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.国際  投稿日:2019/9/27

韓日の政治家・官僚は同罪 「知日派」韓国人の声 その2


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・日韓基本条約で支払われた韓国への資金援助はインフラ整備に消えた。

・当時の日本政府も請求権協定と個人賠償請求権は別物であるとの見解。

・日韓ともに、非難合戦ではなく、それぞれ自己批判すべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48118でお読みください。】

 

いわゆる徴用工問題について、日本のネットでよく目にする、

「韓国が、またまた歴史問題を持ち出してケンカをふっかけてきた」

という見方は誤解である、と前回申し上げました。

ただ、この問題をあくまで公平に見ようとすれば、韓国の側にも「歴史問題」が存在するのだということは、認めざるを得ないですね。

どういうことかと言いますと、1965年に日韓請求権協定が締結されたわけですが、その交渉の過程で当時の政府は、個人補償は韓国が責任を持って解決する、と明言しました。だから日本からの補償金をもっと上乗せしろ、と。

そして実際に、この請求権協定を含む日韓基本条約によって当時の金で5億ドルという巨額の資金援助を日本から引き出しました。韓国にとっては、当時の国家予算の2年分以上、戦後復興の途上にあった日本としても、一括では支払えなかった金額でした。

その金が、慰安婦とか徴用工といった人たちへの補償に充てられるのではなく、道路やダム、発電所と言ったインフラの整備に、ことごとく使われてしまったのですね。

この件は韓国国内でも問題視され、2014年には訴訟沙汰にまでなったのですが、違法行為と見なすことはできない、よって政府に賠償責任なし、という判決が出されました。

その一方では、この請求権協定によって、個人の賠償請求権まで消滅したわけではない、というのが日本政府の立場でした。

1991年に、当時外務省の条約局長だった柳井俊二氏が、

「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない」

という国会答弁を行いました。

▲写真 柳井俊二氏 出典:Filckr; International Maritime Organization

これが韓国内でも大きく報道され、これ以降、個人請求権に基づく訴訟が多発するようになったとして、やはりネットの一部では、柳井氏を売国奴呼ばわりするような論調が見受けられますが、なにを言ってるんですか、という話です。

かつて半島や大陸に持っていた財産を奪われた日本人もいれば、満州やサハリンで戦争の被害にあった人々もいる。それを、日韓基本条約だけを根拠に、個人請求権などもはや消滅した、などと杓子定規に決めつけたら、どうなるでしょうか?

全ての戦勝国から、

日本はあの戦争について、本当に反省しているのか

などと、袋叩きにされかねなかったでしょう。少なくとも1960年代の、戦勝国の対日感情はそうしたものであったと考えられます。

そのような、歴史的背景というものを無視して、揚げ足取りのように、韓国にすり寄っているだとか、日本の国益を損なっているだとか、見当外れのことを声高に言いつのる人たちの方こそ、この国の品格を傷つけているのではないでしょうか。

1990年代以降、個人請求権に基づく訴訟が多発するようになったことは事実ですが、柳井氏の国会答弁はひとつのきっかけに過ぎなかった、ということも、また事実なのです。

なぜならば、1980年代以前の韓国は、軍事政権でしたからね。請求権協定も含めて、国と国とが取り決めたことに一般市民が異議をとなえるというのは、それこそ「非国民」ではないですけど、よろしくないことだとされていました。

別の言い方をするならば、1990年代以降に個人請求権に基づく訴訟が多発するようになったことは、民主化のたまものだという側面があったわけで、今次の判決を日本政府が「国際法に照らしてあり得ない」(安倍首相)と断言したことに対して、韓国の世論が激高したのも、こうした歴史的背景があったからなのです。

ただ、前回も触れましたが、判決そのものに問題はなかったのかと言われれば、私個人としましては、妥当ではなかった、と考えています。

なぜならば、先ほどお話ししましたように、日韓基本条約で巨額の金を受け取ったことは事実ですし、韓国戦争(朝鮮戦争)の痛手もあって、世界の最貧国に数えられていたわが国が、その資金を活かして大いなる経済成長を遂げたことも事実。繰り返しになりますが、植民地支配によって生じた被害の補償は韓国政府が責任を持つ、と一度は明言したことも、これまた事実ですから。

実を言えば、大法院の判決は日本の最高裁と同様、合議を経て下されます。

今の私と同様に、賠償の責任は韓国政府が負うべきだ、との意見を述べた判事も二人いたのです。しかし、少数意見として退けられました。

さらに度し難いのは、この合議が行われた時期ですね。

この訴訟は何年も前に提起されていますから、本当は、前政権つまりパク・クネ(朴槿恵)大統領の時代に判決が出されるべきでした。

ところが、合議をすれば間違いなくこうなる、という予測が、なぜか大統領の知るところとなった。

これでは日本との関係がまずくなるだけだ、と考えたパク・クネは、あろうことか当時の司法長官と闇取引をしたのです。

▲写真 パク・クネ(朴槿恵)元大統領 出典:ロシア大統領府

当時の司法長官は、三審制を見直して特殊な事案に対応できる司法機関を作りたいという考えをもっていまして、その司法改革を政権が前向きに検討するのであれば、この徴用工判決は先延ばしにする、と言ったのですね。その後、こうした闇取引がバレて訴追され、有罪判決を受けました。

こうした次第ですから、韓国の司法だってろくなもんじゃないだろう、と言われたら、私としても頭をかく他はない、という面はあるのですよ。一国の総理が、他国の三権分立を脅かすような発言をすべきではない、という意見まで、撤回するつもりはありませんけどね。

安倍政権にせよ、この判決に激高したのは、これを是認したら、今後も訴訟の連発に歯止めがかからなくなるおそれがあるし、中国人も黙っていないだろう、といった判断が背景にあったのではないでしょうか。げんに政府のブレーンとされる学者がそうした意見を開陳した、という情報を私は得ていますよ。

つまり、こういうことではありませんか。

政治家や官僚が、自分たちの過去の発言に責任を持とうとせず、条約の趣旨までも、時の政府の都合で解釈を変更してしまう。その結果、被害者の立場は置き去りにされる。

これが現実に起きていることであり、この点で、日本も韓国も同罪であると私は考えます。同罪である以上、批判をエスカレートさせるのではなく、それぞれ自己批判もちゃんとするべきです。具体的には、日本の安倍政権は韓国の三権分立を尊重しなかったこと、韓国政府は大人げない反日発言の数々についてですね。

韓国も日本も、昔から礼節ということを非常に重んじてきた国ではありませんか。

もう一度その原点に立ち返って、新たな有効関係を模索するべきだと、私は思います。 

(取材・構成・文責/林信吾

 

【ヤン・テフン】

1967年、釜山生まれ。韓国の大学に合格していたが、兵役満了後、日本に私費留学し、城西大学経済学部卒業。韓国のTV製作会社の日本子会社勤務を経て、通訳・コーディネイターとして独立。現在はジャーナリストとしても活躍中。

トップ写真:慰安婦像 出典:Flickr; YunHo LEE


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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