援に積極的だ。レバノン外務省は11月27日、レバノン駐在の日本の大使を呼び、ゴーン氏は「レバノン人の重要な成功例」だとしてこの件を注視していることも伝えた。マシュヌーク内務大臣も、ゴーン氏の逮捕時にはこう述べている。「彼はレバノンのディアスポラの成功の例です。私たちは彼の成功を誇りに思う。この苦しい試練の中で、レバノンの鳳凰は日本の太陽によって焼かれることはないでしょう。」

(参考:TV5Monde「レバノンから見たカルロス・ゴーン事件」

また逮捕の状況を巡っては「多くの疑問符」が付くとし、「透明かつ完全な適正手続きによる」対処を日本側に求め、レバノンの駐日大使は、拘置所に熱心に通い、ゴーン氏の苦痛を少しでも和らげようとマットレスなどを購入し差し入れを続けていた。

投資と言えば、日産所有とし、レバノン・ベイルートに購入した豪邸もレバノンの活性化には少しながらも貢献しただろう。購入に10億円、改修に7億円かけたと言われている。

またゴーン氏自身もレバノンに共同創業でワイン醸造所「イクシール(Ixsir)」を立ち上げている。ただし、このワイン醸造所はゴーン氏にとってはただの投資ではなかったようではある。

ゴーン被告の友人であり、現地とのつなぎ役としてパートナーを務める元裁判官のショクリ・セイダー氏は、このワイン醸造所についてはこう語っている。「カルロスはワイン醸造所などは、利益のための投資というよりも、彼が持つレバノンとのつながりに対して投資しようとしていた。彼は、引退後の生活の一部をレバノンで送ろうと考えていた。おそらくパリや東京で見つけることができなかった、ちょっとした人の温もりを求めているのだろう。」

この思い入れがあるワイン醸造所では、2016年には妹のシルビア・ゴーンさんの60歳の誕生日パーティーが行われた。ゴーン家一族が一同にレバノンに集まったのだ。誕生パーティーの写真の中には、ゴーン氏の一番下の妹のネイラさん夫妻の姿を見つけることもできる。彼女の夫は、レバノンの血を引くレバノンディアスポラの一人でもあるが、同時にフランスの名高い大企業の最高経営責任者(CEO)である人物。フランスの経済界の重要人物と、家族の中でもレバノンアイデンティティでつながっている様子を垣間見れる。

▲写真 シルビア・ゴーンさんの60歳の誕生日パーティー 出典:L’Orient-Le Jour(ロリアン・ル・ジュール)Twitter

世界規模で飛び回っていたゴーン氏ではあるが、彼の心の中で基盤となる国は、彼が生まれた国ブラジルでもなく、成功を収めたフランスでもなかったのだろう。やはり多感な少年時代を送った土地であり、世界に居てもアイデンティティでつながった同士が集う国レバノンだったのではないだろうか。そんなゴーン氏の心の祖国レバノンに関係する人々が、窮地に陥ったゴーン氏を一番積極的に支えようとしている。間違いなく、ゴーン氏にとっては本当の祖国と言えるのかもしれない。アイデンティティによる結束の大切さを見せつけられているようでもある。

トップ写真:カルロス・ゴーン氏 出典:flickr Photo by Adam Tinworth


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、ライターとして活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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