芸能界に転換点 ZIGGY森重樹一氏登場!
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・芸能界の依存症問題の転換点となる森重さんの体験談。
・依存症やその患者への理解進まぬ日本。
・海外では依存症からの立ち直りは成長であり誇りでもある。
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今年の厚生労働省の依存症啓発事業は、省庁主催の啓発イベントとは思えない豪華で充実したラインナップとなっている。その中でもメインイベントとなっているのが、愛知県、大阪府、東京都で行われる、音楽ライブやトークショーで、2月17日(日)に第一弾となる愛知県でのトークショーが開催された。
出演者は、元Jリーガーの前園真聖さん、ロックバンドZIGGYのボーカル 森重樹一さん、お笑い芸人 濱口優さん、人気Youtuberせやろがいおじさん、国立精神神経医療研究センター精神科医 松本俊彦先生、ギャンブル依存症問題を考える会 田中 紀子、となっており、僭越ながら私も依存症の専門家という立ち位置で、末席に加えていただいた。
このイベントの第一部で、ロックバンドZIGGYのボーカル 森重樹一さんが登壇され、大ヒット曲GLORIAを含む2曲を熱唱された他、アルコール依存症からの回復者として、ご自身の飲酒が止まらなくなった話、γGTPが4ケタまでいったこと、鬱状態となり、どん底を味わったのち自助グループで回復するまでの体験をお話しされた。
▲写真 ZIGGY森重樹一氏 ©田中紀子
この話に、私たちは仰天し、かつ大きな感動を味わうことになった。まさに日本の芸能界の夜明け、大きな時代の転換点を迎えたと思う。かねてより日本の芸能界のターニングポイントはいつ来るのか?ファーストペンギンに誰がなってくれるのか?我々は大きな願いを込めて見守っていたわけだが、それがZIGGYの森重樹一さんだったのである。
日本では、長い間依存症問題について語ることはタブーであった。自分が、依存症者であり、どれだけの問題を巻き起こし、いかに回復していったか?という話は、同じ経験をした仲間内では語られていたが、時々メディアなどに取り上げられることがあっても、特殊な人の特殊な話、まさに「ダメ人間」「だらしのない人」としてしか扱われてこなかった。日本人の間では80年代に流行った人権侵害も甚だしいコピー「人間やめますか?」の価値観が、まさに依存症者そのものの姿と烙印を押され蔓延していったのである。
しかし、不思議なことにこの依存症者を貶め罵倒する日本の風習は、同じ日本人にしか向けられていない。つい最近も、大物芸能人がアルコールで問題を起こしたが、事態が発覚すると、昨日まで仲よしこよしで仕事をしていた芸能人が、急に吐き捨てるように罵倒したり、教育専門家や文化人と名乗るタレントが、「甘えている」「だらしがない」「情けない」などと精神論を振りかざしていた。そして「芸能界でやっていこうなんて甘い」「引退は当然」と居場所を奪い、社会的に抹殺していくのである。
万が一、問題を起こした芸能人が運よく再起を果たせたとしても、一切過去には触れずタブー視されていき、回復のプロセスは一切見えてこないのが常である。
しかしながらこのように同じ芸能界に生きる日本人タレントに対しては声高に罵倒する芸能人やコメンテーターも、海外アーティストやセレブに対しては、決してこのようなことはしない。例えばエリック・クラプトンや、ロバートダウニーJr.などに、「あなたのような犯罪者がなぜ来日してきたのですか?」「あなたはなぜまだ芸能活動をしているのですか?」「あなたのようなだらしのない人間は人前に出るべきではない!」などと言っているのは見たことがないし、そのような記事が配信されたこともない。皆、笑顔で来日を喜び、活動を絶賛し、例えアルコールや薬物依存症の過去があろうとも「それだけストレスがある仕事なのだろう。」「そこから再起したことは素晴らしい。」と善意に解釈するのである。
▲写真 エリック・クラプトン(2008)出典:Wikimedia Commons; Majvdl
このような日本の芸能界の同胞憎悪と欧米人コンプレックスがどこからくるのかわからないが、こういった見せしめや懲らしめ的な姿勢は、長年、我々依存症者とその家族を苦しめ、多くの弊害をもたらしてきた。「依存症だとバレたら社会的に抹殺される。」「依存症者は嫌われる。」「誰にも知られてはならない。」と震えあがり、どこにも相談できず、家族の中で抱え続け、最悪の場合は、自殺や心中、家庭内殺人という悲劇を起こすに至っていた。
▲写真 ロバートダウニーJr.(2014)出典:Flickr; Gage Skidmore
しかし依存症に対する理解が進んでいる欧米諸国では、当事者の姿勢も全く違ったものになる。依存症の当事者となった芸能人や著名人も、自分がリハビリを受けたことを恥じてなどいない。むしろリハビリを受けないことが恥とされる。そして回復へのプロセスが自分を成長させてくれたと誇りにしている。
