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.国際  投稿日:2020/5/18

フランスで川崎病に似た症状


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・フランスが外出禁止を解除。学校も再開し、日常が戻りつつある。

・川崎病に似た症状の子供も。感染症との関連は不明。不安持つ親も。

・小児学会が「適切に予防しつつ、学校生活に戻る必要性」訴える。

 

「私たちは過剰に心配することを抑え、子供たちのために前進することが急務です。」

フランスの小児科学会の約20人の小児科医が、子供が学校に戻ることを求めました。「Le Quotidien duMédecin」に掲載された記事には、子供たちが集団生活に戻ることの大切さ、また、事実に基づかない恐怖からくる、度を越した規則で学校を運営すべきではないことが述べられました。

■ 外出禁止の解除

フランスではとうとう5月11日に外出禁止が解除されました。現在では、それほど大きな混乱もなく少しずつ日常をとりもどしつつあります。13日には、エマニュエル・マクロン大統領が「勝利を宣言するには時期尚早であるが、経過は順調だ」と語り、14日には、エドゥアール・フィリップ首相により夏のバカンスが許可されました。7月10日までは緊急事態宣言は継続されるものの、夏のバカンスに向けて電車や宿泊施設の予約も始まったのです。

▲画像 マクロン仏大統領(2020年5月13日)出典:Emmanuel Macron twitter

学校も再開されました。まず一週目は、幼稚園、小学校からの開始です。しかしながら全員が学校に戻れたわけではありません。約70%の学校のみが再開し、学校に戻れた児童は22%。来週はさらに30%が戻る予定となっています。というのも、学校再開後の一クラスの人数は15人以下と決められるなど厳格な衛生基準があるため、すべてを整えられない学校もありました。また、もともと人数が少ない学校では一クラス15人でも比較的問題はありませんが、大都市の大きな学校では全員を受け入れできるスペースもないのが現実です。そのため、パリやトゥールーズなど大きな都市では、最初の週に学校に戻れるのは優先権がある児童(保護者が教師、病院、公共交通機関勤務などの家庭、もしくは、オンライン学習で問題が出た児童)のみとしたのです。

それでもパリでは14日には2万8500人(これは全児童の4分の1にあたる)の児童が登校しました。差し当たり、少人数制のクラス運営はうまくいっており、教師も、保護者たちもほっとした一週目となりました。5月24日以降からは全ての児童が戻れるよう検討する予定となっています。学校によって児童の受け入れ方は違ってきますが、例えば、2グループに分け週に2日のみの登校、または隔週で授業する方法などが考えられているところです。

外出禁止が解除される際に、フランスは感染状況などを指針に、赤の地域と緑の地域にわけられました。緑の地域では、5月18日から中学校も第一学年(6e)と、2学年(5e)もはじまります。約85%の中学校が再開され、15万人の中学生が学校に戻る予定。その後、5月末には、中学の第3学年(4e)、4学年(3e)と、高校が再開できるかの判断がくだされます。この間に新たな感染者が増えるなど問題がおきなければ、6月からさらに多くの学校の門が開かれる予定となっているのです。

■ 事実に基づいた理解と、学校では実用的な規則を!

しかしこのように順調に進み始めている学校の再開ですが、まだまだ子供を学校に登校させることに不安を持つ保護者は多く存在します。また学校側もあまりにも厳格な規則を実行していることについて一部では問題だとの声もあがりました。

そこで、そんな様子を危惧した小児科学会からの要望が出されたのです。まず、その記事の中では、現在知られている事実として「子供たちが流行の原因ではない」こと、次に、「子供は並外れた重篤症状にはなることはほとんどない」ことが説明されました。そして、学校の対応について、「適切な感染防止対策は必要ですが、実用的な策でなければなりません。事実を元にしていない恐怖により作られた規則は、子供たちに大きな不安を引き起こす可能性があります。」と警告。実用的な規則を学校にも求めた上で、子供たちを集団生活に復帰させることを求めたのです。

小児科学会会長のクリストフ・ドラクール教授によれば、子供の感染例はそのほとんどが接触した大人からもたらされており、子供間では感染リスクが低いと説明しています。実際、外出禁止期間中にも、病院関係者の子供たちは学校に通い続けましたが、学校内での集団感染は起こっていません。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の子供が重篤な症状を発症することは非常にまれです。5月5日のフランスの厚生省のデータでは、PCR検査で陽性がでてCOVID-19の感染症が原因で入院した子供は100人未満となっており、そのうち集中治療室に入ったのは30人でした。0〜14歳の子供は入院患者全体の1%に過ぎません。15歳未満では2人が死亡していますが、他の合併症が疑われているケースでもあります。

▲写真 新型コロナウイルス感染からの予防のため、フランス政府も手洗いを推奨。出典:フランス国民教育省ホームページ

学校では、もちろん予防することは必要ですが、過度なものは子供たちには有益ではありません。大人が教えるべきことは、子供が互いに遊ぶことを禁止することではなく、遊んだ後や、鼻をかんだりくしゃみをした後は手をよく洗うことを教えることなのです。集団の中で予防しながら生きていく方法を学ぶ環境を提供することが必要となってきます。

小グループでクラスを編成し、独立した机で勉強することは推奨される規則ですが、子供が一緒に遊ぶことをやめさせたり、ボールで遊ぶことを禁止するなど集団活動を妨げることは子供の現実社会を否定することになるため、その点は学校側がもっと恐れずに行動すべきだとしています。

