仏「中国人狩り」投稿者に有罪判決
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・アジア人への暴力誘導ツイートを投稿した4人の若者に有罪判決。
・4人の学生は2日間の市民コース受講と賠償金支払いが命じられた。
・フランスにおけるアジア人の地位向上の歴史的第一歩となった。
フランス・パリの裁判所は、5月26日水曜日、新型コロナウイルスの流行は中国人のせいであるという考えから、アジア人への暴力誘導ツイートを投稿した4人の若者に対し、「人種差別主義的な内容の公然侮辱および犯罪行為への扇動」をしたとして、有罪判決を下した。この裁判は、アジア人差別に対する「歴史的な」裁判とも呼ばれ(参考記事:仏でアジア人差別に対する裁判開始)、注目されていた裁判でもある。
■ アジア人への暴力扇動のツイートに対する裁判
人種差別からくる暴力扇動のツイートは、2020年10月28日エマニュエル・マクロン大統領が2度目の外出制限を発表した直後に始まった。「中国人」に対する憎悪のメッセージがTwitter上で流れたのだ。それは、「中国人」を見かける度に暴行しろと扇動する内容であった。
「高校の生徒は、第2外国語と第3外国語で中国語を習っている奴らを殴れ」
「中国人が横を通りすぎる度に襲え」
フランスでは、一部の人の中では、「中国人」と言う言葉は「アジア人」を示す言葉として使われている。そのため、中国人と書かれていたら、対象はアジア人全般のことを言っていると思った方がいいだろう。すでに、新型コロナウイルスの流行が始まってからアジア人に対する暴行や、アジア系レストランへの嫌がらせなどが増加していた時期である。
これを見たアジア人の団体はSNSで起こっている増悪の流れをとめるべく警察に訴えた。アジア人への差別行動は、コロナの流行以前からあったものの、しかし、今までアジア人はあまり声をあげなてこなかったため無かったことにされてきた経緯もある。近年は、アジア人狩り(参考記事:中国人狩り、フランスで頻発)などにより被害が増加し、アジア人2世、3世の若者は、人種による差別と闘うために活動を行ってきていたところだ。
そして今回、その訴えは聞き入れられた。警察の4カ月にわたる捜査の結果、アカウントが特定され、5人が起訴されることとなったのだ。この他にも特定された人物の中には4人の未成年者がいたが、未成年者については年齢に応じて、別の場所で裁きを受けることになった。
起訴された5人は19歳から25歳の若者で、いずれも「良い家庭の子供」と呼ばれた人物ばかりだ。フランスのトップクラスのエリート校とされるパリ政治学院2年生、エンジニア系のグランゼコールに通っていた21歳、ビジネススクール、BTS(短期技術大学)、大学の法学部の学生たちであり、誰一人前科はなかった。
事件に関与した1人は無罪となったが、残り4人の学生はパリ刑事裁判所から有罪の判決を受けた。この結果、2日間の市民コースの受講と、告訴人に対して250ユーロの支払い及び、最高1000ユーロ(約13万円)の賠償金の支払いが命じられたのだ。
■ マイナス面もあるが勝利
事件の告訴人の一人で、フランス中国青年協会の弁護士でもあるソク・ラム氏は、この裁判結果を歓迎した。「パリの検察庁内で新たに創設されたオンライン上の憎悪に対する部署が主導となって起訴し、刑が宣告されたのはこれが初めてのことです。今後、同じことをする人々が現れても、暴力を扇動する発言することは、法廷に出廷するリスクがあることを示せた裁判となりました」。しかしながら同時に、「非常に象徴的で軽い判決」であり、一部の人にとっては十分な抑制にならない可能性があることも指摘した。判決の結果が前科にも残らない軽い刑になったことについては、同様に、人種差別に反対する団体SOSracismeも不満を漏らすこととなった。
だが、中国青年協会の会長は、本質的なことは成し遂げられたことを強調した。「捜査が非常に迅速に開始され、検察と警察が非常に敏感だったという事実は、私たちにとって、それ自体がすでに勝利でした。」そして、卑劣な書き込みをしたことで、有罪判決を受けたことは満足な結果であり、「彼らを非難することで、ソーシャルネットワークで活動しているすべての人々に、このような憎悪や暴力の呼びかけは犯罪であることを示すことができた。」と続けたのだ。
■ アジア人差別に対する「歴史的な」第一歩
フランスにおいての、アジア人の移民の歴史も浅く、今までアジア人に対する差別に大きな声を上げることもなかった。しかしながら、時代は次の世代へとかわり、フランス生まれのアジア系移民の2世、3世は差別に対する反対活動を始めた。そんな中で起こったSNSでのアジア人に対する暴力扇動の呼びかけに対し、ついに裁判所が罪であると認めたのだ。これは、フランスにおけるアジア人の地位向上の歴史的第一歩ともなったと言っていいだろう。今後は、これを皮切りに、アジア人が対象なら暴力扇動発言をしても許されてきた状況が、少しでも改善することを願うばかりである。
<参考リンク>
Procès des cinq étudiants poursuivis pour des tweets empreint de racisme antiasiatique : Un rappel nécessaire de la responsabilité sur Twitter (アジア系人種差別ツイートをした学生5人の裁判:ツイッターでの責任についての必要な注意喚起)
Racisme anti-asiatique : quatre auteurs de tweets haineux condamnés à un stage de citoyenneté et des amendes (反アジアの人種差別:憎悪に満ちたツイートをした4人に市民権取得のためのトレーニングと罰金を宣告)
Quatre étudiants condamnés pour des tweets racistes anti-asiatiques
(反アジアの人種差別的ツイートをした学生4人に判決)
トップ写真:米バージニア州ヘンライコ郡で行われたアジア人ヘイトクライムに対する抗議デモ参加者(2021年3月23日) 出典:Eze Amos/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。