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.経済  投稿日:2019/4/29

新紙幣発行より賃上げが必要


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・新紙幣発行に大賛成。現金には現金のあり。デザインも楽しみ。

・世界の潮流に反し、現金主義根強い日本は現金流通量が10年間で3割も増加。

・新紙幣発行は関連企業に特需だが、経済成長の押し上げはそれほど大きくない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45495でお読みください。】

 

新紙幣が2024年度上半期に一新するという。千円、五千円、一万円の紙幣(日本銀行券)で2004以来20年ぶりのこととなる。最近、世界ではキャッシュレス化が進み、中国などでは日常の買物やタクシーの乗車支払いなどもスマホやカードで行なうようになってきたと聞くが、私は紙幣の発行に大賛成だ。

むろんキャッシュレスを進めることに反対するわけではない、現金払いのため、お札や小銭を常に用意しておかなければならないことは手間のかかることだ。それよりスマホで支払いできるシステムがあったり、Suicaのようにカードにおカネをチャージしておけばカードを機械に触れるだけで支払いが出来、いちいち紙幣やコインの出し入れの手間が省け、数え間違いも無くなって便利になることだろう。だからキャッシュレス化のシステムを残すことは便利で、現金使用と併用すればよいと思う。

しかし現金には現金のがある。私たちはこれまで聖徳太子や福澤諭吉のお札(一万円)、樋口一葉(五千円札)、野口英世(千円札)などになじんできた。24年からは一万円札が渋沢栄一、五千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎に変わり、裏側の図案は東京駅丸の内駅舎、五千円が藤の花、千円が北斎の代表作・富嶽三十六景の神奈川沖浪裏になるという。北斎の図柄などは楽しみだ。

▲画像 新しい日本銀行券のイメージ 出典:財務省ホームページ

日本は世界でも現金主義が根強く、国内総生産(GDP)に占める現金の存在感は、他国に比べ突出しているらしい。16年のGDPで比べるとアメリカの8%、韓国の6%、最もキャッシュレス化が進んでいるスウェーデンはわずか1.4%で、対する日本は20%に達し、現在の現金流通量は2008年末の86兆円から115兆円へと10年間で3割も増えている。

一万円札の流通枚数は102億枚、千円札は44億枚に上る。逆にクレジットカードや電子マネーなど現金を使わないキャッシュレス決済の比率は20%に留まっているが、25年には40%に高めたいとしている。中国の現金流通残高は今年2月末で約131兆円と1年前に比べ2%減少しているという。

▲画像 様々な紙幣(日本銀行券) 出典:国立印刷局ホームページ

図柄の選考基準としては、偽造防止に必要な精密な写真が残っており、国民に知られ、業績が広く認められている明治以降の文化人としたようで、政治家は時代によって評価が変わりかねないため避けたといわれる。24年度発行となったのは印刷開始まで2年半かかり、自動販売機などの機械を入れ替える準備に2年半と計5年の期間が必要なためと説明している。新紙幣の発行は印刷機械関連企業にとって特需になるが、その効果は全体で1.3兆円程度、経済成長率を0.1%ほど押し上げるぐらいで、それほど大きなものにはならない。また五百円硬貨も素材が変更され2色構造となる。

▲画像 新しい500円硬貨は2色になる 出典:財務省ホームページ

むろん現在のお札や五百円硬貨も引き続き使えるので詐欺行為などの注意は厳しく呼びかけてゆくだろう。

▲写真 新元号「令和」を発表する菅官房長官(2019年4月1日)出典:首相官邸ホームページ

新元号が令和になる時に発表したが、実際の新紙幣の発行は五年後なので、令和との相乗効果はほとんどなさそうだ。ただ安倍首相にとっては、まだパッとした業績が見当たらないだけに新紙幣発行時の首相として名が残るかもしれない。本当は拉致、近隣諸国との関係改善、実質賃金の上昇などで名を残す業績をあげて欲しいのだが・・・。

トップ画像:現在の紙幣(日本銀行券)出典:国立印刷局ホームページ


この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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