NY、若者のコロナ感染増える
柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)
【まとめ】
・米、コロナ感染者増加。NYでは若者の感染率が増加している。
・NYでは若者が路上で飲酒。警察も素通りする状況。
・4月以降、過去に凶悪犯罪が頻発した地域を中心に事件頻発。
全米での新型コロナ感染者の増加が止まらない。
7月16日に1日あたりの感染者が7万5000人を記録して以降、一旦減少傾向を見せていたが、その後再び増加、この数字を塗り替える勢いだ。
南部の州で増加傾向が著しいが、カリフォルニア州とフロリダ州ではこれまで全米一の感染者数だったニューヨークの41万人を超え、累計の感染者数がそれぞれ46万人と43万人に達してしまっている。
ニューヨーク州では現在の感染者数は毎日600人前後(ピーク時は1万2000人)でここ一ヶ月以上減ってきているとも増加してるとも言えない横ばい状態。だかここ最近、感染者に傾向が見られるという。
感染者数だけでみると横ばい状態ではあるが、20〜29才の若者の感染率が他の年齢層に比べ増加。他の年齢層ではすべて減少傾向にあり、若者層の感染者数と相殺してその数が横ばいに見えるということらしい。
6月初旬のBLM関係のデモ行進に若者が多く参加し、若者の間で感染者が増えることが懸念されていたが、これらの行動も20代の感染増加につながった可能性は否定できない。加えて、最近顕著なのが、マスク着用をおろそかにしたり、ソーシャル・ディスタンスを守らない人々には若者が多い、ということである。
7月中旬。
翌週の7/20からフェーズ4(フェーズ1から始まる段階的再開計画の最終段階)に入ることも手伝ってか、巷の雰囲気は明らかに浮かれていた。レストランやバーは店内での営業はまだ認められておらず、店の外の道路や歩道のみで認められた営業が、かえって、人々が街にあふれ、以前より開放感あふれる街の演出に一役買っている。
この週は、ニューヨーク市内で私の住む地域が、最も顕著だったらしい。
この日の夜、翌日にどうしても現金が必要なのを忘れていて、やむを得ず、夜11時位にお金を引き出しに銀行のATMに向かった。
銀行に向かう手前の路上。
そこでの風景にしばし、足が止まってしまった。
数百人の、大騒ぎをしている若者たち。
クラブやバーが店内で営業できないため、皆、店外で飲み、路上にあふれている。文字通り飲めや歌えだ。マスクをしているものなどほとんどおらず、見る限りすべて若者。SD違反、なんていうレベルをとっくに通り越している。騒乱一歩手前、の雰囲気さえある。
近くにパトカーもいたのだが、その場を素通り。
ジョージ・フロイド氏殺害事件以降、BLM運動による警察改革でニューヨーク市警は10億ドルの予算を削られた。今後は残業代もろくに出ない上、先月激しかったデモ行進では市民からは罵られ、警官の現場の士気は大いに低下している。
6月下旬から7月にかけての希望退職者は前年同時期比411%増しの179人。暴動対応などで残業が増え、今退職すれば年金の支給額が増える、というのも理由の一つということだ。さまざまな社会情勢の変化の中で悪化する治安の維持に、これら警察の「やる気」が影響しないわけはない。
去っていくパトカーを見送りながら、すぐそのことが頭をよぎる。
この晩の出来事はSNSに大量に投稿され、当局が反応。
騒ぎの中心となったバーは州から翌日、アルコールの提供許可(リカー・ライセンス)を取り消されてしまった。また、今後は、レストラン、バーで食事を注文しない客にはアルコールの提供はできないという通達も出された。今まで許されていた酒類の持ち帰りも今後は許可されない。持ち帰る、という建前で注文し、その場で酒を飲んでしまう客が多いためだ(NYを始めアメリカではほとんどの公共の場所での飲酒は認められていない)。
翌日、状況が改善されたか気になり、夜になってから現場に出向くと、通達にも関わらず、あたりはまた若者で埋め尽くされていた。前日と異なり、この晩は取締が行われていた。だが、取締を行っているのはニューヨーク市警(NYPD)ではなく、ニューヨーク市保安官事務所(NYSO、シェリフス・オフィス)であった。
▲写真 取締にあたるニューヨーク保安官(シェリフ)事務所 出典:著者撮影
通常、シェリフは地域の郡の所属であるが、歴史的な経緯があって、ニューヨーク市は、市の中に5つの郡をもつ、という特殊な構造になっている。シェリフは地域の行政命令の取締権限(アルコール類の取締、不動産差し押さえ、裁判所命令の執行など)があり、この晩は私の目の前で、若者が群がっていたバーが強制的に閉店させられた。
クオモ州知事は翌日に会見し、このエリアでの連日の出来事を非難。私は知事のそのコメントで、一連の出来事の第一義的な取締を行うのは、ニューヨーク市警の仕事ではないことを知った。だが知事は見ても取り締まらない警察や自治体の、縦割り行政の仕組みを暗に批判、ニューヨーク市警も積極的に取り締まるべき、とコメントした。また州の権限で警告3回でレストランや、バーのリカーライセンスや営業停止の処分ができる「スリー・ストライクス・アウト」ルールを適用することも表明した。
▲写真 締に抗議するバーの責任者 出典:著者撮影
バーから締め出された若者たちは、その後、行くあてもなくあたりをさまよって朝方まで、大騒ぎをしていたらしい。
次の日。
私が買い物に行きがてら現場を通りかかると、現場沿いの建物の大家とおぼしく女性が、ゴミを散らかしたという責任を問われて清掃局から違反キップを切られた、と激怒していた。騒いでいた連中が散らかしたゴミを、近隣住民とともに片付けたらしいのだが、誰かが建物前に捨てていった大量のゴミを、建物の責任にされてしまったらしい。なんとも理不尽な話だ。
この地域は、これまでは比較的平和で静かだったが、今月に入って日常的に銃撃事件などが起きている。毎日のニュースを見ていると犯罪都市、と言われた汚名をそそぎ、犯罪率の低さを誇り平和だったニューヨークの日々は終わったように感じる。
統計によれば4月以降、過去に凶悪犯罪が頻発した地域を中心に事件が多く起きるようになった。
新型コロナ対策で、刑務所に服役していたギャングたちが保釈されるシステムが新たに設けられたのが原因、とか、BLM運動で士気をくじかれた警察が取締に積極的ではない、とか、言われるが、コロナ禍にあって原因は1つだけではあるまい。犯罪が頻発していた80年代、90年代に戻ったかのように、街のどこかで起こる銃撃事件のニュースを聞かない日はない。
▲写真 散らかったゴミで違反チケット切られた、と訴える女性 出典:著者撮影
個人的には、近隣で、今起きている事件を市民が投稿して地図上に表示するアプリの存在を知って、自らの携帯にインストールしたが、悲しいことになかなか重宝している。
報道される事件では子供も多く被害者になっていて、痛ましいことこの上ない。
普通の生活を取り戻すのはコロナ禍以前に「戻る」ことではなく「進む」ことに他ならないと感じている。
(当日の模様を撮影したビデオも御覧ください)
▲トップ写真:イメージ 出典:Pixabay
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この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー
1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。