仏、都市封鎖で暴力事件多発
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・フランス各地で過激な暴力と殺人が頻発。
・最低価格が急騰した麻薬が暴力事件の背景にある。
・カステックス首相、薬物消費に対する定額罰金の一般化を発表。
フランスはこの2カ月、過激な暴力と殺人が頻発している。これまでも夏になるとこうした事件が増加する傾向があったが、今年は新型コロナウィルスの流行で都市封鎖が行われた結果、さらに事態に拍車をかけている。
緊張が高まるフランス各地の一部の地域
7月だけでもフランス各地で数多くの事件があった。そのいくつかを例にあげよう。
一つ目は、7月4日にアジャン近くで検問中だった憲兵隊のメラニーさん25歳が亡くなった事件だ。メラニーさんが検問を行っている時、検問を避けるために突破しようとした時速130kmの暴走車にはねられたのだ。以前は柔道で活躍していた選手であり、まだ入隊してそれほど年数もたってなかった若者の死に多くの人が悲しんだ。
二つ目は、7月18日、リール、ムーラン地区で起こった事件。被害者のローラさん43歳は、家の前で騒いでいる若者を注意したところ、殴られ顎の骨を折った。起こった出来事を語りながら自らの痛々しい姿を映しだし、治安維持を望むローラさんの動画はフランスのSNSで拡散された。
三つ目は、7月20日、ニースのムーラン地区で起こった銃撃戦だ。一人が負傷したこの事件は日中に起こったことであり、普通に町の人々が利用するスーパーの前で繰り広げられた。それまではそこまで暴力が多発する地域とは認識されてはいなかったのにもかかわらず、この地区での銃撃戦はなんと、この1カ月で3回目。そのため大きな問題として受け止められており、ジャン・カステックス首相も視察に訪れた。
▲写真 ジャン・カステックス首相 出典:Wikimedia Commons; パブリックドメイン
このように、7月だけでもフランス各地で暴力的な事件が起こっていることがわかる。しかも、実は、これらの事件には一つの共通点があるのだ。それは麻薬だ。
一例目の、メラニーさんを死に追いやり検問を突破した26歳の容疑者の車の中には、165gの白い粉があった。検察は、「分析する必要があるが、おそらくコカインである」と説明している。それだけではなく、麻薬や交通違反で起訴された犯罪歴があった人物だ。容疑者はこの事実を発見されることを避けるため、車のアクセルを踏み検問突破をはかったのであろう。
二例目のローラさんよれば麻薬密売はこの地区で長い間知られていたが、監禁が始まって以来激化しており、その結果、街路の緊張が高まっているという。家の前で騒がしくしていたのはこの地区の麻薬のディーラーだった。しかしながら、彼女は10年間ムーラン地区に住んでおり普段も同じように文句もいうが、このような攻撃を受けたのは初めてであるという。「新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐための都市封鎖は、弱体化しているディーラーに大きな打撃を与えました。そして、現在、彼らは24時間お金を稼ぐために存在感を高めようとしています。」と彼女は説明している。
3例目のニースのムーラン地区は、最近整備されたため、わりときれいな街である。しかし麻薬密売の多い場所であり、現在、明らかにこの地区は緊張した空気に包まれている。住民の不安は日々が続いていた矢先の出来事であった。
このように都市封鎖後に治安が悪化することは、フランスで都市封鎖が始まった3月の時点で予測もされていた。ロイターによれば、都市封鎖により厳しい国境管理がなされた結果、違法な麻薬の流れが混乱し、麻薬を取り扱うギャングが金利を引き上げ大麻の最低価格が急騰したという。
フランスでは大麻の使用は禁止されているが、ヨーロッパでも最も高い消費量を誇っている。そのほとんどの大麻樹脂はスペイン経由でモロッコから入ってくる。記事によれば、3月の時点で、100グラムの樹脂の塊の価格は、都市閉鎖期間にマルセイユでは280ユーロが500ユーロに値上がりしたのだ。大麻に限らず他の麻薬についても同じことがいえるだろう。
▲写真 大麻(マリファナ)イメージ 出典:Pixabay_freakwave
麻薬に関係する専門家からは、都市封鎖により麻薬の不足が長期化するとフランスの各地の都市の一部や刑務所で問題が発生する可能性が指摘されていた。麻薬集団間の競争はエスカレートする可能性があり、貧困地帯に住む麻薬使用者が麻薬を入手できなくなることにより、不安定な土台に作り上げられた脆弱な社会的平和がくずれるからだ。
規制を強化
こういった事情を受けカステックス首相は、薬物消費に対する定額罰金の一般化を発表した。2018年より一部の都市で適用されてきた規制が、9月からフランス全域に適応され、大麻を含む麻薬の使用が認められれば罰則が科せられることになる。罰則内容は以下の通りだ。15日以内に払えば150ユーロ(約1万8500円)。45日以内なら200ユーロ(約2万4700円)。45日を超えると45ユーロ(約5万5000円)。罰金を払わない場合は、裁判所にまであげられ最高で3750ユーロ(約46万5000円)の罰金と1年の禁錮刑が科されることとなる。
カステックス首相がニースを訪れた際、麻薬密売の多い地域を視察中おこなったが、関係者によれば視察中、地区のディーラーなどに威嚇されることもあったという。またニースではこの日、ナイフで刺された遺体がガレージの中で見つかるというショッキングな出来事も新聞をにぎわせていた。今後ニースでは、60人の警官が増員されるとともに、80人の市の警官が追加で募集されることも発表された。
カステックス首相は、「規制を課すことは、地域を悩ます販売拠点に対して効果があるはず。」と断言。フランスの一部の少数派により設定されたルールに、フランスに住む国民が支配されてはいけない。フランスの法に従うべきだとした。
この時期にちょうど行われたODOXAの調査によれば、フランス人の68%が安全に不安を感じている。この4、5年、フランスの治安は悪くなりつつあったが、都市閉鎖後にさらにそれが悪化したのだ。暴力的な事件が治まってくれることを大多数の国民が望んでいることは間違いない。
参考資料:
http://www.odoxa.fr/sondage/sentiment-dinsecurite-francais-na-jamais-ete-eleve/
写真:フランスの町(イメージ) 出典:PxHere
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。