無料会員募集中
.国際  投稿日:2020/12/27

日・仏学力レベル比較【2021年を占う!】教育


Ulala(ライター・ブロガー)

フランスUlala の視点」

【まとめ】

・国際調査で仏の数学・理科の学力レベルの低下傾向が顕著に。

・日本は理数系学力で再浮上も、英語の国際レベルは低位置。

・日本は学力格差ないこと踏まえた戦略を。仏はエリート育成が課題。

2020年12月、国際数学・理科教育動向調査であるTIMMS(Trends in International Mathematics and Science Study)の結果が発表されたが、フランスの生徒は以前と比較しても算数・数学、理科のレベルが低下し、ヨーロッパ諸国の中でも低いグループに位置することがわかった。この結果は、フランスの教育関係者および親たちに大きな衝撃を与えている。

■ 仏の数学・科学のレベルは全体的に低下

TIMMSとは、国際教育到達度評価学会(IEA)が4年に一度行っている教育動向調査で、算数・数学、理科の各国の到達度を国際的に調査しているものだ。調査対象年齢は、小学校4年生(フランスではCM1)と中学校2年生(4e)となっている。

今回フランスは、その調査結果により明らかになった子供たちのレベルに冷や汗をかいた。フランスのCM1の学力は、欧州連合(EU)内で最低ランクだと出たのだ。フランスの平均は485ポイントだが、国際平均は527ポイント、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均は529ポイントであり、国際的に見ても厳しいレベルであることがわかる。

中学校の数学のレベルの低下はさらに深刻だ。1995年の4eの数学は530ポイントだったのに対し、今回は483ポイントであった。これは、欧州連合とOECD諸国の平均の511ポイントより低く、ヨーロッパでは下から2番目である。IEA議長のティエリー・ロッシェ氏によれば、「2019年の中学校2年生の数学レベルは、1995年の中学校1年生の数学レベルと同等」だという。

しかもその学力の低下は、この2、3年でおきたことではなく、長期的に起きていることなのだ。前出のティエリー・ロッシェ氏が同じく長を務める学生評価本部(DEPP)の調査によれば、フランスは高成績のグループ5と4の割合が年々減少し、その代わり学力が低いグループ1と2の割合が増加していっていることがわかる。フランスは、一部のエリートが庶民を引っ張っていくことで国が繁栄していたことが特徴であったが、現在、その学力の高いエリートの数も減少していることも見えてくるのだ。

▲表 引用元 :Cedre 2008-2014-2019 Mathématiques en fin de collège : des résultats en baisse :Cedre 2008-2014-2019 中等教育終了時の数学:減少傾向にある結果

理由としては、小学校の教師は文系出身が多く、理数系を教えるための十分な教育を受けてないことが挙げられている。そこで、2018年からジャン=ミシェル・ブランケール国民教育大臣の指揮のもと、教員に対する教育を増やすなど改善を行ってきているが、結果がでるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。

■ 日本の数学・科学のレベルは全体的に上昇

一方、日本を見ると、真逆のことが起きていることがわかる。ここ最近は日本の子供たちのレベルが下がり、シンガポール、台湾、韓国に追い抜かれたとばかり取りざたされていた日本であるが、今回のTIMMSの結果は、日本の子供たちの基礎学力が再上昇していることを示している。

中学生の数学の成績推移のみを見れば、今回、高成績のグループ625点以上と550点以上の割合が増加しており、同時に学力が低いグループである400点未満と475点未満の割合が減少しているのだ。ようするに、全体のレベルが確実に上がってきているといえる。これは2011年に「脱ゆとり教育」が始まり、各教育機関が力を入れてきた成果でもあろう。

▲表 引用元:国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント 

その内訳を上位の国別にみてみると、日本は他の国に比べて特別とびぬけた625点以上の生徒は多くないかもしれないが、特別悪い400点未満の生徒が少なく、全体的にできるので平均値が高いことがわかる。一方、トップを行くシンガポールや台湾は、特別とびぬけた625点以上の生徒が多いことで平均値を上げていることがわかる。要するに、日本は、他国に比べて成績の低い生徒が少なく、極端な成績の格差がほとんどない状態なのだ。

▲表 引用元:国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント

■ ただし英語がまだまだ

日本を特徴づける教科でもある数学・理科が向上しているのは喜ばしいことだが、ただし、英語はそうはいかないようだ。同じく12月に発表された世界最大の英語能力指数ランキングEF EPIによれは、日本は100か国中、55位にランキングされており「低い」レベルのクループに入っている。

一方で、ヨーロッパでは英語のレベルはかなり低いとされているフランスは、国際的には28位であり「高い」レベルのグループに入っているのだ。

地理的要因をはじめ、ヨーロッパ諸国の言語とは違い英語に比較的遠い言語である日本語は、まずスタートラインが違うとしても、今後は改善していく余地は大きい。全員に対して徹底的に英語教育する必要もないが、戦略に応じて、適した人材に対して海外のマーケットに対応するための教育を積極的に行う必要があるのは明白だ。

▲写真 日本の小学校の教室。 出典:flickr; ajari

■ フランスは人材育成、日本は戦略が大切

日本のようにこれだけ平均的にできる子供たちが多い国は世界的に珍しいと言える。フランスをはじめ、多くの国では貧富の差で激しい教育格差が生まれ、その格差による影響に苦しめられてきているのが現実だ。世界ではそれを乗り越えようと奮闘しているのにもかかわらず、日本はすでにその壁は乗り越えているのだ。

ベースを固める人材は確実に育っている日本。2021年からは、海外との競争に対応できるトップ人材をいかに育成するかを考えた上で、この高い学力の若者が均一に存在することを踏まえた戦略が重要になってくると言えるだろう。

また、フランスは、全体の学力も落ちた上、力のあるエリートの絶対数が減少している状態から脱出することが今後の大きな課題といえる。さらに、2020年は新型コロナの影響で学校も休みがちであったがため、体力、学力共に落ちている。2021年以降は気合を入れて子供たちを教育し、国のベースの再構築が重要になってくるだろう。

コロナ後の2021年は新しい出発の年と言っても過言ではない。いまからそれに備えて準備する必要がある。ここぞという時に一気に飛躍できるよういまから努力していきたいところである。

<参考資料>

Pourquoi les élèves français sont-ils si mauvais en maths et en sciences ?

Cedre 2008-2014-2019 Mathématiques en fin de collège : des résultats en baisse

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)における成績

EF EPI 2020

トップ写真:フランスの小学校の授業の様子 出典:フランス国民教育省ホームページ




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."