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.国際  投稿日:2019/2/22

不公正な安保負担は米の脅威?


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・中国に対し米日印の3国関係を強化。

・不公正な貿易慣行・安保負担はアメリカにとっての脅威。

・日米関係は今後も注視していくべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44259でお読み下さい。】

 

アメリカのトランプ政権は登場以来、2年余り、いまの世界でなにを最大の脅威とみなすのか。同政権の中枢にいる当局者から「5つの脅威」がきわめて明確な形で示された。

 

2月19日のワシントンでの会議でのことだった。その脅威のいくつかは日本にもかかわってくる点に注視すべきだろう。

 

トランプ政権に近いワシントンの保守系の民間研究機関「ハドソン研究所」は同日、「自由で開かれたインド・太平洋地域を守る」というタイトルのシンポジウム形式の国際会議を開いた。副題に「アメリカ・日本・インドの3国関係を強化する」とあるように、ともに民主主義を共有する米日インドの3国がこの地域の安全保障をどう守るかを論じることが目的だった。

 

この目的から浮かびあがるのは中国の脅威である。非民主主義の独裁の政治体制で軍事力をテコに覇権を広めようとする中国に対してアメリカ、日本、インドの3国がどう対峙するかが主題となるわけだ。

 

さてこの会議でとくに注目を集めたのはトランプ政権のマイク・ペンス副大統領の外交・戦略の顧問を務めるトム・ローズ氏の発言だった。ローズ氏は政権全体の対外関係を担うペンス副大統領のそばにいて、諸外国との外交交渉や安保・戦略の対策に密接にかかわる人物なのである。

 

▲写真 トム・ローズ 出典:Twitter : @TomRoseIndy

 

そのローズ氏がトランプ政権のインド・太平洋地域への政策を説明するために、この政権がいままで全世界のスケールでなにを脅威として、その対策を進めてきたかを語った。

 

トランプ政権の高官がその対外政策を公開の場で体系的に語ることは珍しい。公開の発言となると、もっぱらトランプ大統領自身がその任にあたり、他の高官たちが演説の形で政策を説明することは少ないのだ。

 

さてローズ顧問がトランプ政権にとっての脅威としてあげたのは以下の5点だった。

 

「第一は北朝鮮やイランのような無法国家の脅威です。そのなかにはイスラムのテロ集団が入ることもあります」

 

「第二は中国やロシアのような既成の国際秩序を崩そうとするパワー国家の脅威です。アメリカの利益や価値観と衝突するのです」

 

「第三は、アメリカの国境での脅威です。外部から無法にアメリカに侵入しようとする集団です」

 

「第四は、不公正な貿易慣行という脅威です。中国のような経済大国が規則違反の方法でアメリカから不当な利益を得るのです」

 

「第五は、安全保障の不公正な負担という脅威です。アメリカは他国と共同の同盟関係を保つのに不当に過大な負担を払わされているのです」

 

ローズ顧問の発言は以下のようにきわめてわかりやすい表現だった。その脅威の内容はほとんどがこれまですでにトランプ政権によって明確にされてきた。だが「不公正な貿易慣行」や「不公正な安保負担」が中国やロシアの覇権とともに、同じ「アメリカにとっての脅威」とされたのは、意外でもあった。

 

ローズ顧問の説く「不公正な貿易慣行」や「不公正な安保負担」という対象にはわが日本も入りかねないからだ。トランプ政権は日本に対しても長年の貿易赤字を指摘して、日本側には貿易面での不公正な慣行があるのだ、と批判している。安保面でも日米同盟では日本の負担が少なすぎて不公正だとトランプ大統領自身がときおり非難してきた。

 

▲写真 安倍首相とトランプ大統領(右)出典:首相官邸

 

だからいまいかに日米関係、トランプ・安倍関係がよいようにみえても、まだまだ油断はできないのである。ワシントンでごく最近、目撃したトランプ政権の意外な脅威感の一端だった。

 

トップ写真:トランプ大統領と杉山大使 出典:The White House


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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