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.社会  投稿日:2019/3/22

高知東生氏が自分を語る意義


田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)

 

【まとめ】

・依存症有名人の発信はリスクが大きいが、回復を目指す人の大きな希望になる。

・依存症患者の多くは「我慢強さが度を越してしまっている」人。

・「治療.・回復・社会復帰」という国際的風潮に逆行する日本。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイト(https://japan-indepth.jp/?p=44833)でお読み下さい。】

 

3/20PM8:00~配信されたJapan-In-depthのニコ生に、高知東生氏に出演して頂いた。

 

ご存知の通り、高知氏は2016年に覚せい剤取締法違反で逮捕されているが、あれからおよそ2年の月日が流れ、奇しくも現在ピエール瀧氏の麻薬取締法違反の件が世間をにぎわせているタイミングに何故ご出演願ったのか、我々依存症者当事者とその家族の思い、そして薬物問題からの回復プロセス、さらにメディアのあり方についてお伝えしたい。

まず、高知氏にご出演を願ったのは私の思いから始まったことで、この時は、まだピエール瀧氏の事件は顕在化していなかった。

高知氏がTwitterをなさっていることを偶然発見し、早速フォローした所すぐにフォローを返して下さったので驚いてしまった。のちに分かったことだが、実は高知氏は、以前私が書いた記事「高知東生氏は回復できる気がする理由」を偶然目にされていたのだ。

そしてこの記事を読まれ、嬉しく思って下さっていたそうなのだ。こうしてTwitterをご縁にお目にかかる機会を頂き、今回のご出演に至った。

では、何故私は高知氏にご自身の体験を語って頂きたかったのか?それは、同じ問題で悩んでいる我々当事者や家族を救って欲しいからである。

高知氏のような知名度のある方が、表立って発言されることは非常に勇気がいることだと容易に想像できる。私のような無名の一市民ですら依存症に理解のない人達からいわれなきバッシングをうけることはしょっちゅうである。ましてや現在、ピエール瀧氏の問題で社会が騒然とする中、高知氏が表に出てこられて発言されるということはそのリスクも大きい。けれども有名人である高知氏が発信されることで、回復の物語を知り励まされる人達も多いことは間違いない。それは私たちが発信するよりも大きな影響力があることであり、是非ともその一翼を担って頂きたいと思ったからだ。

また、回復の過程で自分の物語を話すということは、依存症の回復プログラムそのもので、私は高知氏の回復にもお役に立てると確信している。というのも世間では誤解されているが、依存症者は「甘え」ているわけでなく、むしろ「我慢強さが度を越してしまっている」人がいるのだ。度を越した我慢強さというのは「弱音を吐けない」「我慢の上にも我慢」「自分の心に蓋をする」ということが習慣化していくことで、それらを自分の中に押し込むためにアルコールや薬物、ギャンブルがますます必要になり乱用者や依存症になってしまう。

ところがこういったタイプは、自分の中では「我慢し、感情を殺し、自分の中に押し込める」ことが幼い頃から「当たり前」だと思っているので、自分がそういう度を越した我慢強さをもったタイプと知らずに生きてきている。その上、アルコール、薬物、ギャンブルでなんとかその限界を突破しているのだが、その正体を知りつくしているのも自分だけなので、ますます自分を責め「まだ我慢が足りない」「もっと努力が必要だ」「自分はダメな奴だ」と責めているのである。つまり努力の向きが全く逆なのである。

私が推測するに、有名人やスポーツ選手で、アルコール・薬物・ギャンブルといった依存症で問題を起こす人は、こういったタイプが多いのではないかと思う。元プロ野球選手の清原氏なども考えて頂ければお分かり頂けるかと思うが、このタイプだと推察され、小学生のころから注目され練習一筋で来ているわけで、我々の小学校時代とは全く違うのである。

高知氏も世間的には「チャラ男」のイメージがあるかもしれないが、実は、本当に苦労人で普通の人なら、とっくに潰れていた所を生き抜いてこられた方である。私としてはいずれ自叙伝でも書いて頂きたい位に思っている。

今回の番組にご一緒に出演して下さった、薬物依存症問題の第一人者である国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長で精神科医でもある、松本俊彦先生も番組の中で高知氏に語って頂くことについてこうコメントされている。

写真)松本俊彦先生(右)

出典)Japan Indepth編集部

 

