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.国際  投稿日:2019/3/6

金正恩に非核化の意思なし 1


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金委員長の目的は「非核化」ではなく「核軍縮交渉」だった。

・核交渉のスペシャリスト・ボルトン補佐官が暴いた北朝鮮の嘘。

・北朝鮮は秘密裡に「水素爆弾」の開発を続けようとしていた。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44528でお読みください。】

 

第2回米朝首脳会談が2月27日~28日にベトナムのハノイで開かれた。この会談に臨むために、北朝鮮の金正恩委員長はなぜか片道60時間以上もかけて列車で往復した。23日に行われた平壌駅での「見送りセレモニー」は、あたかもトランプ大統領に「核保有」を認めさせたかのような騒ぎぶりだった

翌日24日の労働新聞は、昨年のシンガポール会談時とは異なり、早々とこの「出陣式」を1面で大々的に報道した。今回の米朝首脳会談で「米国と合意」が成立するとみていたからだ。朝鮮中央通信は2月28日、正恩氏が「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くすという意義深い言葉を述べた」と伝えていた。

だが今回の会談で米国側は、金正恩委員長が本心から「非核化」しようとしているのか、それとも核を保有しながら「核軍縮」を進めようとしているのかを見極めようとしていた。北朝鮮側はこうした米国側の意図については知る由もなかった。韓国にも情報は入らなかった。

第2回米朝首脳会談の過程で、トランプ大統領は金正恩に非核化する意思がないことを確認した。トランプ大統領は28日の拡大会議で、ボルトン補佐官が提示した「ウラン濃縮秘密施設資料」を見て驚く金正恩委員長の姿を見て、「非核化しない金正恩の意思」を見て取った。そして北朝鮮の主張する「朝鮮半島の非核化」が「核軍縮交渉」を意味するものと理解した。

トランプ大統領は、金正恩と文在寅の「非核化ショー」に引きずられ、第1回会談では罠にはめられたが、第2回会談では安易な取引に反対する米国議会や情報機関などの警告もあって慎重に対峙した。

今回の会談での成果は、一言で言って北朝鮮に非核化の意思がないことをトランプ大統領が確認したことだと言える。

 

1)「真実のとき」を迎えた二日目の拡大会議

2日目(2月28日)の拡大会議では、米国側メンバーとして新たにボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が参加した。彼はトランプ大統領のある思惑でエアフォースワンには同乗せず個別にハノイに来ていた。北朝鮮が核交渉のスペシャリストで強硬派のボルトンを警戒していたからだ。

▲写真 ボルトン補佐官(2017)出典:Flickr; Michael Vadon

そのボルトン補佐官が拡大会議で北朝鮮が隠蔽してきたウラン濃縮施設の決定的証拠を提示したのである。ボルトン氏は、北朝鮮が隠蔽していたウラン濃縮施設の否定できない証拠(秘密のウラン濃縮設備の写真と見取り図など)を提示した。一説ではそこに衛星写真以外のヒューミント(編集部注:諜報活動)による証拠も含まれていたという。これによって金正恩が主張する欺瞞的「非核化」は「真実のとき」を迎えることになる。

 *中央日報3月5日報道では米国が提示した新たな地下ウラン濃縮施設は降仙(カンソン)ではなく寧辺の北西に隣接する分江(ブンガン)地区だとしている。

提示された施設の存在について質問された瞬間、金正恩は顔をこわばらせ返答に窮した。それを見た李容浩(リ・ヨンホ)外相は、すかさず会話に割って入り「ここでやめましょう」と会話を中断させた。

▲写真 ポンペオ国務長官と握手をする李容浩(リ・ヨンホ)外相 出典:Flickr; U.S. Department of State from United States

最高尊厳の「神」である金正恩委員長の発言を待たずして李容浩外相が割って入るというのは、北朝鮮ではあってはならない行為だったが、あえてそれを行わなければならない重大な局面だったということだ。もしもそこで金正恩が発言を続ければ、それが否定であれ肯定であれウソをついてきたことがバレることになり、北朝鮮体制が揺るぎかねない事態を迎えるからだ。

寧辺核施設を破棄したとしても、この秘密地下ウラン濃縮施設と破棄目録から除外した「3重水素製造施設」を結びつければ「水素爆弾」を製造することができる。北朝鮮は、ポンコツ施設の破棄で制裁を解除させた後、秘密裏に「水素爆弾」の開発を続けようとしていたのである。

こうして第2回米朝首脳会談は終わることになった。金正恩の本心を確認したトランプ大統領が会談の席を立ち去ったからである。

(2に続く)

トップ写真:第2回米朝首脳会談 出典:在ベトナムアメリカ大使館


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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