米中「新冷戦」長期化不可避 長島昭久衆議院議員
安倍宏行、Japan In-depth編集部(小俣帆南)
「編集長が聞く!」
【まとめ】
・米朝関係、金総書記が非核化プロセスでどんな提案できるか次第。
・菅官房長官訪米の目的は北の情報機関と日本の警察とのチャンネルの総括か。
・「新冷戦の時代」、日米同盟関係の中で抑止力拡大することが重要。
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今月9日、北朝鮮が2発の短距離弾道ミサイルを発射。米中の貿易戦争は激化の一途をたどっている。流動化する東アジア情勢について、長島昭久衆議院議員に話を聞いた。
始めに長島氏は、北朝鮮のミサイル発射による挑発について「北朝鮮としてはあの手段しか持ち得ていない」と述べ、北朝鮮が短距離ミサイルの発射に踏み切った背景に「アメリカの関心を惹きつけるという点に関しては、ミサイルと核という手段しかない」ことと、「軍部を中心とした国内からの融和路線に対する懸念」があることを挙げた。特に国内からの懸念に対しては、金正恩総書記が「自分がアメリカに動かされているのではなく、自分がアメリカを動かしている」という力関係を示したかったのではないかと推測した。
また今年2月に開催された二度目の米朝首脳会談の結果について、「金正恩総書記はハノイで完全にシャットアウトされ、手詰まりに陥った」と述べた。更に会談を受けて「内部矛盾が噴出して金正恩総書記が統制出来なくなるのか、或いは次の手を打ってくるのか」が着眼すべき点だったとの見解を示した上で、今月に入って北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射した件についてトランプ大統領が「本件は不問に付し、対話路線を継続する」という姿勢を示していることを確認。今後の米朝関係については、「非核化プロセスについて、金正恩総書記が戦略的決断をして具体的な提案をどこまで出来るか」が鍵だと述べ、北朝鮮側には「あまり時間は残されていない」との見解を示した。
日本と北朝鮮の関係については、2002年に金正日総書記が謝罪をして拉致被害者5名を帰国させた事例を挙げ、当時の国際情勢について「北朝鮮はアメリカのブッシュ政権との関係は悪化の一途をたどり、中国・ロシアなどとも上手くいっていなかった。こういう八方塞がりの状況の中で日本に突破口を求めた」と述べた上で、現在の日朝関係も同じ構図であると指摘。
現在の北朝鮮と韓国との関係について、「文在寅政権は(北朝鮮を)支援したくてたまらないが、金正恩総書記はある種のやせ我慢で韓国を外している。中国・ロシアにはあまり依存したくない。トランプ大統領との関係も手詰まり。その中で経済的なディールが可能な日本に接近する、というのは彼のオプションの中には確実にあると思う」と述べた。
▲写真 ©Japan In-depth編集部
今月9日には菅義偉官房長官がアメリカを訪問、ペンス副大統領との会談を果たした。この訪米の背景について、「菅官房長官訪米の一番のミッションは、北朝鮮の情報機関と日本の情報機関(警察)との色々なチャンネルの総括をする」ことであり、「ワシントンやニューヨークで両者を接続するようなやり取りがあったのでは」との見方を示した。「そうでも無ければ、わざわざ官房長官がアメリカに行くはずがない」「官房長官の訪米が決まってから安倍首相の言いぶりが180度変わったのは、何らかのシグナルではないか」などと述べた。今回の訪米の成果については「3か月後、半年後にならないと分からない」との見方を示した。
▲写真 菅義偉官房長官とマイク・ペンス副大統領。5月10日(現地時間)出典:外務省
アメリカと中国との間では貿易摩擦が激化している。米中の覇権争いについて、「去年10月4日に行われたハドソン研究所でのペンス副大統領の演説を新冷戦『布告』演説と位置付けて見ていた。これが新冷戦であることは間違いない」と述べた上で、「冷戦は熱戦ではない。熱戦にしてはいけない。しかし、二つの価値観がぶつかり合うという意味では、干戈(かんか)は交えないけれども冷たい戦争であることは紛れもない、隠しようがない」と改めて主張。「ディールメーカー」であるトランプ大統領の対応について、「中間選挙や大統領選挙などを見て、デッドラインの3月下旬あたりで妥協すると思っていた。ここまで引っ張ってくると思わなかった」と述べ、ハイテク覇権をめぐる貿易戦争の長期化は避けられないとの見通しを示した。
トランプ大統領が課した追加関税についても、「第3弾まではアメリカの消費者に影響が及ばないように注意深く制裁対象品目を限定してきた」ことに対して、「第4弾の7割は消費財。事実上、全貿易額に関税をかける」という姿勢に転じたことを指摘。「確かに短期的には痛みは大きいが、長期的な覇権維持には意味がある」という専門家の意見が米国内で挙がっていることにも触れ、「そうなってくると様相としては冷戦」だと述べた。
新冷戦構造が日本にもたらす影響について、「安全保障上の脅威は、冷戦期のソ連よりも、ハイテクな軍事力による圧力によって相当大きなものになる。日本一国ではそれを跳ね返すことが難しいので、日米同盟関係の中で抑止力を拡大する」ことが大事だとした。日米関係が果たす役割の一つとして、「インド太平洋地域におけるアメリカの安全保障コミットメントを維持させる」ことを挙げ、「日本の役割は昔から変わらない。日本がそういう責任を担うことでアメリカがコミットメントを続けていく。だから、インド太平洋地域における安全保障を維持させるという意味では、日本は非常に大事な役割を担っている」と述べた。
アメリカのシェール革命によって中東の石油依存度が下がり、アメリカの安全保障上の、インド太平洋の重要度が下がるという見方がある。これについて、「長期的にはその可能性もある。日本も中東依存度を下げて、アメリカやオーストラリアなど同盟国のエネルギーにシフトしていくのだろう」と述べた。
一方で、アメリカとイランとの関係に注目し、「トランプ大統領は意味のない関わりはしたくない。中東からはすぐ手を引くと思って見ていたが、そうでもない。トランプ大統領がイランにこだわるのは、イスラエルの存在があるから。中東との関わりを一気に無くすという見方については、資源分布だけでは測れないと思う」との見解を示した。
(このインタビューは2019年5月22日に行われたものです)
©Japan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。