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.社会  投稿日:2019/6/8

女性起業家が考えた広報の形


Japan In-depth編集部(小寺直子)

【まとめ】

・20代でベンチャーSelanを立ち上げた女性起業家樋口亜希さん。

・認知度アップのために広報業務に奔走。

・今後はリベラルアーツコンテンツをアジア中に広げていきたい。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46195でお読みください。】

 

共働き世帯は、1980年以降右肩上がりに数を伸ばし、2012年以降は1000万世帯を突破、なお増加し続けている。さらに、働き方改革で女性活躍のチャンスは着実に増えている。しかし、最新の調査では、上場企業3490社のうち女性役員が一人もいない企業は2223社で、全体の63.6%を占めることがわかった。(2019年5月東京商工リサーチの「女性役員比率」調査)さらに、「日本で起業をしている女性」を他国と比較すると、その割合はブラジルの7分の1、米国、中国と比較しても5分の1に留まっている。

そうした中、20代でベンチャー企業Selanを立ち上げ、4年間成長を続けている女性起業家 樋口亜希さん。教育ビジネスで成長を続けてきた経験と今後の挑戦を伺った。

▲図 起業家精神と成長ベンチャーに関する国際調査 出典:一般財団法人 ベンチャーエンタープライズセンター (H25)

 

■ Selanが解決する社会課題

Selanが展開しているお迎えシスターは、お迎えと家庭教師を掛け合わせたサービスである。バイリンガルの大学生が保育園や小学校に子どもを迎えに行き、英語で話しながら一緒に帰宅。その後、自宅で英会話のレッスンをする。両親は在宅の必要はなく、その間の迎えやレッスンの状況はLINEでリアルタイム報告する仕組みだ。その日の成果は動画ですぐ共有する仕組みである。

「起業当時から2つの社会課題を解決するという路線は変っていない。」という樋口さん。

「まずは女性活躍推進の側面。日本のお母さんたちにとって子供の「お迎え」が大きな課題となっている。その代わりを担い、お母さんが自己実現できる環境を整えたいということ。もう一つは、日本の子供たちが国際的な環境に触れる機会が少ないこと。国際的な場では、デスカッションをする文化が強く、知らない分野の話や単語が山のように降ってくる。その環境を留学に行かなくても、子供の頃から家庭で手軽に体験できるようにしたい。コンセプトは「子供たちにロールモデルを」。子供たちが先生というロールモデルに出会うことで、世界観が広がるきっかけ作りをしている。」

年数を重ねるごとに子供のデータが蓄積され、創業当時よりも、「教育」に焦点が当たるようになってきた、と樋口さん。“子どもたちに、語学だけでなく、それを通して国際的な視野も持ってもらいたい”という視点で、2017年に「dot.school」という、週末スクール型サービスをオープンした。子供のレベルや興味・ペースに合わせてオリジナル教育コンテンツを作っている。英語でAI、人権問題、経済、ビジネス、国際情勢など、大人が学ぶような内容を早いうちから学び、世界を広げてくことができる画期的なプログラムだ。

▲写真 提供:Selan

 

■ 認知度アップのために行ったこと

起業家がまず壁に当たることは、「どうすればプロダクトやサービスを多くの人に知ってもらうことができるのか。」だと樋口さん。経験談を聞いた。

「ノウハウがなかったので、広報がうまくいっている会社の知人や広報のプロに話を聞きに行き、教えてもらった広報ツールを一通り全部作成した。会社の3つのハイライトを書いたチラシを、どこに行くにも持ち歩いて、配りまくるという地道なアピール活動を続け、超コアなファンを10人作った。その10人は色々なフィードバックをくれ、頻繁にその家庭に訪問して、その人たちの要望を一つずつ叶えることでサービスを改善していった。そうしたら、その10人の口コミでコアファンが30人に増え、そこからさらに広がって100人、という形でじわじわ増えていった。」

