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.経済  投稿日:2020/10/8

「Go To Eat」錬金術師に物申す


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

「Go To Eatキャンペーン」で席のみ予約による錬金術がネットで話題に。

・「鳥貴族」で一品だけ注文し、1000円分のポイントとの差額を儲ける手口。

・飲食業などへの打撃が更に大きくなれば、景気は更に悪化する。

 

あまりに情けない。なにがって、「トリキの錬金術師」の一件だ。セコすぎて涙もでない。

居酒屋チェーンの「鳥貴族」は、10月1日から開始している「Go To Eatキャンペーン」のウェブ予約から「席のみ予約」を一時対象外とする方針を決めたという。

どういうことか?

「Go To Eatキャンペーン」は、①プレミアム付き食事券と、②オンライン予約によるポイント付与の2種類からなる。今回問題となっているのは②のポイント付与だ。ディナー(15時以降)をレストラン予約サイトなどで予約すると一人1000円分のポイントが貰える。しかも回数無制限ときた。

当初「鳥貴族」は、「コース」だけで無く、「席のみ」もキャンペーンの対象に入れていたことから、席だけ予約して1品だけ頼み、1000円との差額をポッポに入れる事を思いついた人間がネットに投稿、先週から話題となっていた。

鳥貴族のメニューは焼き鳥、ドリンクを含め298円均一。税込みで327円だから、「席のみ」で予約し、1品だけ注文して帰れば、1000円との差額673円分儲かることになる。回数無制限だから、10回これを繰り返せば6730円が粗利となる勘定だ。

なんともいじましい「錬金術」だが、こんな事をやっている人は、実際に金儲けが動機なのでは無く、キャンペーンの「裏技」・「抜け道」を見つけて自慢したかっただけなのかもしれない。

しかし、だ。そもそもなぜ「Go To Eatキャンペーン」が始まったのか考えてみて欲しい。新型コロナウイルス感染症拡大により、外食需要が蒸発したことから端を発しているのではなかったか。そんなことがわからないわけはないだろう。

多くの飲食業の人達が困窮を極めている中、ようやく始まった予算総額1534億円を投入する政府肝いりのキャンペーンなのだ。「Go To トラベル」やこれから始まる「Go To Event」、「Go To 商店街」などを合わせると、総額1兆6794億円という巨額の予算が組まれている。言わずと知れた、元は我々の税金だ。

飲食店は、予約サイト運営業者に送客手数料を払っている。少額の客が増えれば増えるほど収益は圧迫される事くらいちょっと考えれば分かるだろう。官房長官会見でも質問が出たというから本当に情けない。

今回の一連の「Go Toキャンペーン」は感染拡大防止と同時に行われている苦肉の景気刺激策だ。何もしなければ、飲食業のみならず、観光業、交通運輸業、イベント・エンタテインメント業などへのダメージは壊滅的となろう。今は景気を国民全員で支えるときでは無いのか?

欧米のように新型コロナで悲惨なことになっていないことをいいことに最近少し浮かれているのでは無いか、と思えてくる。先日の記事にも書いたとおり、飲食店で大声で騒ぐ集団など散見するが、三密を避けるために泣く泣く席を間引きし、消毒剤やアクリル板などに多額の出費をしてまでなんとか営業を続けている店が多い中で、どうしてもう少しお店や周りの客に気を遣うことが出来ないのか。

景気が腰折れしたら、また不景気にまっしぐらだ。困るのは私たち自身だという想像力を働かせてもらいたい。

来年度予算の概算要求も総額過去最高の105兆円超だ。景気が回復しなければ、そして、コロナ禍が収まらなければ、更なる財政投入が必要になる。国民の借金がどんどん積み重なるばかりだ。

今は国民全員が歯を食いしばって、助け合い、この困難な状況をなんとか乗り越えねばならないときだ。673円を儲けるより、やるべきことがあるはずだ。それを考えるのが今の我々に課せられた義務なのではないだろうか。

トップ写真:鳥貴族HP GO TO EAT キャンペーン画像 出典:鳥貴族


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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