ノートルダム火災、寄付続々
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・ノートルダム寺院、尖塔と屋根焼失。
・完全な再建には数十年を要する。
・高級ブランド創業家らから寄付続々。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45237でお読みください。】
パリの有名な観光名所であり、ノートルダム大聖堂が火事になり、激しく炎上した。常にその場にあり、消滅の危機が起ることなど思いもしなかったパリの象徴ともいえる建物から、激しい炎と煙が出ているさまは、誰しも驚きと悲しみを隠すことができなかった。
ノートルダム大聖堂は1345年の完成以来、フランス革命や二つの大戦も生き延びたフランスを象徴するともいえる建築物だ。1991年にはユネスコの世界遺産にも登録され、毎年約1300万人の観光客が訪れる。
▲写真 ノートルダム大聖堂 出典:Pixabay
火事は15日午後6時50分(日本時間16日午前1時50分)ごろ、高層部から出火した。尖塔(せんとう)部分の修復が行われており足場も組まれていたが、作業員もすでに帰宅しており、ミサなども終わっていたため、多くの人は建物内に残っていなかったのは幸いであった。
出火から約30分後、異臭を感じたフィリップ・マルセ神父が気が付いた時にはすでにあっという間に炎が回っていた状態だったと言う。爆弾の様に火が燃え広がり、神父はすぐさま聖遺物を救いに向かった。その後すぐに、屋根のほとんどが炎上する大火災と発展し、ついに1時間足らずで高さ約90メートルの尖塔が焼け落ちたのである。
パリの消防隊は400人が対応にあたり、16日未明まで懸命の消火活動を続け、建物の崩壊を防いだ。そしてようやく午前3時30分前に一通りの火を消すことができたのだ。
消火中は、傍から見れば目につくホースの量は少ししかなかったようにも見えたが、18本のホースを装備し、小型ボートを使用して巨大なパイプにつなげ、セーヌ川から直接水を吸い上げた。小型無人機(ドローン)数機、ロボット1台も投入されたれ、危険が予測される箇所への調査に大活躍した。もちろん火の手の上がっている東部分の消火に力を注いだが、それと同時に、ノートルダムとしてよく知られている、2つの巨大な鐘楼や美しいステンドグラスで作られている「バラ窓」がある西側に燃え移らないように最善がつくされた。そして同時に建物内の家具や貴重品を運び出すことに精力を費やしたのだ。
その結果、無事に2つの巨大な鐘楼と「バラ窓」を守りきり、イエス・キリストが十字架刑に処される際にかぶっていたとされる聖遺物「いばらの冠」や、列聖された13世紀の国王ルイ9世が着用していたチュニックも無事だった。中世から使っている部品もあると言うパイプオルガンも多少の心配はあるものの救ったと言う。これにより、一般の観光客が目にする大半の部分は守りきれたと言ってもいいだろう。
▲写真 バラ窓 出典:Pixabay
しかしながら、失った尖塔は帰ってこない。石造りだと思われていたノートルダムが、なぜあれほどまでに大きな炎に包まれよく燃えたかと言うと、それは、屋根の梁(はり)や尖塔は木材で作られていたからだ。12世紀~13世紀につくられたこの部分は「森」と呼ばれていた。伐採されたオーク材がなんと1300本も使われて形成されていた部分であり、これだけの木材を調達するには21ヘクタール分の木が使用され、それは一つの森を消滅させるほどだったからだ。このように古い材木が多く使われているため、日常では火災を防ぐため電気を一切通さないようになど細心の注意がなされていたが、修復作業と言う非日常的なことも影響したのかもしれない。出火の原因は不明ではあるが、火元はこの「森」の中であることは間違いないそうだ。
しかし、今回の火災の被害は、材木のほとんどを失なった尖塔と屋根であるが、修復しようと思っても、今の時代、これだけの資材は調達できないであろうと言われている。各所のノートルダムの修復に携わった建築家はこうコメントする。
「現時点で、何をどう修復できるかわからない。今言えることは、歴史的価値としても、ノートルダムがそこに存在することを大切に思っている人たちのためにも、どのように存続させるかに集中するのみだ。そのために、その方法や材料が変わってくることも視野に入れなくてはならない。」
▲写真 いばらの冠 出典:Gavigan
完全な再建には数十年を要すると言われているとはいえ、いつか再建はできることは間違いないが、材料や手法は今までとはまったく同じとはいかないのだ。しかしながら856年続いたノートルダムを、これからの未来にも存続させていく。その決意は固く、そのためには今できうる最善の努力を行っていくのみである。マクロン大統領も、即座に現場におもむき、「最悪の事態はまぬがれた」とし、「共に再建しよう。今後何年もの間、フランスにとって重要なプロジェクトになるだろう」と呼びかけた。
フランスのストラスブールの欧州議会にいた欧州連合(EU)のトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)も演説し、「フランス一国だけでも再建は可能だろう。しかし、重要なのは物質的な支援にとどまらないものだ」と述べ、加盟国に対して大聖堂の再建に向けた協力を呼びかけた。
再建に向けての寄付も続々と集まっている。ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなどの高級ブランドを傘下に持つLVMHグループとその創業家のアルノー家はインスタグラムで、「伝統と団結の象徴である特別な大聖堂の再建を支援する」として、2億ユーロ(約253億円)を寄付すると発表。グッチなどを持つケリング創業家のピノー家も、1億ユーロ(約126億円)を寄付することに。
▲写真 LVMHグループCEOベルナール・アルノー氏 出典:ロシア大統領府
またフランス化粧品大手ロレアルと創業家のベタンクール家は1億ユーロを寄付する考えをツイッターで表明し、石油大手トタルのパトリック・プヤンヌCEO(最高経営責任者)も1億ユーロ寄付すると表明している。
この他にも、各国の個人からの寄付も続々と集まり、今、世界中の多くの人が、ノートルダム大聖堂の1日も早く再建されることを祈っている。こういった人々の思いに答え、燃えにくい新素材の使用も検討されつつ、フランスでは再建に向けての前進がすでに着々と始まっている。
トップ写真:炎上するノートルダム寺院 出典:LeLaisserPasserA38
あわせて読みたい
この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。