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.社会  投稿日:2019/12/13

ネットメディアで「ネットの闇」を斬る 横行する「危うい正義」最終回


林信吾(作家・ジャーナリスト)

 林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・元KARAのク・ハラさんがSNSによる誹謗中傷などにより自殺した。

・誰でも書き込むことができるネットでは「誤爆」もある。

・ネットは無政府状態だったが法的処置をとるケースも増えてきた。

 

先月、元KARAのク・ハラさんが自殺した。享年28。

KARAや少女時代は割と好きだったが、顔と名前が一致するほど入れ込んではいなかったので、当時の動画を見ても、どの娘か分からなかった。いずれにせよ痛ましいことだ。ご冥福をお祈りします。

問題は自殺の動機で、SNSによる誹謗中傷があったと指摘されている。

▲写真 生前のク・ハラさん 出典:flickr photo by Goo HaralstheBest

これは、本シリーズで取り上げている「見当違いな正義感」とも異なる。いや、当事者はなにか正しいことを言っているつもりなのかも知れないが、とんでもない話だ。

職場や学校でのイジメも、しばしば隠蔽されかけて、かえって問題になったりするが、ネットでのイジメは、ごく最近まで無政府状態というに近かった。

ネットは匿名の世界で、なにを書き込んでも「やったもの勝ち」といった風潮があり、これが世に言うネットリンチが繰り返される土壌となっていたのだが、最近は、法的措置で対抗できることに皆が気づきはじめて、状況が少しずつ変わってきたように思える。

記憶に新しい例では、今年8月、常磐道で「あおり運転」のあげく暴力を振るった馬鹿がいたが、その一部始終をガラケーで撮影していた同乗者の女がいた。 その後、犯人隠匿容疑で逮捕されたわけだが、その前に、無関係の女性が「ガラケー女」としてネット上に個人情報をさらされ、いやがらせを受けたという。なぜ「という」表現かと言うと、私はそんな「拡散希望」など相手にしているヒマはないので、後で報道で知ったからだ。

これも拡散した当事者たちは、早く犯人が捕まって欲しい、という正義感の表れだったのかも知れないが、見当違いどころか「誤爆」だったのである。この女性は、ネット上のデマで名誉を傷つけられたとして、拡散した人たちの身元を特定し、訴訟を起こした。

実は私も、ネットで誹謗中傷されたことが一度ならずある。

とりわけ、2007年に『反戦軍事学』(朝日新書・電子版も配信中)という本を書いた時などは、ネット右翼や右寄りの軍事オタクから執拗な攻撃を受けた。

中でもひどいのは「林信吾」を名乗る誰かがネットに色々と書き込みをして、それが叩かれる、という例まであった。

プロの物書きだから書いたことには当然責任を持つし、毀誉褒貶はこの稼業につきものだと割り切ってもいるが、書いてもいないことで非難されたのでは立つ瀬がない。と言って当時の感覚では、訴えようにも,弁護士や同業者から、

「同姓同名の別人という可能性もあるから」

などと言われる始末であった。

ある軍事ブロガーなど、どうせ訴えられないと見越したのか、Wikipediaの「林信吾」の項目に「作品の評価」などという欄を加筆し、

「『反戦軍事学』はじめ軍事関係の著作も何点かあるが、間違いや論理の破綻が多いという批判がある」

などと書いた。なぜその軍事ブロガーの仕業と知れたかと言うと、自分のブログのURLに飛ぶよう加工してあったからである。人に危害を加えて、指紋がべったり付着した凶器を現場に置き捨てて、逃げ切れると思っていたのだろうか。いや、もしかしたら自分のブログの宣伝になるとでも思ったのか?

私自身Wikipediaはよく参照するが、年号などを確認する以上には信を置いていない。

ネットの全体について言えることだが、このように馬鹿でも根っからの嘘つきでも、好き勝手に書き込むことができるからだ。もっとも、一般的には広く信用されているメディアなので、弁護士を通じて運営側に抗議し、削除させた。

このブロガーは、その後ツイッターも始めたらしいが、例の福島での原発事故の際、

「メルトダウンなんて起きるわけがない。馬鹿は黙ってろ」

などというバカッター(ツイッターで愚劣な発信をすること)で自爆した。

今でもブロガーを続けているのか、もはや相手にしているヒマもないので知らないが、YAHOOニュースなどでこの記事を見たら、逆上してなにかやらかすかも知れない。

その場合、今度は即座に法的措置をとると、あらかじめ警告しておく。

Amazonの書評欄にも、

「在日か?だったらたたき出せ」

などというコメントが載ったことがある。この時は自分で、

「俺は在日ではないが、お前みたいに在日認定ちらつかせて人を威嚇したような気になる手合いが心底嫌いだ。ここは本を読む人のためのサイトだぞ。場違いなところうろついてないで、自分たちの巣窟(=ネットの肥だめ)に帰れ」

とやり返した。お前も人のことを言えないだろう、というコメントが来そうだが、まあ大人げのなさは今では多少反省しているものの、この場合の私は誹謗中傷された当事者が、実名を明かして本音を書いたまでのことである。前にも述べたが、プロだから書いたことにはちゃんと責任を持つ。責任を持つ、と言い切ったからには、品性を疑われるリスクも承知の上で、前述のコメントの最後は、

「この腐れ脳味噌の便所虫ネトウヨ野郎が」

というものであったことを、正直に告白しておく。ちなみに相手の「再反論」は、

「ここは買い物をする人のためのサイトです」

というものであった。ご教示かたじけない(笑)。

……わざわざ恥をさらすような真似をしたのは、世の中、私のように喧嘩上等の人間ばかりではないから、ネットでの陰険な誹謗中傷は、時として人を死に追いやってしまうということを、ご理解いただきたかったからである。

こうした経験があるので、ネットへの書き込みなど滅多にしないし、たまに書くときもすべて実名で書いている。もっとも、ハンドルネームとしての「林信吾」は誰でも使えるわけで、本人だという身の証を立てにくいのが辛いところではある。

たまにコメントするのはもっぱらニュースサイトで、いわゆるYOUTUBERの動画などはほとんど見ないのだが、一人だけ、

たすくこま

という、宮城県在住の人の動画だけはチャンネル登録して、たまにコメントもしている。色々な替え歌を作って自ら歌っているのだが、歌唱力がすごいのに加えて、替え歌の日本語能力たるや、プロの物書きも顔色なし、だ。

どうもこのシリーズでは、気が滅入るような話題が続いたので、最後くらいは笑える話で締めくくりたい。毎度この動画で笑わせてもらっているので、読者の皆様もどうぞ。

トップ写真:ネットの書き込み(イメージ画像) 出典:pxhere


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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