ニセコ沸騰のきっかけとは
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
「出町譲の現場発!ニッポン再興」
【まとめ】
・ニセコ沸騰のきっかけはラフティング。
・ニセコは物価も賃金も上昇『ニセコノミクス』実現。
・長期滞在の外国人を魅了する街づくりが経済効果を生む。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47600でお読み下さい。】
新幹線が開通すれば、観光客が増え、地域が潤う。そんなストーリーを描き、新幹線に熱い期待を寄せている地方は多い。
しかし、私は過度に期待しない方がいいと考える。新幹線開通後も、期待ほど潤わない地方は少なくない。ストロー現象で、都会に人が流出するだけではない。新幹線開通に備え、大型公共事業を行い、挙句の果てに、財政危機に陥るケースもある。大事なのは、新幹線より、地道にまちの魅力を高めることだと思う。
私は北海道のニセコを訪れ、それを痛感した。千歳空港から車で2時間もかかり、不便極まりない。しかし、外国人が殺到する。その中心、倶知安町(くっちゃんちょう)では1億円を超える高級コンドミニアムが瞬時に完売する。ある調査地点では、住宅地、商業地ともに前年比5割以上値上がりしている。上昇率は5年連続で全国1位を誇る。ニセコ沸騰の立役者の一人は、オーストラリア人、ロス・フィンドレーだ。
▲写真 ロス・フィンドレー氏 出典:著者提供
フィンドレーはバブル期にスキーのインストラクターとして来日した。当初はスキーブームで潤っていた倶知安町だったが、ブームが去った後、閑古鳥が鳴いていた。そこで目を付けたのは、ラフティングだ。7、8人ぐらいが大きなゴムボートに乗って、清流を川下りする。
「ニセコは、夏場はこれといってやることがない。手持ち無沙汰になる観光客も多い。そのため、人の動きもパタリと止まる」。100万円貯めたお金で会社を起こした。
「最初の年は200人が目標でした。口コミでどんどん広まり、その年いきなり、1500人が利用してくれた。それから、テレビタレントなどが取材し、ニセコのラフティングは盛り上がったのです」。いまでは年間およそ3万人が、ラフティングツアーを体験している。ニセコの夏の代名詞ともなっている。冬場だけの観光地が、様変わりした。具体的な数字になって表れている。倶知安町の隣、ニセコ町の夏の観光客数は今や、冬を上回る。現在、160万人程度で推移している。
▲写真 倶知安町 出典:著者提供
雇用拡大にもつながる。フィンドレーの会社は3人から始めたが、今では80人が働いている。Uターン組もいれば、たまたまニセコを訪れ、気に入って就職した人もいる。
フィンドレーは「ニセコは今、『ニセコノミクス』を実現しました。安倍政権は物価目標を2%に掲げていますが、ニセコでは、物価上昇と賃金アップはもっと進んでいます。スキー場のリフト券は7%上昇、宿も15%アップ。最低賃金も千円ほどです。北海道全体の810円を大幅に上回っているのです」と話す。
その上で、強調する。「この地域に長期滞在している外国人観光客はだいたい、常時1万人ほどいます。さらに、1200人の外国人がこの地で働いています。これは地域住民1万5千人に匹敵する数字なのです」。
実際に町を歩くと、看板にも英語が目立つ。カフェ、レストラン、お土産物店などは、おしゃれな感じだ。建設中の大きなホテルがいくつもあった。1泊10万円以上のコンドミニアムに長期滞在する外国人も多い。
観光に大事なのは、経済効果だ。フィンドレーによれば、ニセコに長期滞在する外国人は日本人と同じように、スーパーで買い物したり、床屋へ行ったり、病院に行ったり、電気やガスを使ったりするという。この地域全体にお金を落としている。
「経営者ばかりもうかっていてもダメなのです」。短期の観光客の場合は、その宿の経営者だけがもうかるが、長期では、地域全体に恩恵が広がるという理論を描く。
私は膝を打った。観光客の数ばかり気にして、いくらお金を落とすかに、ほとんど関心の払わない首長などとは大違いだ。
「ニセコノミクス」の原動力は外国人の存在と言える。彼らの消費は、物価を押し上げ、賃金も増やすパワーを持っている。それは雇用を増やし、人口増加にも結び付く。そんな好循環を実現したことになる。
外国人が不動産を買いあさっているニセコの現状には、批判もあろう。飲食店のメニューが異常に高くなり、生活が不便になった面もある。しかし、人口減少に直面している地方に散っては、外国人の存在は極めて重要だ。外国人を魅了するまちづくりは、地域再生のカギを握っていると思う。
トップ写真:ラフティング(イメージ)出典:Pixabay; julianomarini
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。