学校を再開することは問題ありません。子供たちのリスクは少ないのです。それよりも、適切に予防しながら集団生活していく方法を学ぶことが大切なのです。

■ 気になる川崎病のような症状

しかしながら、実際に不安も残っています。それは、現在、子供たちの間で川崎病のような症状が通常よりも多く発症しており、新型コロナウイルスとの関連が疑われているからです。

フランスでは、3月1日から現在まで135症例の川崎病のような炎症性疾患が報告されています。5月13日に出されたプレスリリースでは、厚生省が、COVID-19との関連が確認されている、もしくは疑われている小児の、非定型全身性疾患の発生を積極的に注視するようフランス保健福祉局(DDASS)に要請したことを明らかにしました。

▲写真 川崎病の症状の一例 出典:Dong Soo Kim (Wikimedia Commons)

症例の半分以上(58%)がイルドフランスで発生しており、この3週間でもイルドフランスでは少なくとも24例が確認されています。これらの子供に共通しているのは、血管の炎症など心臓に関連した症状で病院に運ばれるということ。調べてみると約半数が新型コロナに感染していました。もしくは12%はすでに以前感染したことがあり抗体を持っていました。しかし、呼吸困難などこれまで報告されてきた新型コロナの諸症状は見られていません。

また、フランスで初めての死亡者も出ました。マルセイユで9歳の子供が川崎病と思われる病状が出た後に亡くなったのです。5月2日に小児科緊急外来で受診した時には、しょう紅熱に似た症状が出ていましたが、診察後は、子供は家に帰宅が許されました。そのために自宅に戻ったものの、同日の夜にひどい不調を訴え、心肺停止。そのまま救急車により搬送され病院に戻ることになったのです。診察した医師もしょう紅熱ではないことを理解しましたが、しかしながらもその時点で、川崎病であるかはまだ確信は持てなかったといいます。そして、その後治療のかいもなく残念ながら数日後に亡くなったのです。死因は心筋炎とみられています。心臓に他の疾患があったことなども疑われており、その点に関しては現在調査が進められています。新型コロナ感染の症状はありませんでしたが、抗体の検査で陽性であったことは確認されています。

こういった川崎病のような症状は、コロナウイルスによる感染と関連があるとみられていますが、まだ確定はされていません。川崎病自体は5歳未満が多いとされている中、今回の症状は5歳以上の年齢にも多くみられることなど違う点も見られます。具体的に、年齢による症状が現れた患者の割合は、2020年5月12日のデータによれば、1歳から4歳は6%。5歳から9歳が33%、10歳から14歳は28%、15歳以上は7%でした。同じく、川崎病では男児の方が多く発病すると言われていますが、現時点までに発病した患者の54%は女児であり、ここにも違いが見られます。

また、患者の半分が、アフリカ、北アフリカ、西インド諸島出身であったため、川崎病同様に遺伝子によるものではないかともいわれています。しかしながら人種の偏りは、患者の半分以上の住居が、フランスで特に大きく被害を受けた地域である移民出身者が多いイルドフランスであることも踏まえると、今のところ断定はできません。まだまだ、解明されてないことが多い病気でもあるのです。

しかしながら、子供が亡くなった後の会見で、マルセイユの小児科緊急病棟の責任者ファブリス・ミッシェル教授はこう説明します。「それでも保護者達は慌てる必要はありません。この症状が出た子供は少数であり、亡くなったのは一人だけ。しかも治療を受けた大半の患者はかなり良好です。」

例え、症状がでても良好に回復することがほとんどであり、パニックになるほど心配するほどのことではないとのことです。

■ ウイルスと共に生きていくことを学ぶことが重要

現在、フランスでは徐々に子供たちが学校に戻っています。そして先だって1週間を過ごした児童たちもまったく問題なく学校生活を過ごすことができました。感染する不安におびえるよりも事実を見据え、これからウイルスと隣り合わせで生きていることを学ぶためにも、子供たちは集団生活に戻ることが大切なのです。それが子供のことを一番に考えた、フランスの小児科学会の結論なのです。

 

<参考記事>

https://www.lequotidiendumedecin.fr/actus-medicales/sante-publique/covid-19-20-presidents-de-societes-savantes-de-pediatrie-reclament-le-retour-des-enfants-lecole

https://www.francetvinfo.fr/sante/maladie/coronavirus/tribune-de-pediatres-en-faveur-dun-retour-des-eleves-a-lecole-oui-prenons-des-precautions-avec-les-enfants-mais-des-precautions-qui-soient-realistes_3965355.html

https://www.sortiraparis.com/actualites/a-paris/articles/216303-coronavirus-et-maladie-de-kawasaki-facteur-genetique-et-premier-enfant-mort

https://www.20minutes.fr/societe/2779851-20200515-coronavirus-toulouse-traumatises-chu-lance-etude-effets-confinement-chez-enfants-8-15-ans

https://www.20minutes.fr/marseille/2779979-20200515-marseille-sait-premier-cas-mortel-forme-proche-maladie-kawasaki-france?utm_medium=Social&xtref=twitter.com&utm_source=Twitter#Echobox=1589564793

https://sante.journaldesfemmes.fr/fiches-maladies/2633581-maladie-de-kawasaki-covid-19-coronavirus-france-necker-marseille-syndrome-symptomes-traitement/

トップ写真:再開された小学校を視察するジャン=ミシェル・ブランケール仏国民教育相(2020年5月12日)出典:ジャン=ミシェル・ブランケール仏国民教育相ツイッター


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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