無知で無節操なマスコミが一番悪い 「知日派」韓国人の声 その3
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ネット世論と現実社会は大きくかけ離れている。
・日本も韓国もネットに媚びるような論調で状況を悪化させている。
・ネットの一部の悪口を本物の世論であると勘違いしてはいけない。
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不幸なことに、韓日両国の関係は今、かつてなかったと言われるほど冷え込んでしまっています。
夏には、日本のある週刊誌が『韓国なんかいらない』という特集記事を載せ、執筆者をも含めた各方面から糾弾されて、謝罪に追い込まれるという騒ぎも起きました。
私はと言いますと、見出しだけで内容は想像がつきましたから、買って読んでなどいません。そんな雑誌に、お金を払う気になどなれませんし。
ですから、読んでもいない記事についてコメントはできませんが、辞書や教科書まで出している名門出版社がやることか、という感情は、やはり抑えがたいものでした。
林さんから教えていただいたのですが、問題の編集部内では、
「今、韓国を叩けば部数が伸びる。ネットで話題になれば二度おいしい」
という判断で、企画にGOサインが出されたのであると、日本の出版業界では衆目が一致しているとか。
ネットで韓国や韓国人、それに在日の悪口を書くと閲覧数が伸び、お金にもなるというのは、なにも今に始まったことではないと思いますけど、ジャーナリストがそこまでネットに媚びるというのは、やはり考えものです。
私はすでにお話ししましたように、日本在住の韓国人ジャーナリストとして、もう30年もこの国で暮らしているわけですけれど、今度のことで仕事がやりにくくなったとか、そういうことはまったくありません。
取材に出向いた先でも、皆さん親切ですし、日常生活もまったく今まで通りです。
いわゆるネット世論と、現実社会のそれは、まるっきりかけ離れているのですね。
話を戻しますと、TVもひどいものでした。
やはりこの夏の話ですが、韓国を旅行中の日本人女性が、韓国人の男に暴力を振るわれたという事件を、皆さんご記憶ではないでしょうか。
男は酒に酔っていて、街で見かけた日本人女性に、日本語で話しかけた。ところが相手にされなかったので逆上したらしい……まあ、しょうもない騒ぎですよ。
ところが、この騒ぎを報じた日本のワイドショー、私がたまたま見たのは、民放の朝の情報番組でしたが、在日の(!)コメンテーターが、
「韓国の男は酒に酔うと理性をなくしてしまうので、それでこんな事件が起きた」
などと発言してました。
それを見たときは吹き出しましたけど、考えてみれば、笑い事ではないですよね。泥酔して女性に狼藉を働くのは、韓国人男性の特色だと言ってるわけですから。
韓国でこんな発言が電波に乗ったら、その日のうちに当局から厳重な警告を受けますよ。
日本の読者には、意外に思われるかも知れませんが、他国民や特定の職業従事者を傷つける発言に対して、コンプライアンスの縛りがかかる度合いは、韓国の方が厳しいのです。
もっともその分、ネットが荒れ放題になっている現実もあるわけですが。
そして、同じ韓国人ジャーナリストとして本当に恥ずべき事なのですが、ネットに媚びるような手合いは、韓国にもいます。
現在の韓国政府について「反日左翼だ」という評価がありますが、もともとあれは韓国から発信された情報だったのです。
日本では、大新聞でもたとえば『朝日』『毎日』は安倍政権に批判的で、一方『読売』『産経』は政権を支持しているようですが、韓国の場合、部数・知名度共に代表的な『東亜日報』『朝鮮日報』は、どちらも保守派の応援団と言うべき存在です。
そして、現在のムン・ジェイン(文在寅)大統領は、キム・デジュン(金大中)以来、久しぶりのリベラル派ですからね。とにかく、大新聞の受けが悪かったんですよ。
▲写真 文大統領 出典:ロシア大統領府
もちろん記者それぞれの考え方はあるでしょうが、なにぶん社論というものがありますからね。
「こいつ(ムン)は人気がない。だから反日勢力に媚びて煽っているのだ」
などと、さかんに書きたてて、それを日本のメディアが、韓国の新聞にまでこんな風に書かれているじゃないか、というように増幅させて伝えたのです。
それだけでは、ありません。
日本が、韓国に対する半導体などの輸出許可を厳格化した時など、
「韓国経済は地獄の縁に立たされた」
という記事が韓国紙に載っている、という話が、日本のネットで喧伝されました。
本当は、韓国の新聞に載ったのは、
「韓国経済は足踏み状態」
という記事だったのです。日本の半導体輸出の問題だけではなく、米中の貿易戦争やイギリスがEUから脱退しそうだとか、様々な要素がありましたから……そうです。そもそも韓国だけの問題ではないのですよ。
ところが、日本のニュースサイトに掲載された記事では、地獄という表現が使われていた。これも、ネットは閲覧数が増えれば、話題になって広告収入なども増える、といった判断だったのかも知れません。
けれども、ネットの影響力というのは、本当に諸刃の剣でした。
こうした、ダブルスタンダードなどと言うも愚かな、論旨の使い分けを行っていたことが、ネットを通じて韓国人の知るところとなって、今では大新聞が糾弾されています。
▲写真 インターネットへ書き込み(イメージ)出典:PIXNIO; pics_pd
これはひとつの例でして、本誌の読者の皆様には、韓国人がみんな反日に凝り固まっているというのは事実でなく、むしろ両国の報道を冷静に分析している人が、それなりの数で存在することを、是非とも知っていただきたい。
このところ注目されている、日本製品の不買運動でも、こんなことがありました。
ソウル市にも、東京23区のような特別行政区が設けられているのですが、その行政区のひとつが、不買運動への参加を表明したのですね。そして区役所の入り口に不買運動の旗を掲げたのですが、市民の間からは、
「行政が税金を使ってやることか」
という批判の声が高まり、その旗は早々に撤去されました。
このように冷静な人ばかりであったなら、韓日両国の関係がここまで悪化することもなかったろうと悔やまれてなりません。
今の私にできることは、ネットの一部で声高に相手方の悪口を書きたてている人たちの声が、本物の世論であるなどと勘違いをしないようにと、訴え続けるしかないのでしょうか。
(取材・構成・文責/林信吾)
【ヤン・テフン】
1967年、釜山生まれ。韓国の大学に合格していたが、兵役満了後、日本に私費留学し、城西大学経済学部卒業。韓国のTV製作会社の日本子会社勤務を経て、通訳・コーディネイターとして独立。現在はジャーナリストとしても活躍中。
トップ写真:インタビューに答える文大統領 出典:韓国大統領府
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。