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.政治  投稿日:2020/10/5

学術会議問題:驕り・慢心捨てよ【菅政権に問う】


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本学術会議の任命拒否問題で、菅政権早くもつまづく。

・政権に反対する勢力は全て排除という姿勢は、驕りや慢心から。

・こうした問題に無駄に時間を浪費すべきではない。

菅政権が早くもつまづきを見せている。言わずと知れた、日本学術会議の任命拒否問題だ。

▲写真 日本学術会議 出典:Own Work

日本学術会議は9月3日、新会員候補6人の任命を拒否した菅義偉首相に対し、理由の説明と6人の任命を求める要望書を幹事会で決定し、内閣府に送付した。

新聞・テレビは連日この話題を取り上げている。当然野党も勢いづく。当然の事だろう。週明け5日朝のワイドショーもこの問題を取り上げるだろう。わざわざネタを提供しているようなものだ。

一部に首相の任命権に対する法的解釈の問題や、日本学術会議の存在意義を疑問視する声も上がっているが、そうした話もメディアの格好の話題である。当分収まりそうもない。

人事は確かに組織運営の要諦。自分に逆らうものは飛ばす。TVドラマ「半沢直樹」を観るまでもなく、サラリーマンならその悲哀を日々目の当たりにしているはず。組織のトップにつくや否や、自分の意にそぐわない人間を他部署に移動させたり、気に食わない人間を昇進させなかったり、身の回りをイエスマンで固めるなんていうのは日常茶飯事だ。その度に、何と度量の狭いことよ、と呆れるのを通り越して滑稽さを感じたものだ。しかし、それが人間というもの。上に立った時の高揚感、全能感というのはその立場を手に入れた人間にしかわからないのだろう。

しかしそれは民間企業でのこと。一国の首相がそれをやったらどうなるか?

思えば安倍前政権時代からその兆候はあった。菅首相が官房長官の時、ふるさと納税制度に反対意見を述べた事務次官候補といわれていた総務官僚、平島彰英氏が自治大学に異動になり省外に出された。2015年のこと、当時左遷人事と騒がれた。当の平島氏(現立教大学特任教授)は今になって様々なメディアで事の経緯を赤裸々に話しており、菅首相にとってはマイナスイメージでしかない。

今回の日本学術会議の問題も、菅首相とその周辺は大した問題ではない、とあなどっているのではないか?安倍政権時代の「モリカケ問題」、「桜を見る会問題」、「黒川元高検検事長問題」、どれも事なきを得たと評価しているのかもしれない。だが、果たして本当にそうなのか?

筆者は、すべては同根だと思う。政権の驕りがそこにないとは言い切れない。首相たるもの、自分の決断が正しいかどうか、絶えず自問自答することが重要だ。耳触りのいい取り巻き、政策に反対しないメディア、学者ばかりに囲まれていてそれができるだろか?

国民はちゃんと見ている。アメリカではトランプ大統領が、連邦最高裁判所のリベラル派の判事の後任に、保守派のバレット判事を指名して、批判を浴びている。権力者は常に、李下に冠を正さず、でなければならない。安倍政権が7年以上続いたのは、景気が悪くなかったこともさることながら、野党が分裂し、弱体化していたことが大きかった。

しかし、今は共産党の選挙協力を取り付けた立憲民主党が相手だ。総選挙は決して与党にとって楽勝ではない。菅首相が総選挙で政権基盤を盤石なものにしたいのならば、今回のような問題を起こすべきではないことは自明の理ではないか。

国民が菅政権に期待しているのは、安倍政権の負の遺産の清算と改革の断行だ。負の遺産の清算をするどころか、蓋をするのみならず、同じ徹を踏み続けるようだと、国民の支持はたやすく消え去るだろう。

驕り、慢心を捨て、本当に政権がやるべきことに注力すべきだ。新型コロナウイルス感染症がなかなか収束しない中、インフルエンザが流行する季節に突入する。景気悪化は今後更に加速する可能性がある。無駄に時間を浪費すべきではない。

菅首相は就任会見で以下のように述べた。

「また、安倍政権に様々な御指摘を頂きました。客観的に見て、やはりおかしいことは直していかなければならない、こう思います。今後、御指摘のような問題が二度と起こることがないように、謙虚に、そして皆さんの声に耳を傾けながら、しっかり取り組んでいきたいというふうに思っています」

この言葉に偽りなし、と皆が思えるような政権運営を強く望む。おかしいものは、おかしいのだ。

トップ写真:9月18日総理大臣官邸で次官連絡会議に出席する菅首相。 出典:首相官邸


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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