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.国際  投稿日:2020/5/24

NY、外出制限下賑わい戻る


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・NY州、外出制限令から2か月、州の政策は大きな転換点を迎える。

・経済活動再開認められないNY市、人の動きが活発化し始めている。

・大統領の初期対応の遅さから「トランプ死の時計」が登場。

 

アメリカでメモリアルデー・ウィークエンド、と呼ばれる、夏の始まりを告げる連休初日の昨日5月22日。ニューヨークで実質的な外出制限令が出た3月22日からちょうど2ヶ月を迎えた。

連休の初日にふさわしく、昨日はとても良い陽気だった。通常の年なら、「感覚的には」公式に夏が始まる週末で、海開きの初日でもある。人々は海に出かけたり、公園でバーベキューを楽しんだり、離れて住む家族と一緒に楽しく過ごす、まことアメリカらしいイベントがあふれる週末になるはずである。

今日新たに発表された集計によると、新型コロナウイルスによるニューヨーク州全体の総入院者数は4700人あまりであり、2ヶ月前の3月24日以来、2日連続で5000人を下回った

ピーク時には1日当たりの入院者数は3000人を超えていたがこれが今は200人と少し、死者は毎日750人前後いたが4月12日からの週のあたりから減り始めついに昨日100人を切るに至った。それでも100という数字が失われた人の命の数であることを重く受け止めなければならないが、あの悪夢のような日々とはうって変わり、毎日、街は活気を取り戻しつつあるのを実感する。

自然と人々の関心は市民生活の再開へ向けられている。アメリカでは夏の初日とされるメモリアルデーと、外出制限からちょうど2ヶ月という節目で、ニューヨークは市民の気持ちの上でも、州政府の政策の上でも大きな転換点を迎えている。

▲写真 人影もまばらなタイムズスクエア(5/16撮影)出典:著者撮影

ニューヨーク州は地理的に10の地域に別れ、それぞれ、再開に向けて州独自に策定された「7つの指標」すべてクリアした地域から順に条件付きで経済活動が容認される。これまで、9つの地域が7項目すべての条件を満たす、とされ、ニューヨーク市だけが取り残された形になってしまった。

7つの条件すべてを満たすのが再開への最低条件で、満たしても今のところ、定められた再開計画への4段階の階段のうち1つめの段階の業種の再開が認められるにすぎない。

ニューヨーク州が定める達成すべき「7つの指標」とは次のとおりだ(カッコ内の数字は5/23現在)。

 

 ・指標1.「14日間にわたり総入院患者数の減少、もしくは新規入院患者数15人以下 (NY市は40日間連続減少)」

 ・指標2.「14日間にわたり病院での死者がの減少、もしくは5人以下 (NY市は37日連続減少。死者数は33人)」

 ・指標3.「新規入院患者数が10万人あたり2人以下(NY市は1.76人)」

 ・指標4. 「病院の空きベッドが30%以上確保されている(NY市は28%) 」

 ・指標5.「ICU(集中治療室)のベッド数が30%以上確保されている(NY市は26%)」

 ・指標6.「住民1000人あたり30人の感染テストが1ヶ月にわたって続けられている (NY市は7日間平均が8399人)」

 ・指標7.「住民10万人あたり30人の感染ルート追跡人(Contact Tracer)が確保されている (NY市は教育中の追跡人を含め想定値で達成)」

 

ニューヨーク市が達成できていない指標は10項目のうち、2項目(ベッド数の確保)だ。また PPE(個人防護具)の在庫も90日間分確保されている、という小項目も条件に付随している。

指標達成後に、その地域で再開できる業種が4つの「フェーズ」順にカテゴリー分けされている。経済に影響が大きく、感染リスクが少ない業種から順に再開を許可していくものとされる。それらは、

 

 ・フェーズ1. 「建設業、農業、林業、水産業、一部の小売業(対面リスクの少ないもの)製造業、卸売業」

 ・フェーズ2. 「金融業・保険業・不動産業・小売業 」

 ・フェーズ3. 「レストラン業・飲食サービス業・ホテル業 」

 ・フェーズ4. 「芸術・エンターテイメント・娯楽業・教育」

 

