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.国際  投稿日:2023/6/20

中国の「地方政府債務」再考


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・ある学者が、昨年の地方政府の債務総額が60兆元(約1189兆円)にのぼり、過去最高を記録したと指摘。

・SNSで流された債務残高上位都市は、武漢市、広州市、成都市。

・新華社は4月末時点で、地方政府債務残高は約37.07兆元(734兆3600億円)としている。

 

よく知られているように、中国では、かねてより地方政府の累積債務が問題視されてきた。

今年(2023年)6月5日、新華社は、突如「現在の地方財政オペレーション態勢をどう見るか」という文章を発表(a)した。

ポイントは、昨2022年、中央から地方への移転支払規模は9兆7100億元(約192兆3551億円)に達したが、過去5年間で、中央から地方への移転規模は40兆6600億元(約805兆4746億円)に達し、年平均成長率は8.4%だという点ではないか。

おそらく、習近平政権は、内外からの「地方政府財政破綻」への懸念を払拭するため、新華社を使って反駁したに違いない。

実は、ある学者が、ネット上に「昨年の地方政府の債務総額が60兆元(約1189兆円)にのぼり、過去最高を記録した。だが、まだ暴露されていない地方政府の“隠れ債務”があり、すでに破産した地方政府もある」と指摘した記事を掲載(b)している。

最近、中国地方政府の債務残高上位50都市がSNSで流され、地方政府債務残高の上位3都市は、武漢市6295.1億元(約12兆4706億円)、広州市4655.6億元(約9兆2227億円)、成都市4645.5億元(約9兆2027億円)であることが明らかになった。

他方、地方政府で負債比率(負債÷純資産<自己資本>×100)の高い上位3都市は、浙江省紹興市1612%、安徽省阜陽市1388%、黒竜江省ハルピン市1091%となっている。

一部のネットユーザーは、中央政府直轄市がこの統計表に含まれていないため、北京市、上海市、天津市、重慶市の各政府債務の実態が見えないと批判した。また、他のネットユーザーは、各地方政府の債務を返済するため、一体、何がどう使われているのか、と疑問を呈している。

復旦大学法学修士という肩書を持つネットユーザーは「この15年間、地方政府の負債残高が年平均16%を超える増加速度で“高成長”を続けている。これは、同期間の名目GDP増加7.8%よりはるかに高い」と鋭く指摘した。

6月2日、米国に拠点を置く経済調査会社「ロジウム・グループ」の研究者が発表した報告書によれば、債務圧力は、コロナ流行後の経済回復に向けた中国地方政府の財政支援を著しく制限し、昨年、都市の半数は債務の利息さえ支払うことが困難だった(c)という。

同グループ研究者が、中国205都市と3000の地方政府「融資プラットフォーム」の年次報告書を調べたところ、半数の都市は債務償還支出が総収入よりも10%多い事が判明した。

一方、新華社は、今年4月末時点で、中国全土の地方政府債務残高(隠れ債務を除く)は約37.07兆元(734兆3600億円)で、全人代が承認した上限の42.17兆元(約835兆3900億円)を下回っていると、中国財政部のデータを引用して伝えている。

また、記事は中央および地方の法定政府債務を含む昨年の中国の債務比率(債務残高/経済総額)が約50%だったことに言及した。これは国際的に受け入れられている60%の警告ラインを下回っており、主要な市場経済国や新興市場国のレベルを下回っているので、リスクは一般的に制御可能であると主張している。

けれども、地方政府の隠している債務がどの程度にのぼるのか、まったく不明である。

ところで、新型コロナが流行した3年間、全国31の省市が財政的にどのような成績を収めたのか(d)。また、裕福な省市は全国の財政にいくら寄与したのだろうか。

財政の豊かな省市は中央政府に「上納」している。逆に、財政状況が厳しい地方政府は、中央政府を通じて、他の豊かな省市から財政援助してもらわなければ破綻する。これが、省市間の「財政移転給付金」である。

上海市は、中国の31の省・市の中で最大の財政貢献をしている。昨年の貢献額は7339億元(約14兆5385億円)で、一昨年と比べ8.8%の微減にとどまった。つまり、2476万人の上海市民は、昨年1人当たり2.96万元(約58万6400円)を中央国庫に寄付した事になる。

北京市は、この3年間、中央への財政貢献は、7000億元台(約13兆8670億円)で安定している。

また、広東省は2019年に5516億元(約10兆9272億円)、昨2022年に5098元億(約10兆0991億円)を、浙江省は2019年に2486億元(約4兆9248億円)、昨年に2656億元(約5兆2615億円)を中央に寄付している(両省とも一時期、コロナ禍で財政事情が悪かったか)。

2022年、広東省は1人当たり4028元(約7万9800円)を、浙江省は平均4038元(約8万円)を寄付した計算となるだろう。

他方、2019年の江蘇省の財政貢献額は、2971億元(約5兆8855億円)で、昨年、913億元(約1兆8087億円)と激減した(理由は不明)。

 

〔注〕

(a)『中国日報』(2023年6月6日付)

https://china.chinadaily.com.cn/a/202306/06/WS647e6d24a310dbde06d2207c.html

(b)『万維ビデオ』「真実の数字が明らかになった!中国共産党が釜を割って鉄を売ってもこの穴を埋める事はできない」(2023年6月1日付)

(https://video.creaders.net/2023/06/01/2612909.html)

(c)『中国瞭望』「中国の地方政府は多額の負債を抱えているが、北京は朗報を伝えている」(2023年6月5月)

(https://news.creaders.net/china/2023/06/05/2614051.html)。

(d)『中国瞭望』「3省3市はいかにして全国を養うか?2023年中国財政総覧」(2023年6月4日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/06/04/2613797.html)

トップ写真:イメージ(上海の繁華街、南京路)出典:Getty Images/Nikada




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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