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.社会  投稿日:2019/5/15

「マスゴミ」の汚名そそぐ日


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・保育園児死亡事故発生後の記者会見における記者質問に批判。

・「マスゴミ」批判に対し、新聞・テレビは反応が鈍い。

・社会の批判には真摯に向き合い、説明責任を。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45751でお読みください。】

 

昨今記者も大変だ。滋賀県大津市の保育園児死亡事故で、保育園が開いた記者会見の時の話だ。記者の質問が酷い、とネット上で炎上している。質問の内容毎に社名と記者の名前も既にネット上に上がっている。誰かがSNSやまとめサイトに載せている。

こうしたマスコミ批判は2011年の東日本大震災以降、加速したと見ている。ネットのおかげで誰でも情報発信ができる時代になった。今まで新聞・テレビに直接意見を届けることは出来にくかったが、今は簡単だ。

そのこと自体は世の趨勢であり、今後も加速していくだろう。誰も止めることはできない。問題はマスコミ側がそうした社会の動きに対応できていないことだ。マスコミは社会の批判に鈍感すぎる。取材手法が批判されたなら、何故そのような取材手法を取っているのか、説明する責任がある。

くだんの記者会見は、ネット上で、「園は被害者なのに記者たちが保育園側を責め立てているのは許せない」と批判されている。しかし、園が記者会見を開いた以上、記者として質問するのは当然のことだ。例えば:

 

・園庭はあるのかないのか。ないならその理由は

・何故交通量の多い道を横断して散歩に出るのか

・普段の散歩コースはどのようなものだったのか

・散歩は1日何回、何時頃行われているのか

・散歩1回あたり何人を引率するのか

・保育士は一人当たり何人の園児を引率するのか

・保育士の園児に対する付き添い方はどのようなものだったのか

・琵琶湖畔に行く以外に散歩コースはあったのか

・交差点では過去事故が起きたことはあったのか

 

 

など、聞くべきことは山ほどあり、それを質問しないのはありえない。確かに「園児たちは普段と同じ様子だったか?」などという的外れな質問は論外だが、事件の全体像を明らかにするために会見で質問するのは当然の取材プロセスなのだ。

話はそれるが、今回、保育園側がすぐ記者会見を開いたのには少し驚いた。通常、園は被害者の立場であり、あれほど精神的ショックの大きい園長が会見に出てきたことに少し違和感を感じた。事故発生直後ではまだわかっていないことも多く、話せることも限られるからだ。

園を運営している法人は、会見を開けば記者からあのような質問が出ることは十分想定できだろうし、園長があのような状態になることもわかっていたはずだ。マスコミが園に会見を開くよう強く要請したかどうかは知らないが、園側が会見を開くことを決定しなければ行われなかったわけで、その動機に筆者は興味がある。

話を戻して、炎上している「マスゴミ」批判に対してだが、マスコミはきちんと批判に対し自らの立場を説明すべきだと私は思う。マスコミは、ネット上で批判されていても気づいていないことが多い。そもそもネット上の情報をチェックする専任スタッフもほとんどいない。

そんな馬鹿なと思う向きもあろうが、それが実態だ。ネット上のパトロールに人を割こうという発想がないと思われる。それが対応の遅れにつながり、批判が批判を呼んでいるのが実情だ。マスコミがマスゴミと呼ばれるようになって久しいが、それを甘受していていいわけがない。普通の企業ではありえないことだ。自分達に記者としての矜持があるのなら、それを堂々と表明すればよい。自分達の取材手法に対する批判に真摯に向き合い、愚直に説明責任を果たすことが求められているのだ。自分たちは正しいのだから読者や視聴者に説明する必要はない、などと思っているのだとしたら、それは単なるおごりでしかない。

こうした中、読売新聞が読者の批判に正面から向き合った。4月19日、12人が死傷した東京・池袋の自動車暴走事故における加害者の表記の問題だ。通常事故を起こしたら加害者の表記は「容疑者」になるはずなのに、今回は「旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長」と表記された。それに対する批判だった。元官僚という『上級国民』だから特別扱いなのか、という言説がネット上に飛び交った。

これに対し読売新聞は、容疑者でなく元院長、加害者の呼び方決めた理由」と題した記事(5月10日)を掲載した。その中で、加害者が事故後入院しており、逮捕や書類送検はされていなかったことから、「容疑者」の法的立場にはなかった為、「容疑者」との標記を使わなかったと説明した。また、「飯塚さん」や「飯塚氏」などの敬称をつけるのも事故の重大さを鑑みると違和感があることから、過去政府の要職にあった事実を踏まえ、「元院長」との呼称に落ち着いた、との経緯も記した。

納得するかしないかはともかく、新聞が読者の批判に対し丁寧に説明を掲載するのは極めて珍しい。今後こうした流れが普通になることを願う。そして、テレビも同様に批判に対する丁寧な説明が求められるのは言うまでもない。

昨今、テレビの報道姿勢に厳しい目が注がれいる。社会の倫理観から乖離していると感じるケースが多いのだ。

読売テレビが5月10日に放送した報道番組、かんさい情報ネット ten.のコーナー「迷ってナンボ!」で、大阪市内の飲食店に「男性か女性か分からない常連客がいる」という情報を受け、お笑いタレントが当該客を直撃、性別を尋ねたり、保険証を確認したり、体を触ったりするなど、しつこく確認を求めたVTRが流れた。その後、スタジオ生出演中のコメンテーターが「許しがたい人権感覚の欠如」と指摘し激怒した。番組を見た人ならわかるが、キャスター陣は凍り付き、しどろもどろになって、まさに放送事故レベルだった。

▲ 写真:『かんさい情報ネット ten.』 出典:読売テレビ

渦巻く社会の批判に、結局読売テレビは5月13日放送の同番組でキャスターや解説デスク、報道局長らが謝罪し、同コーナーの休止が決まった。筆者の前稿驕るワイドショー久しからずでも指摘した通り、報道とワイドショーの垣根が無くなり、報道倫理に基づく番組制作がなされていないことがこうした問題を引き起こしている。読売テレビのこの件は氷山の一角だ。いつ同じような問題が噴出してもおかしくない。

テレビは面白さを優先するのではなく、視聴者の普通の感覚に寄り添った番組作りを心掛けてほしい。「笑い」は社会において大事なスパイスだ。しかし、それは権力を風刺したり、人の愚かさを気づかせるものであってほしい。弱者やマイノリティに対する優しい目線をみな必要としているのだ。

マスコミがマスゴミと呼ばれなくなる日が来ることを切に願う。それが社会にとって利益になると信じて。

 

トップ写真:イメージ 出典:Pixabay


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年12月2日 東京都生まれ(60才)1979年慶応義塾大学経済学部卒業、日産自動車入社(海外輸出・事業企画)、1985年国際大学大学院国際関係学科修士課程卒、1992年フジテレビ入社報道局政経部記者、1998年ニューヨーク支局長、2002年ニュースジャパンキャスター、2003年経済部長、2006年解説委員、2009年BSフジ「プライムニュース」解説キャスター、2013年フジテレビ退社、危機管理コンサルティング会社設立。ウェブメディアJapan in-depth編集長就任。

安倍宏行

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