私の仕事はフェーズ4に分類されるのかも知れず、その上、子供の学校も再開は一番最後のフェーズ4にカテゴリーされている。頭の痛いこと、この上ない。

感染のカーブが下降線を描いているのと、この陽気でか、街ではもう動きが活発だ。

目立ってきたのが、飲食物の持ち帰り用のみを提供できるバーの外で飲み物を楽しんでしまう人々だ(アメリカの殆どの州では公共の場所での飲酒は違法)。ソーシャルディスタンスが守られて いないこともあって、NY市長は早々に取り締まりの警告をだした。

▲写真 5/22に登場した飲食店で買った持ち帰り用アルコール飲料をその場であけて飲まないように促すポスター 出典:著者撮影

遊戯設備がない公園も人であふれている。だがここでもソーシャルディスタンスが守られないことを懸念して、当局は警官を増員するとともに「ディスタンス・アンバサダー」と呼ばれる警官以外で構成される監視員2260人を配置する事になった。これらはマスクを着用していないということで、幼い子供の目の前で大勢の警官に拘束される母親の映像や、暴力的な取り締まりの映像などがSNSで拡散され、しかも逮捕された90%以上が黒人とヒスパニックだったことからソーシャル・ディスタンスを巡る行動が人種問題に発展してしまったことなどへの反省から決まった対策だ。

▲写真 運動公園で矢印の距離を開けるように促す表示と監視する警察官 出典:著者撮影

警官は今後マスクの配布などを啓蒙活動を中心にするということだ。

ニューヨーク市では750万枚のマスクの無料配布が始まっている。

ニューヨークでも日本同様、衛生用品の入手が徐々に容易になって来た。私の地元では道ばたでテーブルを広げ、お祭りの夜店のごとく、消毒グッズ、カラフルなマスクなど感染防止用品を売る露天も現れた。

▲写真 マスク、ハンドジェル、おしゃれマスクを販売する露店(5/16撮影)出典:著者撮影

集会は一切認められていなかったが、金曜の夜になってクオモニューヨーク州知事は10人以下に限って人々が集まるのを認める決定をした。教会などは大人数が集まる場所だがこの日、トランプ大統領が「礼拝施設は必要不可欠なサービス」と即時再開を全州に知事に要求した。クオモ知事はかねてから一貫して「感情と、政治では動かない」と明言しており、知事の決定はどのような経緯によるものかはわからない。

ニューヨークは初動は後手に回ってしまい、被害が拡大したが、その後の徹底した感染予防対策でコロナ禍が徐々に遠ざかりつつあるかに見える。だが、アメリカ全体での感染の拡大はまだ収まる気配がない。アメリカの南部や西部カリフォルニアなどではふたたび感染拡大の傾向がある。それもあってクオモ知事はふたたび感染が拡大しないよう、急速な街の再開にはかなり慎重だ。

ニューヨークのタイムズスクエアには、感染拡大初期の大統領の対応の遅さや対応の不手際が被害を拡大させた、として、本来ならば死なずに済んでいたであろう人々の数をカウントする「トランプ死の時計」と呼ばれる掲示板が登場した。

▲写真 タイムズスクエアに登場した「トランプ死の時計」(5/16撮影)出典:著者撮影

だがその時計が見下ろすタイムズスクエアにはそれを見上げるはずの人間の存在がまばらだ。

同じタイムズスクエアで、広告が何も表示されていない大きな空き看板を見た。私は30年あまりの間、公私共にタイムズスクエアを数えきれなくらい訪れているが、一瞬足りとも何も書かれていない広告看板を見た記憶はない。ニューヨークのタイムズスクエアはアメリカ経済の繁栄の象徴であり、昼夜を問わず、人がいようがいまいが、そこにほころびが見えることは許されない。

再びの感染拡大を懸念しながらも、再開を急ぎたい気持ちは誰もが一緒だ。経済の再生を第一に進めるトランプ大統領だが、先日49%という過去最高の支持率を記録したという。これは政権同時期のオバマ大統領の支持率より高い

▲写真 「裸のカウボーイ」 出典:著者撮影

人がまばらなタイムズスクエアで、誰に語るともつかず歌う「ネイキッド・カウボーイ(裸のカウボーイ)」という名物の男がいた。私が日本人だと明かした上で話しかけてみると「日本の皆さんガンバテクダサーイ」と言って、自分の広告入りのマスクをくれた。チップを入れる箱を兼ねたギターには大きく「トランプ」と書かれていた。

トップ写真:暖かな陽気に賑わうニューヨークの街並 出典:著者撮影


この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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