無料会員募集中
.国際  投稿日:2020/3/29

NY、「ロックダウン」目前


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・NYで実質的な外出制限始まってから一週間。

・現状はロックダウンではなく、可能な限りの自宅待機。

・本当のロックダウンが来るかもしれない。

 

ニューヨークでは実質的な外出制限が始まって今日で一週間が経過した。

■ NYは「ロックダウン」ではない

この状況を「ロックダウン」という言葉で説明されているのを見かけるが、厳密には本質的な意味での「ロックダウン」ではなく「外出禁止命令」でもない。今回の行政命令の内容は「必要不可欠な職務の労働者以外の100%の出勤禁止と、市民の可能なかぎりの自宅での待機」である。

生活は一変したが、フリーの映像カメラマンという私の仕事が無くなってしまったことだけではない。

息子の学校が3月18日に全面休校になって以来、我が家では朝起きると、ほぼ毎日、息子とともに給食を近所の学校に受け取りに行く。

ある日の朝はこうだ。

その日も家を出る時に、マスクを着けるよう、息子に促す。アメリカでは平時にマスクを着用する習慣はない。外に出ると通勤通学の人がいないので、特に毎朝の駅周辺の雰囲気は異様だ。学校に近づくと学童の登下校を守る役割の「みどりのおばさん」にあたる交通警察官が、通学する児童生徒が誰もいない中、所在なさ気に立ち尽くしている。我々に気がつくと歩み寄って横断歩道に誘導してくれる。私はありがとう、と出来る限りの笑顔で言うが、自分がマスクをしていたのを忘れていた。

 

■ 子供の学習環境が一変

自宅へ戻り、月曜日から金曜日まで毎日朝9時に息子の学校からネット経由で送られてくる課題にとりかかる。学校のオンライン授業も始まってから10日が過ぎた。学校にもよるが、息子の学校のネット授業は、毎日の授業を行う、というより日々宿題をこなしているに近い。小学校1年生なので、パソコンやタブレットなどのデバイスの操作には親が手を貸してやらねばならず、結局、問題を説明してやり、出された課題はほとんど家でプリントして回答を書かせる。

つまり、学校で先生が毎日やっていることを1日中、親がほぼ付きっきりで見てやらなければならない。複数の子供がいる家庭のオンライン授業を想像するだけでめまいがする。うちはアパートが狭いので、親、子供の両方にとってかなり環境は悪い。毎日がこの繰り返しで、4人全員が外へ出る自由もほとんど無い生活を送りながら、家族同士の雰囲気が悪くならないように努めている。

親としては加えて、この環境が続くと子供の学力維持の心配もあり、一日も早い学校再開を望みたいが、学校再開どころか、世の中はますます予測不可能な方向に向かっている。

毎日のニューヨークでの新規の感染者数、死亡者数増加(3/28現在)の発表が気分をさらに憂鬱にさせる。ここでは医療崩壊が加速して、もはやとどまるところを知らないように見える。

 

■ NY医療の現状

毎日の生活の中、外出は買い物の行き帰りだけでまったく気が付かなかったのだが、昨日、近所の大病院の前を通りかかると、裏側の道路を全部閉鎖して、ドーム型の大きなテントの設営が行われていた。規模とタイミングから見ると、コロナウイルスの検査などの関連施設をつくっているらしい。

▲写真 マウントサイナイ病院裏手に設営中の医療テント 撮影:筆者

自分の生活圏内で実際そういう施設が作られている現実を目の当たりにして、少なからずショックを受けた。

今やニューヨークは世界一のコロナウイルス感染の震源地になってしまった。市全体から見れば、私ら家族が住む地域は爆発的感染が起きた病院があるところからそう離れてはいない。

命がかかった危機がまさに今そこまで迫ってきている切迫感が尋常ではない。

帰り道、途中にある公園では、多くの若者がバスケットボールに興じていた。

▲写真 3/27、公園でバスケットボールに興じる若者たち。マスクをつけている若者もいる。撮影:筆者

 

■ 「ハードロックダウン」が来る日

この一週間あまり「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」という言葉を聞かない日はない。メディアを通して盛んに伝えられ、州知事や、市長は会見で、とにかく、他者との物理的距離を取ることの重要性を繰り返し訴えている。市長は公園などでの複数人数で行うスポーツを禁止する通達を出した。市長は、もし市民がルールを守らないならばまず公園を閉鎖する、と警告している。

▲写真 「公園は消毒していません。使用は自己責任で」との告知。「6フィート(約1.8メートル)のソーシャル・ディスタンスを取ること、人数制限あり」と明記。 撮影:筆者

最初に書いたが、今のニューヨークはまだ厳密な意味での「ロックダウン」の状態にはない。本当の「ハードロックダウン」は、公共交通機関を停止し、橋、トンネル、道路を封鎖し、外出禁止の例外規定をより厳格化し、違反者には罰金を課したりもする。公園閉鎖はその第一段階になりかねない。

個人的には現在の状態は残念ながら、少なくともまだ数ヶ月は続くものと覚悟しなくてはならないと思っている。いずれは制限が解除されるものと信じているが、問題はそれが「いつ」になるかということだ。

日々、厳しい日常を強いられているニューヨーカーで、元の生活が戻ってくるのを望まない住人は一人もいないと信じている。だがこれが一日もはやく実現するかどうかは、文字通り、一人ひとりの行動にかかっているのだ。

東京も近く、首都封鎖の可能性も考えられている、と聞く。現在の日本の状況を眺めていると、多くの人にとって起きるかもしれない首都封鎖は現実感がないのだろうか、と思ってしまう。

(了)

 

▲動画 youtube(Japan In-depthより 撮影:筆者

トップ写真:マウントサイナイ病院のER入り口「面会禁止」の張り紙 撮影:筆者


この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."