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.国際  投稿日:2019/4/11

ゴーン氏仏国内での裁判要望


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・ゴーン氏の妻・キャロル夫人、仏で夫の推定無罪の訴え。

・仏政府は裁判に政府が口を出すことはないとの姿勢。

・キャロル夫人と弁護士は仏国内での裁判を望んでいる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44635でお読みください。】

 

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(65)が会社法違反(特別背任)の疑いで4日に再逮捕された。その時、その場にいたゴーン氏の妻キャロル夫人は、他の書類と共に、レバノンのパスポートを検察に渡すこととなったが、次の日の5日には、飛行機でフランスに向かったのだ。

もう一つ持っている国籍のアメリカのパスポートを使用したと言う。またフランス大使が問題なく飛行機の乗れるよう乗り口まで付き添った。それでも飛行機が離陸する一秒前まで、「ほんとうに(私が乗った)この飛行機が飛ぶのを許してくれるのかしら」と気が気ではなかったと、アクション映画並みの脱出劇をその後のインタヴューで語っている。

そして、到着するやいなや、日本の検察がどれほど非道であったか、長期拘留は拷問と同じ、逮捕時にどれほど屈辱的な待遇を受けたのかを、早々とセッティングされていたフランスのメディア「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」を通して訴えたのだ。

レゼコーの記者によると、ゴーン氏には、東京にいる弁護士のほかにも、パリに少なくとも2名の弁護士とPR会社1社がついており、アメリカのメディアにも働きかけていると言うことなので、フランスのメディアを手配することはさほど難しいことではなかったのだろう。

キャロル夫人の批判の矛先は日本の検察、司法に留まることなく、フランス政府にも向けられた。

「フランスは人権を守る大国だが、今回はフランス人に人権があるとは感じられない」と、これまでのフランス政府の対応に不満を示した上、「私は彼が無実だと分かっていますので、フランス全国民と同じように推定無罪に従うべきです。そして、フランス政府は何かをするべきです。」と訴えたのだ。

しかしながら、8日のフランスラジオRTLによると、フランス大統領府関係者は、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者の妻キャロルさんが同容疑者の保釈に向けてマクロン大統領に介入を要請したことについて、「他の容疑者と同様に裁判にかけられるべきだ」と述べるにとどめ、特別な対応をしないとした。「日本と同じくフランスの司法当局でも捜査が進んでいる。(司法の問題に)政府が口を出すことはない」と語ったのである。

▲写真 マクロン大統領 出典:ロシア大統領府

だが話はそこで終わりではなかった。なんと次の日の9日にはゴーン氏のフランスの弁護士がニュース専門テレビBFMに出演し、「家族が望んでいる”公正な裁判”を確実に受けられるようにするために、日本ではなく、フランス国内でゴーン氏の裁判を行えるよう、仏政府が積極的に働きがけを行うべきである」という考えを示したのだ。

フランスの、ゴーン氏家族の弁護士であるジャンイブ・ルボルニュ(Jean-Yves Le Borgne)氏によると、「フランス法では、在外国民が罪を犯した、あるいは罪を犯した疑いがある時、フランスの司法システムで同国民を裁くことができると定められている」と言う。

そこでインタヴュアーが「私が日本のスーパーで万引きしたとしたら、日本で裁かれるのではないですか?」と質問した。

▲写真 ジャンイブ・ルボルニュ氏 出典:Wikimedia Commons; Apollon

フランス国民議会議員であり、仏日友好議員連盟会長のアラン・トゥーレ氏が、別の番組で「東京や北京のデパートで万引きし時、フランスでは裁判はできず、犯罪を犯した国で裁かれる。それは国際法で決まっている。どうしてゴーン氏のみ他の規則を享受することができるのか?」と述べたことを受けての質問だと思われる。

その問いに、なんとルボルニュ 弁護士は、「日本で万引きしても、日本の警察に捕まるまでにフランスに戻れば、日本がフランスに追跡することを要求することができます。そしてフランスで裁判をすることも可能なのです。それは、刑事訴訟法典第689条に書かれています。」と答えたのだ。

そこで、調べてみたが、刑事訴訟法典第689条には、確かにこのように記載されている。

第689条

共和国の領土外で行われた犯罪者の加害者または共犯者は、刑法または他の立法文書の規定に従ってフランスの法律が適用される場合、及び、欧州共同体を設立する条約の下で採択された国際条約または行為がフランスの裁判所に違法行為を審理する管轄権を与える場合、フランスの裁判所で起訴および裁判を受けることが可能。

第689-1条

以下の条項で言及されている国際条約において、フランス領域外でいずれかの犯罪に関して有罪となった者がフランスにいる場合、フランスの裁判所で起訴され審理が可能である。

この条項の規定は、罰則が科せられる場合はいつでもこれらの違反行為の試みに適用される。

基本的には、国外でテロなどを起こした犯罪者に向けた法律ではあるが、確かに、フランス国外での犯罪者が、フランス国内で裁判を受けることができる旨が記載されているのだ。

▲写真 2019年4月に開設されたカルロス・ゴーン氏twitterのプロフィール写真 出典:ゴーン氏Twitter@carlosghosn

ルボルニュ弁護士によると、フランス政府が日本政府に頼み、日本政府が了解すれば実現可能であると言う。そして、もしマクロン大統領が状況の進展を望み、それが適切だと考えるなら、大統領こそ、その役割ができる人物であると。

それを聞いて全てが納得が行く。なぜ、ゴーン氏が、最初の保釈請求時に、保釈後の制限住居を東京のフランス大使公邸かパリにすると地裁に伝えていたか。なぜ、キャロル夫人が大急ぎでフランスに帰国したのか。キャロル夫人が言う「フランス政府は何かをするべきです」の”何か”とはなんだったのか。

キャロル夫人及び、二人の弁護士は、フランスでの裁判を実現するためであろうか、とにかくこれまで多くのメディアに出演しては、日本の司法制度を非難しまくってきた。

そして今回も、ゴーン氏が公正な裁きを受けてないとルボルニュ弁護士はこう続けるのだ。「われわれの価値観に沿った形で行われる公正な裁判をゴーン氏に受けさせたいなら、フランス国内においてのみ可能だろう」と。

トップ写真:カルロス・ゴーン氏 2013年 出典:Flickr; Norsk Elbilforening


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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