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.国際  投稿日:2019/5/18

米、対北朝鮮軍事圧力を強化


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・トランプ政権首脳陣は北朝鮮とまずは外交解決をすべきと判断。

・米軍の軍事演習は北朝鮮への圧力か?

・米が開発した、暗殺武器「ヘルファイヤーR9X」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45791でお読みください。】

 

在韓米軍は、北朝鮮が5月4日と5月9日に発射した飛翔体を同じ種類の新型短距離弾道ミサイル(SRBM)と結論を下し、これを「KN-23」と名づけた。こうした中で米国議会では、北朝鮮に対する制裁強化だけでなく、軍事圧力の強化を求める声が拡大している。

5月15日、トム・ティリス上院議員(共和党)は「まだ北朝鮮との外交の余地は残っている」と言いながらも、「(挑発が続けば)いつ(トランプ大統領が)北朝鮮に対し『炎と怒り』で脅した2017年当時の状況に戻ってもおかしくない」と述べた。

▲写真 トム・ティリス上院議員 出典:Flickr; Gage Skidmore

またマーク・フィッツパトリック元米国務次官補代理(核不拡散担当)も「今年は『災い』を防がなければならない重要な年だ。(交渉の)進展がなければ、来年は2017年のように、北朝鮮の核実験と長距離ミサイル発射に対する米国の軍事攻撃の圧迫で緊張が起こる一年になるだろう」と語った(朝鮮日報日本語版2019/05/17 )。

▲写真 マーク・フィッツパトリック元米国務次官補代理 出典:Flickr; Heinrich-Böll-Stiftung

 

■ 米軍、「ミニットマン3」と「トライデント2」発射実験

ポンペオ国務長官もシャナハン国防長官も金正恩委員長との対話を強調しながらも軍事オプションを意味するプランBについて否定していない。シャナハン氏は、まずは外交的解決に努めることが先決だ。軍事的手段はその次に考慮されると語っている。

こうしたトランプ政権首脳陣の立場は米軍の具体的行動で示されている米空軍は5月9日0時40分(現地時間、日本時間9日午後4時40分)西部カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で、大陸間弾道ミサイル(ICBMの発射実験を行ったと発表した(北朝鮮の短距離ミサイル発射は午後4時29分)。一方、海軍のオハイオ級原子力潜水艦「ロードアイランド」も南部フロリダ州沖で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)トライデントの実験を行った。

▲動画:ミニットマン発射のビデオ

ICBM「ミニットマン3SLBM「トライデント2の精度などを確認するのが目的だというが金正恩に対する圧力になるのは明らかだ。ミニットマン3の発射は、事前に発表されていたために、北朝鮮の短距離ミサイル発射に対抗したものとは見られないが、北朝鮮に対する軍事的圧力の強化であることは間違いない。

▲写真 Minuteman III大陸間弾道ミサイル試験発射 2019年5月9 出典:U.S. Air Force カリフォルニア州Vandenberg空軍基地(米国空軍 Airman 1st Class Hanah Abercrombie)

 

■ アラスカで脱冷戦以後最大の軍事演習

またイランとの緊張を激化させながらも米国は、脱冷戦以来最大の「ノーザンエッジ2019」演習をアラスカで実施している。

アラスカでは5月13日から24日まで米太平洋空軍司令部主導で太平洋司令部が管轄する陸・海・空・海兵隊と予備軍1万名が動員され、250余機の各種航空機(戦闘機、爆撃機、電子戦機、早期警戒機、給油機など)と空母船団などが参加している。

空軍兵力1万名と250機の航空機参加は、北朝鮮との開戦を想定した2017年12月の韓国における「ビジラントエース」演習級以上だ。「ビジラントエース」では空母の参加はなかったが今回は空母も参加している。

原子力空母ルーズベルト船団には大型空母補給船が加えられているために演習終了後にそのまま朝鮮半島海域に向かうと見られている。そして12日にはすでに原子力空母ロナルドレーガンが横須賀を出港した。朝鮮半島海域に向かっているようだ。それに合わせてハワイから強襲揚陸艦パッソ船団が西に向かい、強襲楊陸艦ワスプ船団も南シナ海演習を終え北上している。2017年には、ニミッツ、カールビンソン、ロナルドレーガンなどの空母が動員されたが、同時に動員されていなかった。今回は空母2隻と強襲揚陸艦2隻の計4隻が朝鮮半島周辺で合流すると見られている。

▲写真 空母ロナルドレーガン 出典:Pixabay; David Mark

 

■ 朝鮮半島周辺へ「事前集積船」が集結

この動きに合わせて有事に戦闘物資を補給する巨大な「事前集積船(Maritime Prepositioning Ship)」(大量の弾薬。戦車、装甲車、油類などを積載)が続々と朝鮮半島周辺に集結している。その規模は訓練水準や局地戦水準をはるかに越え全面戦の水準に達している。

韓国の浦項(ポハン)港に3隻がすでに停泊しており、釜山(プサン)、クアンヤン、鎮海(チンヘ)各港へ向け3隻が航行中(14日現在)である。

そればかりか日本の沖縄、横須賀には兵力輸送船も待機中であり、艦隊補給船も九州近海で待機している。その他グアムなどに待機中のものと合わせればもろもろの補給船11隻が朝鮮半島周辺に集結もしくは集結中である。

また海上で装備・弾薬などを補給する機動上陸支援船もシンガポールから朝鮮半島に向かっている。そしてカルフォルニアのワイニメ港では、陸軍1個師団が重武装できる武器と装備を輸送船に積載中であるという。

これらの事前集積船の物資を総合すると、海兵隊3個旅団、陸軍1個師団、陸軍1個機甲旅団の武器準備、そこにさらに陸軍1個機甲師団の武力を追加できる武器と装備の準備となる(このほか秘密裏の武力結集もありうる)。

5月11,12,13日には将官級VIP輸送機C-4C,C-37A,C-40Bが、次々と米国本土とハワイから横田基地に飛来した(シン・インギュン国防TV)。

 

■ 恐怖の暗殺兵器も公表

ウォールストリートジャーナルは、5月9日付で、不活性弾頭に6つの特殊ナイフを内蔵した暗殺武器「ヘルファイヤーR9Xについて次のように報道を行った。

「米国政府は、爆発することなくテロリスト指導者を殺害する、ピンポイント空爆用に特別設計された秘密ミサイルを開発した。この秘密の米国ミサイルは、近くの民間人には傷つけずテロリストだけ殺すことを目指している。

武器が爆発することはないが、内蔵するナイフがターゲットだけを細断処理するように作られている。 2017年と今年注目を浴びた(テロ分子の)標的を除去するのに使用された。

▲写真 Lockheed Martin Hellfire II 出典:Stahlkocher

中央情報局(CIA)とペンタゴン(国防省)の両方がその存在を厳重に管理しながら使用している。よく知られているHellfire(ヘルファイア)ミサイルの改良版であるこの武器は不活性弾頭で、 爆発するのではなく、急落するように設計されている」(WSJ2019・5・9)

金正恩の車両の周りをボディガードが仰々しく守っても頭上から高速で落下する「ナイフミサイル」は防ぐことができない。

トップ写真:第2回米朝首脳会談時 出典:Voice of America


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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