「高知氏に回復して貰って、みんなの希望になって貰いたいと思いました。話すことで整理がつくことってあると思うんですよ。アルコールや薬物の依存症の方って、本当はうんざりするようなこととか、くさくさすることが沢山あるんですけれど、割とみんな我慢強くって、心に蓋をしているんですよね。」「特に薬物の方は、法に触れるわけですから自然的に話せないことが多くなる。その嘘自体が薬物の使用を多くさせてしまうのです。」「だから正直に話すこと、誰か信頼できる人に胸の内を打ち明けるといったこと自体に、治療的な意味があるのではないかなと思っています。」

実は、この番組の中で、高知氏自身でおっしゃっているが、高知氏の主治医はこの松本俊彦先生である。では、誰が高知氏を松本先生に繋いでくれたのか?私も不思議だったのだが実はこれ麻取(麻薬取締官)なのである。正直TVに出まくっている元麻取の方は、大して有益な情報もおっしゃられないし、「薬物依存症」を「薬物中毒」などとおっしゃっていて一昔前の方という印象否めない。もちろんそれを起用しまくっている制作者側に問題があるのだが、麻取も回復を願う方もいるのだな!と驚いた次第である。番組がニコ生だったので、この場面にコメントが集中し「ま、マトリに!」「いいマトリもいるんだ!?」「回復を麻取りに相談!?」「マトリgood job」「マトリやったな!」などと入ってきて面白かった。麻取にもこういった側面もあるのに、現在のワイドショーでは、取り締まりや薬物をあおった話ししか出てこないのも問題である。

またこの対談の中で、松本先生がお話しされた情報はことさら興味深かった。なんでも国連では「薬物問題は司法的な問題としてあるいは刑罰の対象とするのではなく、健康問題として支援の対象とするべき」という決議があるとのことなのだ。となるとその国連決議に批准していないのは日本の方であり、さらにそこに乗っかって国際社会の流れとは逆行しているのが今のマスコミの姿なのである。

これは昨年の11月に私が招聘された、バチカンの国際会議でもヒシヒシと感じたことで、ローマ法王も「薬物依存症者に対し、神の子として大切に扱うように」とおっしゃっておられ、世界各国からの報告でも、「治療」と「回復」「社会復帰」にフォーカスが当てられていた。日本の芸能界のように、人格を貶め、復帰させないなどという吊るし上げなど行われていない。是非、この記事も再読して頂きたい。

写真)法王に謁見する田中紀子氏

©田中紀子

 

そしてこの国際的な流れ、オランダの非犯罪化、カナダの大麻解禁などについて「海外では薬物問題がどうにもならない位蔓延していたので仕方なく解禁した。」というデマを言っているエセ専門家がいるらしいが、そうではなくオランダやカナダもかつては日本と同じ厳罰主義だったのが、それでは上手くいかないというサイエンスに基づいて取り入れられた政策なのだそうだ。日本は今後、薬物問題に対し「サイエンス」を取り入れていくのか?それとも一部の影響力の大きいエセ専門家と化したタレントたちの「イデオロギー」でミスリードされたままになるのか?考えて頂きたい。

また「そもそも犯罪に手を染めたから全部ダメ」という「そもそも論」は、非犯罪化にし「治療対象の健康問題」ととらえれば全てが解消する。番組の中でも松本先生がおっしゃっていたが、昔は処罰の対象であった「姦通罪」は今では犯罪ではない。姦通罪を復活させて犯罪者を増やすことで、何か社会的メリットがあるだろうか?

その上、現在のように司法が裁くだけでなく、さらにメディアが私的リンチを加え、血祭りにあげ、薬物依存症者とその家族にはなにを言ってもやっても良い、憶測を取り上げなんでもゆるされるという「いじめ」の構図がまかり通っていく、こんな社会が果たして健康的と言えるのであろうか?これでは我々依存症者とその家族はますます居場所を失うばかりである。

さらに現在ピエール瀧氏の事件で、出演作品の自主回収や販売自粛、番組差し替えの問題などが大きく報道され、これら作品に対し影響力の大きいタレントらが、ニセモノ扱い、ドーピング作品などとまで言い出したことには心底驚いている。

正義感を振りかざして、かつて同じ芸能界で生きた仲間であっても、反論できない人に対しては、とことんまで「いじめ」ぬく、この位の根性がないと日本の芸能界では生き残れないのかとむしろ感心する。

しかも彼らは、「薬物を使えば飛躍的に能力が伸び、突然素晴らしい作品を生み出すことができるスーパーマンのような作用をもたらす。」と自分たちの無知から間違った知識を社会にばらまき、むしろ薬物の使用を青少年に煽っている害に気がついていない

