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.社会  投稿日:2020/7/1

伝説の弁護士、世界的大都市のマネジメントできる? 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・宇都宮健児候補、「サラ金問題」を手掛けた「伝説」の弁護士。

・カジノ誘致計画を中止など社会正義を貫く思想。

・問題解決へのアイデア不足や現実感覚のなさが欠点。

特別編の第1弾、今回は宇都宮健児候補を見ていきたいと思う。「貧しい人の力になりたい」という気持ちで「サラ金問題」を手掛けた「本物」「伝説」の弁護士。苦学して東大を出て、弁護士になり、30年も多重債務者の救済活動に尽力。グレーゾーンの撤廃や年越し派遣村、被災者支援活動などその「社会的業績」は圧倒的で、これまでの都知事選挙の中でも随一の人物であろう。宇都宮候補の政策を見ていこう。

1 宇都宮氏の政策(HP)

HP

選挙公報

総合政策集

に明らかになっている。

2 素晴らしい点

「生存権がかかった選挙」と位置づけ、かなり弱者に寄り添った政策を掲げていて、その理念をもとに、論理的にも体系だった政策を作っている。「〇〇の貧困をなくす」というものが柱になっている。これからの社会は「社会的連帯が必要」という思想、民主主義と法律の必要性などの価値観が体現されている。特徴を見ていこう。

第一に、貧困をなくす・格差をなくすという色を強烈に打ち出している。学校給食の無償化、都営住宅の新規建設、家賃補助制度・公的保証人制度の導入、原発事故避難者に対する住宅支援、義務教育無償化、出前福祉制度、最低賃金を1500円に要請などが印象的である。

特に、「ディーセントワーク」という概念を打ち出してきたのは興味深い。その意味は、「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的仕事」というものである。随分、国連などでは言われてきたことだが、日本社会でここまで明言した方は初めてだと思う。

第二に、社会正義を貫く思想である。「カジノ誘致計画を中止する」ことを3つの緊急課題の1つとして掲げている。カジノ誘致については都は調査費をかけて可能性を調査はしている。小池都知事はカジノ誘致を明言はしていないが、そのことに対してもくぎを刺しているのだろう。また、五輪の招致段階で不正があったことに言及し、不正検証を進めるそうだ。東京からの脱原発、貧困ビジネスへの規制強化などその思いが反映されている。

第三に、先進性である。グリーンニューディール、温暖化政策、高層ビルをなくす、道路政策を見直すという点は改革的な色が濃い。道路政策を見直すということで、都市開発や公共事業についても見直すということなのだろう。

第四に、都知事にできていないこと、できていることをわきまえた上の公約である。「〇をゼロにします!」という誰かさんの公約とは違う。「政府に要請する」など都知事としてできることを明記しているのが特徴だ。

▲写真 宇都宮けんじ候補 出典:宇都宮けんじ@utsunomiyakenji

3 疑問点

疑問点は3点。

(1)問題解決アイデアが貧困

「虐待のない人間の尊厳を尊重した介護保障を目指す」など理念的には素晴らしい政策が並んでいるし、問題意識は素晴らしい。しかし、問題は具体策。従来型の政策、つまり施設を整備したり、支援したり、組織作ったり、条例作ったり、、、、と、厳しい言い方をすれば「古い」。「どのように?」という問題解決の処方箋が少ない。デジタル・トランスフォーメーション(DX)などの活用への言及は少ない。

(2)現実感覚がない

「都営住宅の新規建設」というが、都営住宅の建設にかかるコストがどれくらいになるのかを考えているのかどうか。これだけ民間需要がある都市で公的住宅整備など、意味不明である。民業圧迫である。弱者対策なら、民間住宅入居支援・家賃補助でよいし、彼も提案している空き家活用などで十分であろう。

また、都立大の学費無償化を目指すことなども現実感覚がないことがわかる。都立大を学費無償化して、日本中から裕福な方が殺到したらどうなるのだろうか。都内高校生にとっては都立大は偏差値が高く難関でもあるのに、さらに入学しにくくなる。また、医学部設置なども言っているが、医学部設置のコストは膨大である。

(3)経営センス

「条例を制定します」、「専門職員を配置します」、「補助金の創設」、「〇を充実します」、「〇〇を設立します」という言葉が並ぶ。その数がとても多い。一時的に職員配置や補助金をしてしまうと何が起きるかわかっているのかどうか?疑問である。補助金の目的や新たな組織や新たな条例を作っても、機能させることが大事だという視点がそこからは感じられない。

4 評価

評価結果とその理由は以下になる。(☆は1~3で評価)

問題意識    ☆☆☆

【理由】生存権を守るという問題意識を持っている。

政策としての基礎条件   ☆☆

【理由】都政の研究や傍聴をしているだけある。

政策の具体性   ☆☆☆

【理由】できること、できないことの範囲を正しく理解。

政策の網羅性   ☆☆

【理由】網羅されている。経済政策がありきたりで弱い。

実行可能性   ☆

【理由】財政の見通し、制度の運用などマネジメントが弱い。

以上、感情を殺して文章を書きました。上記あくまで私の意見ですのでご参考に。繰り返しますが、特定個人を応援する目的で記載していませんので悪しからず。

トップ写真:宇都宮健児候補(左から2番目)出典:宇都宮けんじTwitter@utsunomiyakenji


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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