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.国際  投稿日:2021/4/17

露、ミャンマー国軍反乱いつまで支持


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・ミャンマーの国軍によるクーデター、市民の死者は700人超。

・露がミャンマー制裁への拒否権をいつまで続けられるかが注目の的。

・ミャンマー最大の援助国日本もクーデター政権への支援やめるべき。

 

クーデターで権力を掌握したミャンマー国軍の弾圧は、日増しに激しさを増し、市民の死者は4月11日付で700人を超えた。この度を越した弾圧に国際的批判が高まり、ミャンマーの軍人や外交官にも不服従の動きが広がっている。国連安保理で拒否権を持つロシアと中国の動き次第によっては、ミャンマー国軍は国際的制裁と批判によって孤立化し敗北する可能性も出てきた。

ミャンマー市民のデモと不服従の動きは、2月1日のクーデターから2ヵ月以上続くが止む気配はなく、むしろデモの波は首都ヤンゴンから地方にまで広がっている。国軍は昨年11月の総選挙で不正があったと主張しクーデターを正当化している。しかしアウンサンスーチー女史(国家顧問)の率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した選挙について外国からの選挙監視団は公正だと評価しているのだ。

ミャンマーでは1962年のクーデター以後、国軍が約半世紀にわたって政治を支配していた。2011年の民政移管後も憲法で国会議席の4分の1が「軍人枠」とされていたが、15年、20年の総選挙でNLDが圧勝し、国軍の持つ経済利権が脅かされる状況となってきたため今回のクーデターに至ったとみられている。

ミャンマーは第二次大戦中、日本軍の占領下にあった。1945年3月27日に抗日地下組織による武装蜂起があり、その指導者はアウンサンスーチー女史の父親・アウンサン将軍らで、その蜂起した日を国軍記念日と定めた。今年はその国軍記念日にデモ参加者が国軍によって弾圧され、100人以上が治安部隊の手で殺害され、子供たちも犠牲になったという。それだけに市民の国軍に対する抵抗も激しく抗議活動は広がる一方となっている。

▲写真 ミャンマーのヤンゴンの中央銀行近くで警戒に当たる国軍の装甲車両 2021年2月15日 出典:Hkun Lat/Getty Images

最近、国軍側は市民への発砲に実弾を使い始めているほか、デモ参加者でない市民にまで暴行を加えている。また通信の切断、監視カメラの悪用などで市民を脅かし続け、国営テレビで「頭を撃たれる危険があることも覚悟すべきだ」と、市民が抵抗を止めるように仕向けている。

これに対し、ミャンマーのチョーモートゥン国連大使は、先日の国連総会で「国軍やその関係企業と取引のある各国の企業は、直ちに取引を中止して欲しい」と呼びかけ「ミャンマー市民の声を国際社会に伝えられる機会を得てうれしい」と発言すると演説後に各国の拍手が続いたという。国軍側は怒ってチョーモートゥン国連大使の解任を発表。次席大使を後任に据えようとしたが、その次席大使も辞任した。こうした国軍に対する不服従運動は他の在外の外交官にも広がっている。そればかりでなく、ミャンマー国内の警察官など公務員にも国軍への不服従運動が広がり始めたという。

またアメリカをはじめ英国、カナダ、欧州連合(EU)が国軍幹部や国軍関連企業に経済制裁を発動し始めた。日本は国軍、NLDの両方に密接な関係をもっているが、国軍に強い非難を表明しつつ、国軍とのパイプも生かして独自の対話路線を続けると述べている。しかしそのようなどっちつかずの方針は次第に評判を落とすだろう。また安保理で拒否権を持つ中国は、内政不介入の方針で距離を保っているが、ミャンマー軍に武器を売却しているロシアはミャンマー国軍寄りの姿勢を見せてまだ支持を続けている。

ただあまりにもひどいミャンマー国軍の弾圧に国際世論の批判は厳しさを増しており、ロシアがミャンマー制裁への拒否権をいつまで続けられるかが注目の的になってきた。

ロシアが制裁拒否権を発動しなければ、ミャンマー国軍は一挙に国際的孤立に追い込まれることになる。ミャンマー国軍にとってはいまやロシアの制裁拒否発動が唯一の頼りだが、ロシアはミャンマー国軍の非常識な市民弾圧にいつまで支持を続けるのか、ロシアにとっても苦しい局面を迎えつつあるといえる。

しかも治安部隊のモラル、規律低下もひどいようで、SNSには治安部隊が飲食店を襲ったり、住民の財産を奪う事件まで起きている様子が投稿されているという。そうした事件は映像で直ちに世界へ流されたりするから、ロシアがいつまでミャンマー国軍を支援し続けるか、国際社会からの批判はいずれロシアに向かう可能性もある。

今回のクーデターはミンアウンフライン最高司令官が司令したものだが、その動機はまもなく司令官が定年を迎え、その後に大統領職に就きたいためといわれていた。個人的動機からクーデターを起こし700人以上の市民を殺害する挙に出るなど正気の沙汰とは思えない。国際社会が一斉に批判しているのも、今回のクーデターに正当な理由がないことを知っているからだろう。

▲写真 ミンアウンフライン将軍の肖像画を燃やしてクーデターに抗議する、タイのミャンマー移民(タイ・バンコク 2021年2月3日) 出典:Lauren DeCicca/Getty Images

ロシアも武器売却の取引があるからといって、いつまでも支持をし続けているとミャンマー国軍と同様に、早晩国際的孤立に追い込まれることになるのではないか。中国もいつ国軍支持をやめるか、迷っているのではないか。日本はミャンマーへの最大の援助国となっているが、クーデター政権への支援はやめるべきだろう。日本と中国が手を引けば、ミャンマー国軍の行末も風前の灯火となるだろう。

トップ写真:ミャンマーの軍事クーデターに抗議するために米国大使館の外に集まった抗議者たち(ヤンゴン 2021年2月16日) 出典:Hkun Lat/Getty Images




この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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