高知氏自叙伝「生き直す」発売に寄せて最終章 読者から反響、続々
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・高知氏の自叙伝「生き直す」に多くの人から反響続々。
・高知氏の自叙伝は最高の依存症の啓発本
・「孤独の病」を抱える人々へ手を差し伸べる人が増えてくれたらと願う。
9/4に高知東生氏の自叙伝「生き直す」が無事発売された。
地方の書店では配本が遅れたり、アマゾンで注文された方も手に入ったのが翌週になったりと色々とアクシデントがあったようだが、現在はお手元に届いたようでTwitterやブログでも感想を書いて下さっている。また我々の元にも生の感想を頂いている。
読まれた方が皆さん一様におっしゃるのは「これは本当の話なのか?」「壮絶な人生」「映画になる」といった、高知氏がいかに過酷な星の下に生まれ、数々の試練を乗り越えてきたか驚かれているものである。
同級生の方や、地元の友人の方ですら、高知氏の内面や当時の詳しいエピソードを知り「感動した」とおっしゃる位である。
▲写真 高知東生氏 Ⓒ田中紀子
「よくぞ生き延びた」私たちの多くの仲間たちはこう語り、中には「高知さんこれだけの生い立ちを抱えて、よく覚せい剤ですんだよね」という人もいた。私も同じ感想である。
それを「不謹慎だ」と思う方々もいるかもしれない。けれども覚せい剤などの違法薬物を頼ってしまう人の中には、高知氏のように過酷な生い立ちゆえ、自分を大事にすることや、人と話しあったり、お互いが譲り合ったりして人間関係を円滑にすすめていくなどという経験ができないまま大人になってしまい、その後の人生に困難をきたす人もいることを知って欲しい。
そのために常に人の顔色を読み合わせてしまったり、感情をどう処理すれば良いかわからず抱え込んでしまったり、自分には価値がないと信じ込み人を頼ることができない人もいるのだ。実際、依存症者の中には機能不全家族で育った人々は多い。
罪を憎む気持ちは誰にでも当然あると思うが、違法薬物の自己使用者の一番大きな罪は、自分を傷つけてきたことである。その人の背景を思いやり、一般社会の方々には科せられた刑罰以外の、「排除」や「誹謗中傷」といった攻撃で裁かないで欲しいと願っている。
子供時代に孤独や孤立を抱えてきた人の心を溶かすのは、責めることではなく優しさや思いやりである。
高知氏はこの自叙伝を刊行するにあたり、多くの葛藤を乗り越えてきた。それはそうであろう。「自分は任侠の大物親分の息子だった」と書いてしまえば、今の社会ではもう完全に居場所を失うかもしれないリスクがあるのである。
それでも高知氏は全てを明らかにする決意をした。それは高知氏が自助グループや、依存症の回復プログラム「12ステップ」に取り組んだことが大きい。「12ステップ」に求められるものは「正直さ」と「開かれた心」そして「意欲」である。
私は高知氏を依存症の啓発活動や自助グループにお誘いした時に高知氏言った言葉を良く覚えている。「俺、やるなら徹底的にやりたい。田中さんが12ステップをやれというなら、それもちゃんとやりたい」と。そしてその通り有言実行し、今まで隠していた過去を全てさらけだしたのだ。その結果どうなるかはまだわからない。でも人はやり直そうと真摯に努力する人に対しては、寛容であると信じている。
▲写真 高知東生氏と田中紀子氏(右) Ⓒ田中紀子
私は、この高知氏の自叙伝は最高の依存症の啓発本であり、生きづらい人、機能不全家族で育った人、自死遺族など、多くの傷ついた人達にエールを送る一冊だと思う。
もちろん私も元気づけられ、勇気づけられた一人だ。この自叙伝で壮絶な孤独感からいかに高知氏が回復に至ったかをお読み頂き、社会に蔓延する依存症他「孤独の病」を抱える人々へ手を差し伸べる人が増えてくれたらと願うばかりである。
▲【動画】Japan In-depthチャンネル「薬物問題を知ろう!」 https://youtu.be/qfhk_pOnpuE
トップ写真:高知東生氏 Ⓒ田中紀子
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。