無料会員募集中
.国際  投稿日:2021/6/26

中国におけるコロナの現況は


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

「澁谷司の東アジアリサーチ」

【まとめ】

・蔓延収束に見えるが、実は各地で半ロックダウン実施。終了日確認できない地域も。

・湖北省1省で3カ月で高齢者約15万人が年金支給リストから『消えた』。

・情報管理で実態把握は難しい。当然、感染者は何十倍もいるはず。

 

今年(2021年)5月と6月、中国広東省でロックダウンが実施された。

ロックダウンに関して、例えば『知恵蔵mini』では以下のように解説している。

「一定期間、対象とする地域で人の移動を制限したり、企業活動を禁じたりする措置をとること。明確な定義はなく、国によって措置の内容は異なるが、都市を事実上、封鎖することにつながるため『都市封鎖』と訳される」。

中国では、一応、ロックダウン(中国語では「封鎖」)と半ロックダウン(同「封閉式管理」)の区別があるようだが、明確な違いは不明である。

後者は「建物全体を管理単位とし、隔離体を用いて建物を外部から遮断し、管理の範囲内で、建物領域に出入りする人や車両などの移動を制御・管理し、所有者や利用者に対して衣・食・住・交通などの面で、きめ細かなサービスを提供する」(『百度百科』)という。ならば、前者は、その「きめ細かなサービスが提供されない」ということか。

中国のロックダウン・半ロックダウンは、共に当局から強制力を伴う。日米欧では考えられないほどの厳しさである。

一例を挙げれば、昨2020年3月、孫春蘭副首相が武漢入りした際、マンションの住民が(政府の言っている事は)「全部ウソだ」と叫んだため、まもなく、そのマンションは住民の出入りができないよう完全封鎖された。しばらくの間、そこの住民は買物さえ許されなかったのである。

さて、昨年夏頃から、中国では「新型コロナ」の蔓延が落ち着き始めたかに見えた。だが、実は、次のように半ロックダウンが実施されている(「2019冠狀病毒病中國大陸疫區封鎖措施」)。主な地域を取り上げてみたい。

(1)   7月16日、新疆ウイグル自治区のウルムチ市で開始(終了日不明)

(2)7月24日、遼寧省大連市で開始(終了日は8月10日)

(3)9月14日、雲南省瑞麗市徳宏タイ族チンポー族自治州で開始(同月21日に終了)

(4)11月21日、内モンゴル自治区フルンボイル市で開始(終了日不明)

(5)12月13日、黒竜江省牡丹江市で開始(終了日不明)

以上のように、少なくとも5地域で半ロックダウンが行われた。しかし、この中の3地域では、いつそれが終了したか確認できていない。そのため、ひょっとして、今でも半ロックダウン状態が続いていないとも限らないだろう。

周知の如く、中国では当局が情報をコントロールしているので、住民によるSNSでの情報が制限されている。したがって、これら地域の実態を知るのは難しい。

今年に入ると、春節(旧正月)以前に、別の3地域で半ロックダウンが行われた。

(1)1月5日、河北省石家庄市で開始(終了日不明)

(2)1月11日、黒竜江省の綏化市で開始(終了日不明)

(3)1月12日、河北省邢台市と廊坊市で開始(終了日不明)

そして、最近、広東省でロックダウンが行われている。

(4) 5月29日、広州市で開始

(5) 6月19日、深圳市で開始

さて、今年初め、日本のあるメディアは、「(中国)政府はコロナを封じ込めるため、武漢で最初に実践した厳格な行動制限や隔離などの手法に自信を強めている。・・・感染が再び広がる河北省などでも『武漢モデル』を使って感染を抑え込む構えだ。欧米や日本などに比べて感染者数は桁違いに少ない(引用者)が、市民生活への影響は小さくない」(『東京新聞』「<新型コロナ>武漢封鎖1年、北京周辺に広がる感染も『武漢モデル』で制圧狙う」2021年1月24日付)と報じた。

同新聞は(中国が発表した数字を基にして)米ジョンズ・ホプキンス大学が集計した数で判断したのだろう。これでは、中国の公表した数字を鵜呑みにして、情報を垂れ流している感は否めない(ちなみに、2021年6月21日現在、中国の感染者数は9万1,604人、死亡者4,636人<『新型コロナウイルス感染 世界マップ』日本経済新聞>)。

かつて、われわれは、2020年1月末から2月初めのたった1週間で、武漢市内の葬儀場でのご遺体焼却数から、同市・同期間にコロナ死した人は約2,000人と推測した(参照:『日本戦略研究フォーラム』「1週間で約2千の遺体が焼却された武漢市」)。

▲写真 76日間にわたった長期封鎖から1年。墓を清掃する人の姿も(2021年4月3日 中国・武漢市) 出典:Getty Images

一方、『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』は「中国湖北省の年金統計は、コロナ死に対する疑念を引き起こす」(2021年2月17日付)という記事を掲げた。

「2019年12月、『新型コロナ』のパンデミックが初めて発生した湖北省の民政部が発表したデータによれば、(コロナが武漢市とその周辺地域を襲い、)省内のロックダウンを引き起こした2020年第1四半期に、約15万人の高齢者の名前が年金支給対象者リストから『消えた』ことが明らかになった」と報じている。

高齢者なので、コロナ死以外の病死、事故死、自然死等も含まれるだろう。だが、それらを考慮しても、湖北省1省だけでこの数である。全国(31省市)でどれほどの人達がコロナで亡くなったのか、想像もできない。当然、感染者は、その何十倍もいるはずである。

トップ写真:長期封鎖一部解除後も人の流れが厳しく管理されていた武漢市の住宅街(2020年4月8日 中国・武漢) 出典:Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."