少し考えれば誰でもお分かり頂けると思うが、万が一、私がコカインを吸引したとしても、決してピエール瀧氏のような名演技もできないし、Shangri-Laのような名曲は生み出せない。太宰や芥川のような作品も書けないし、ロートレックやユトリロにももちろんなれない。才能や努力そして作品の出来栄えと薬物問題など無関係である

むしろ薬物問題が進めば、パフォーマンスは落ち、すぐにイライラするようになるので、薬物を使って良い作品ができるなど有り得ない。

ちなみに海外セレブは、同業者が薬物依存症に陥ったからといって、急に手のひら返しで叩きまくるような醜いことはしない。例えば、大人気海外ドラマ「フレンズ。こちらは日本でも大ヒットしたのでご存知の方もいると思うが、このドラマの放映中に出演者の一人マシュー・ペリーが薬物依存症に陥ったが、撮影中2度もリハビリ施設に入寮しながら出演は継続された。のちにマシューはインタビューで「薬物のせいで、シーズン3~6ぐらいの間の記憶が一切ないんだ。」と答えており、「薬物のせいでドーピング」など勘違いも甚だしい発言であることがここでもわかる。そして、マシュー・ペリーはのちに依存症者の支援を積極的に行い、その功績が認められてオバマ大統領から表彰もされている。

写真)マシュー・ペリー

出典)Flickr; Policy Exchange

 

また、世界のトップモデルのモデルのケイト・モス。こちらもつきあっていた彼氏の影響でコカインを吸引し、それがすっぱ抜かれた。一時全ての仕事を失ったが、同業者のモデルや、雑誌編集長らから擁護があり仕事に復帰。特にわずか40歳で急逝した天才デザイナーのアレキサンダー・マックイーンはケイト・モスと熱い友情で結ばれており、スキャンダル直後にも関わらず「We Love You Kate」とプリントされたTシャツを着て、パリコレのランウェイに立ったことは有名な逸話である。

写真)ケイト・モス

出典)flickr : :Nicholas Andrew

 

 日本の芸能人の中にも、友情をもって悩み苦しむ友人に対し手を差し伸べ、逆境の時こそ自分のリスクも顧みずに再起を応援してくれるような、そんな姿が是非ともみたい。私たち依存症者に「もう一度人を信じてみよう。」と思わせてくれる、熱い有名人が現れてくれることを切に願う。それこそが真の再犯防止だと思っている。

この番組の中で高知氏が最後に話された言葉には非常に重みがあった。

「とにかく自分が今現在で言えることは僕の状況だけです。最初の1年位本当に人と会うのが怖かったけれども、そんな中でも食事を持ってきてくれたり、助けてくれた仲間達がいました。そのうち外にでろと言ってくれたが、外に出たら石を投げられんじゃないかと恐れていたけれども、意外にも『頑張って』と言ってくれる人達がいました。これはすごく意外だったし助けられました。」

「その反面、自分の家族や周りの人達に対して『本当は、あの人達もやってたんでしょ?』などと言ってくる人達もいました。こう言う言葉を投げられた時に、自分に言ってくる位だから、僕の周辺にいた人達もどんな辛い思いをしたんだろうと、自分が多くの人を傷つけたなと思いました。だからこそ絶対に回復して、もう一回再生してやるぞと思いました。」「今また、新たに出会って支えてくれてる人達をもう裏切りたくないし、それが今、こういったことに光を与えてくれる現状があって、だからこそ素直になれている自分の現状です。」とおっしゃった。こういう生身の声が、我々の回復に勇気と希望を与えてくれるのである。

写真)Japan In-depthのニコ生配信時

出典)Japan In-depth編集部

 

高知東生氏については出会った人全て、主治医の松本俊彦先生も、昨日のホストを勤めた、Japan In-depthの安倍宏行編集長もそしてもちろん私も、そのあまりの正直さとまっすぐさにむしろ面喰ってしまうほどだ。そして愛され、魅力的な人なんだなぁとすぐに理解できる。高知氏には我々のロールモデルとなって再起して頂くことを、心から願っている。どうか芸能界に生きる同業の方の中からも彼の応援団が現れ、復帰に向けて手を貸して頂けるようにと切に願っている。

番組を見逃した方はこちらからご視聴頂きたい。

 

トップ写真:高知東生氏と松本俊彦先生 出典:Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表

1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。

 

田中紀子

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