それゆえ海外アーティストたちは、リハビリ施設に入所することを決めた際にはその旨を公表し治療を受け、再起を果たしたのちは、依存症のことを恐れずに語り、むしろ同じ問題に苦しむ人々の手助けになろうと積極的な活動を始める。
例えば、エリック・クラプトンは、誰でも入寮できるような極力低価格で入れるリハビリ施設を開設しているし、エミネムは自身の病気を作品で表現し「Relaps(再発)」「Recovery(回復)」といったアルバムを制作した。さらに薬物依存症の自助グループにつながって10年の記念となるメダルをSNSで公開もしており、このツイートに対し、ラッパーのロイス・ダ5’9″がツイッターで祝福した。依存症になったからと言って、二度と近寄るなと言わんばかりに突き放す日本の芸能人とは大違いである。
Celebrated my 10 years yesterday. pic.twitter.com/Xmm9MOIEam
— Marshall Mathers (@Eminem) 2018年4月22日
▲出典:エミネムTwitter
▲写真 エミネム 出典:Wikimedia Commons; Mika-photography
また、エアロスミスのスティーブン・タイラーも、私財をなげうって児童養護施設の子供たちの援助を行っているが、この活動に関しても自身の依存症からの回復の経験を語り、依存症やその他の原因で困っている人を助けたいと語っている。
▲写真 スティーブン・タイラー(2018)出典:Flickr; Gage Skidmore
アルコールとギャンブルの依存症に苦しんだベンアフレックは、自らの治療経験について「自分がなり得る最高の父親として生きたいのです。子どもたちには、必要な助けを求めることは恥ずかしいことじゃないと知ってほしいし、助けが必要なのに、最初の一歩を踏み出せずにいる人の力になってほしい」と思いを語っている。
このように欧米と日本の芸能界のあり方では雲泥の差があり、我々依存症の当事者・家族は長い間日本の芸能界の依存症に対する扱いに長い間絶望していたが、そこに彗星のごとく現れたのがZIGGYの森重樹一さんだったのである。森重さんは、自身のアルコール依存症の体験について語られただけでなく、自助グループでのリハビリの経験にまで包み隠さず告白されたので我々は仰天したのである。
まさにZIGGYの森重さんは、自分を受け入れ、語れる強さをもっている。
そもそも依存症者に限らず、多くの人は自分が誰かの助けを借りて生きているなどということは認めたくないし、口が裂けても言いたくない。ましてや依存症の理解がない日本の芸能界に身を置く人が、「自助グループでリハビリプログラムを受けた」と語ることは非常に勇気がいることではないだろうか。全く無名の一民間人の私だって、かつては親しい人達にも自助グループのことはひた隠しにしていた。「そんな惨めな人達と同類にされてたまるか!」という気持ちがあったのだ。
ましてや芸能人が、「同じ経験をした仲間からの支援はかかせない」と公表できるということは、よほどご自身に対して確固たる自信と、回復者としての誇り、そして他者の助けになるという友愛の精神がなければ出来ないことだと思う。
これまでにも何度か芸能人が「仲間」となった瞬間はあった。けれども殆どの人は続かなかったり、依存症となったことをひた隠しにしていたり、もしくは芸能界からの引退を余儀なくされていた。
ところが森重さんははじめて、欧米の芸能人並みに依存症であること、自助グループのメンバーであることを公表し、その上で再び芸能界に復帰を果たし、活躍している唯一の芸能人である。我々が、どれほどこの回復の王道を行く著名人の出現を待ち焦がれていたかお分かり頂けるであろうか。
芸能界、芸能人の影響力は絶大である。
私たちは長きに渡って、海外アーティストたちの誇り高き回復者の姿を追い求め、「いつか日本も欧米のように・・・」と、希望を託してきたのである。
そしてついにZIGGYの森重樹一さんが顔をあげ恥じることなく、私たちをまっすぐに「仲間」と呼んでくれたのである。そして立ち上がった森重さんは、新メンバーと2017年に新曲を発表、そして全国ツアーを開始したのである。
森重さんは、インタビューでこのように語っている。
「スティーブン・タイラー、エリック・クラプトン、リンゴ・スターという僕のヒーローがドラックやアルコールを断った経緯がモチベーションになっている」(参照:時事ドットコム)
こうして森重さんは私たちのヒーローとなり、希望の灯をともしてくれたのである。
愛知県のイベントでは、熱狂的森重ファンが最前列を陣取り、盛り上がりを見せた。
このライブとトークショーは今週末大阪でも開かれる。
ZIGGYの名曲「GLORIA」は、OVER40thであれば、何度も耳にしカラオケで熱唱した人も多いであろう。GLORIAのサビの歌詞にはこうつづられている。
“GLORIA、I NEED YOUR LOVE
お前の熱いHEARTでLONELY NIGHTもう二度と見せないで”
まさに森重さんの熱いHEARTで、私たちは日本の社会で片隅に追いやられる孤独から救われたのである。
トップ写真:ZIGGY森重樹一氏 ©田中紀子
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。