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.国際  投稿日:2019/7/13

韓国民の怒り文大統領に向く


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

【まとめ】

輸出優遇撤回が韓国ネット世論を「文在寅討つべし」に変えつつある。

「半島統一は利益」に疑問抱く韓国民が増え、日本との協調再認識。

・安倍首相の奇襲は成功。韓国民の怒りのブーメランが文大統領へ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46837でお読みください。】

 

日本政府が韓国に対して与えていた輸出手続き優遇措置を撤回したことによって、韓国経済が潜在的に受ける大きな損害の規模が明らかになるとともに、韓国の輸出管理体制に疑問符がつき、韓国政府の経済運営や外交能力の信用が失われた。

こうしたなか、韓国ネット世論の潮目が変わった文在寅大統領が推進する「中露朝韓vs.日米」という新たな枠組みよりも、従来の「日米韓vs. 中露朝」の構図が、韓国民の利益が大きいのではないかという自発的な心変わりの萌芽が見られるのである。

 

■ 「日本討つべし」が「文在寅討つべし」へ

去年暮れから今年初頭の海自機レーダー照射事件の際には、韓国世論ではほぼ99%、「安倍憎し」「日本憎し」、そして「日本討つべし」との声が支配的であった。ところが、現在の局面においては「安倍憎し」「日本憎し」が変わらないものの、「日本討つべし」が「文在寅討つべし」に変わりつつある

日本とのケンカで得る利益と被害の比較が冷静に行われ、明らかに損害が利益を上回るとの認識が支配的になりつつある。そのため、「間違った人物を大統領に選んだ」「文在寅が退いてこそ国が生きる」などの声が多くみられるようになった。

これが日本に強制されたわけではなく、自発的に韓国民から出てきた世論であることが重要である。特筆すべきなのは、現在収監中の朴前大統領の政権末期に彼女に対して浴びせられていた「弾劾せよ」「監獄に送れ」との表現が文現大統領に対して使われる頻度が、ここ数日で増えていることだ。

つまり、表の世論調査で支持率が50%に再上昇したはずの文政権が、ネット世論上では国民の支持を失いつつあるということである。

▲写真 日韓首脳会談(2018年9月25日 米・ニューヨーク)出典:韓国大統領府ホームページ

 

■ 自国政府の説明が信じられない

北朝鮮を利する韓国の瀬取りについても、半年前は自国政府の説明を信じ、「日本を討て」との声が支配的だったが、今月に入って日本側の説明を信じる書き込みが増えている。

韓国民は日本国民とともに「当事者」であり、毎日のように日韓の争いの情報に接しているから、外野の欧米人より潜在的な理解力が高い。韓国政府の説明に感じていた疑問というパズルの穴に、敵国日本の政府の「戦略物資を北朝鮮に横流し」の説明のピースがピタリとはまったということだ。

韓国民の心情は相変わらず「安倍憎し」「日本憎し」ではあっても、韓国に経済上の人災をもたらしているのは、自国の「文災害」大統領であり、倒すべき対象は日本ではなく、文氏であるという認識だ。

この点で安倍総理の投げた報復の爆弾球は、ストライクゾーンど真ん中で炸裂し、文大統領は深傷を負っている。韓国民は政治の潮目が変わると、歴代の為政者に対して、池に落ちた犬を叩くような行動を見せてきた。朴前大統領が血祭りにあげられて失脚したような、「あの雰囲気」「あの兆候」が再び見え始めている。

▲写真 日本による輸出手続き優遇撤回を受け、文在寅大統領(左列中央)は主要30企業グループのトップを招き、韓国政府の努力を説明した。(2019年7月10日)出典:韓国大統領府ホームページ

 

■ 揺らぐ「半島統一は韓国民の利益」の根拠

文政権は、北朝鮮と韓国の連邦制統一を念頭に置いた「中露朝韓vs.日米」という新たな枠組みを国民に提示し、「民族の感動的な再統一」「経済特区の共同開発による発展」など、観念的で画餅に過ぎない「利益」を強調してきた。

その南北共通の敵である日本と韓国の対立を深め、北朝鮮との連携を深める手段として、文政権は金正恩朝鮮労働党委員長と歩調を合わせて、従軍慰安婦や徴用工、海自機レーダー照射事件などありとあらゆる日韓離反・朝韓合一のための機会を利用してきた。それが、韓国民の利益になるとの触れ込みであり、韓国民もそれを信じてきた。

ところが、日本による対韓輸出優遇の撤回により、そうした理想郷を謳う言説が信用を失った。韓国のネット世論を日本語に翻訳する「カイカイ反応通信」によれば、以下のような書き込みが目立つ。

「私が生きてきて、日本の主張がこんなにも理解できたのは初めてだ…wwwwwww」

「韓国経済が粉砕されて、国民だけが死んでいく」

「1億ウォンの補償を受けて証券市場100兆ウォンをふっ飛ばすという」

「最低賃金引き上げで零細事業者を粉砕、週52時間勤務制で中規模企業を粉砕、そして今、反日で大企業を粉砕。本当に文在寅が退いてこそ国が生きる」

「我々が日本と反目して得る利益よりも、損害のほうが大きい」

「日本は傷だけ負うが、我々は死ぬ。我々が死ねば、その果実は米国と日本が食べる」

「文災害とその支持者よ、感情だけで生きることが、どれほど愚かなことなのかを悟れ」

「だから選ぶなと言っても選んだのは誰なのか。国民はさらに被害を受けなければならない」

▲写真 南北首脳会談(2018年4月27日 板門店)出典:韓国大統領府ホームページ

 

■ 戻ってきたブーメラン

文大統領の「半島統一は韓国民の利益」の言説の信用が揺らぎ、日本が嫌いであっても日本と協調する利益が再認識され始めている。

これから韓国世論やネット世論がどのように動くかは、予想できない。だが、文政権に対する韓国民の信頼を動揺させ、彼らの損得の利益思考に重大な影響を与えたという点を見るならば、安倍総理の奇襲攻撃は満足のいく所期の成果を収めたといえよう。

文政権が、北朝鮮から日本に向けさせていた韓国民の憎悪や怒りが、ブーメランとなって文大統領に向き始めているからだ。同時に、これは日韓を離反させて地政学的な利益を得てきた中露朝への打撃であり、事実、北朝鮮は今回の輸出手続き優遇措置の撤回に対して、感情的な反応を見せている。

半島統一そのものは止められなくても、それに根源的な疑問を抱く韓国民を増やしたという意味で、日本政府は一矢を報いたと言えよう。

トップ写真:G20大阪サミット出席のため来日した韓国・文在寅大統領夫妻(2019年6月27日 関西国際空港)。結局、日韓首脳会談は行われなかった。 出典:韓国大統領府ホームページ


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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