では、最初の超コアファン10人はどのように見つけたのだろうか。

樋口:「とにかく色々なイベントに参加してお母さん目がけて話を聞きに行き、そこで出会った人たちだった。偶然、広報をしているお母さんに出会い、一緒に広報戦略を考えてくれた。ユーザーに助けられてここまできた。イベントは夜に行われることが多いので、毎日かなりハードだった。」と当時を振り返った。

新聞、テレビと多くのメディアに取り上げられてきた樋口さんだが、最初はどのようなきっかけだったのだろうか。

樋口:「記者の知り合いがいた訳ではない。記者がいるコミュニティに参加できる方法もない。そこで、教育に関連する記者の名前をとにかく書き出し、その人のTwitterやFBを調べたりして、100人くらいのリストを作った。直接電話したりメールしたりという地道な作業だった。そのうちの数人が、興味を持ってくれたことがきっかけ。今でも10人くらいとは良好な関係が築けている。何か新しいプログラムが出れば連絡をするようにしていて、特集などとちょうどタイミングがあえば、取材をしてもらっている。」

 

■ 経営と広報の両立

樋口:「創業者にとって広報活動は大きな負荷がかかるケースもある仕事後にイベントに行ったり、取り上げられるかも分からないのに記者に電話して、とても辛い。でも、やらないよりは良いと思う。記事にならなくても人間として繋がっていれば、どこかに繋がる。結局は人なんだと思う。

お迎えシスターのHPを見ると、ネイティヴ先生の自己紹介動画が印象的だ。採用率は20%で、現在は350名の先生の登録があるという。求人の募集はどのように開始したのだろうか。

▲写真 提供:Selan

樋口:「最初は、自分で先生もやりながら、経営をしていたが、途中から友人の後輩を紹介してもらい、3人、5人と徐々に先生を増やした。大学でチラシを配ったり、大学の寮にビラを貼ったり。地道なやり方だった。そこからは口コミで広がっていった。先生の見える化をして、安心感を伝えることが重要だと思ったので、先生の動画をHPで公開しその空気感を伝えている。この先生紹介動画は最初は親御さんのために作ったものだが、公開したところ初めてご覧になる方にも雰囲気が伝わりやすくなり役立った。」

地道に粘り強く広報活動をされてきた樋口さんだが、想定外で反省していることもあるという。

樋口:「サービス、プロダクトが完成しきっていないのに広報すると収拾がつかなくなる、というのが大きな反省。メディアに出た時のインパクトを想定していなかったし、そもそもその発想もなかった。起業後すぐに運よくテレビに取り上げられたら、想像以上の反響ですぐにオペレーションが回らなくなってしまった。その結果、新規のお客さんの対応ができず謝罪したりしなくてはならなかった。これから起業する方は、プロダクトやサービスがせめて8割程度まで完成してから、広報活動に踏み切った方がいいと思う。自身の経験から早すぎると逆効果になることを学んだ。しかし、サマースクール、プラン追加などの小さなことでもプレスリリースは頻繁に出して、PRからは遠ざからないように気をつけていた。発信し続けることは大切だと思う。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

 

■ これから先の事業展開

起業から丸4年。様々な壁を乗り越えてきた彼女の今後の事業展開を聞いた。

樋口:「今展開しているリベラルアーツコンテンツをアジア中に広げていきたい。また、今まで蓄積してきた何万時間分のレッスンデータから、子供により学び方の効率が全く違うことを発見した。その子のタイプを先生が分析して、教え方に反映できる仕組みにも取り組んでいきたい。」

日本ではまだ少ない女性起業家。しかし、樋口さんのように活躍する起業家がメディアでも多く取り上げられるようになってきた。その波及効果で、日本にも女性起業家が増えていくことを期待したい。

お迎えシスターは「子供たちにロールモデルを」というコンセプトだが、樋口さん自身が女性起業家のロールモデルとなり、彼女たちの背中を押し続けるだろう。

トップ写真:©️Japan In-depth編集部


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