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.政治  投稿日:2021/10/4

「総選挙に向け、与野党の政策をチェックして欲しい」国民民主党山尾志桜里衆議院議員【Japan In-depthチャンネル】


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部(石田桃子)

【まとめ】

・総裁選は、政策論争の深化の点で有意義だった。

・子育て・教育予算倍増や人権侵害制裁法成立などへ、政権を後押しする。

・岸田新総裁の「聞く力」に期待。

 

9月29日のJapan Indepthチャンネルは、国民民主党山尾志桜里衆議院議員をゲストに迎えた。話題は、29日に誕生した岸田文雄自民党新総裁と新内閣の課題、さらに衆院選に向けての戦略に及んだ。

■総裁選について

山尾氏の第一声は、「番狂わせはなかったですね」。

「今回の総裁選を見て、もしかしたら近い将来の女性総理誕生につながりうるような、良い総裁選だったと思いました」と述べ、高市早苗、野田聖子両候補が総裁選に挑んだことを評価した。

「それぞれ得意分野で勝負したので、大事な分野がまんべんなく論点化されたし、それぞれの分野における4候補の得意不得意も垣間見えた。社会的に論点を深めたり、課題を提起したりする機能を果たした総裁選だった」。

「(裏で野党)党首同士がディベートをしてもよかったんじゃないか」との安倍のコメントに対して、山尾氏は同意した。

「野党がやるべきは、衆議院選挙を直前に控え、政策をすり合わせて一本化することに注力するよりも、野党の中で活発な政策論争を見せていくことだ」と述べた。

■コロナ対策について

岸田氏が掲げたコロナ対策について:

健康危機管理庁(仮称)」設置について山尾氏は「付け焼刃っぽい。本当にやるのか」と疑問を呈し、

「基本的に、先送りされている問題を新しい庁をつくることで解決することは懐疑的」だとした。また、「電子的ワクチン接種証明の活用」については、「本当はもっと総裁選で議論をしてほしかった」と述べた。

「賛成反対ではなく、諸外国は人権とのバランスに悩みながら1年以上侃々諤々の議論をし、方向性を決めて不都合があるとどんどん変化させている」。それに比べて日本では、「法的な論点の整理や、社会の合意形成がされていない」と指摘した。

緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の両方を解除するにもかかわらず、飲食店などに対する時短営業要請は継続する、という政府の方針にも疑問を呈した。

「区別がないと、オオカミ少年ではないが、緊急事態宣言の効果がなくなってしまう。実際になくなってしまっている」と述べ、平時における措置について、もっと議論が行われるべきだとの考えを示した。

「自粛などの要請に応じることができる経済政策もしっかりやってほしい」とも述べた。

■経済・社会保障政策について

「事業規模別の支援」

岸田氏の「事業規模別補償」の考え方は、国民民主党と主張が重なるという。

「選挙の後に先送りせずに、解散総選挙の前に、この規模別保障だけは先行させるべきではないか。この1か月、2か月が、そのお店やその人の人生を変えるので」。

「解散を打つ前に、ひとつでも、今やるべきことをすぐやったら、日本の為になるし、おそらく岸田さんの選挙にもプラスに働くのではないかと思う。野党にとっては苦しい展開に、むしろなると思います」。

衆院選・野党共闘

話題は、衆院選における野党の戦略に及んだ。

野党の候補者一本化に際して、国民民主党の玉木代表はJapan In-depthの取材に対し、事前の予備選挙で候補者を決める、という案について、山尾氏は支持を示した。

「(実現すれば、)国民の目に見えないブラックボックスがなくなる」。

「新しい日本型資本主義」

山尾氏は、国民民主党の主張と重なるところもあると指摘したうえで、具体策を明らかにすべきだと主張した。

特に、医療・介護従事者の給与以外の「公定価格でコントロールできない、民間分野の給与をどうやって上げていくのかという具体策を聞きたい」と述べた。

「岸田さんは聞く耳を持っていそうなので、他の候補者の問題提起や野党の提案をどんどん飲み込んで実現していってほしい」と期待感を示した。

また、国民民主党が提唱する「正社員雇用維持に対する保険料負担半減」、「求職者ベーシックインカム」のほか、「ハイパー償却税制」という投資促進策に言及した。

「求職者ベーシックインカム」とは、就職を目的として教育や訓練を受ける間の生活保障を行う仕組み。「ハイパー償却税制」とは、一定の投資に対して取得額以上の減価償却を認める仕組みだ。

「グリーンやデジタルの分野に絞ることで投資の方向性を誘導することに使うこともできる。設定の仕方は色々工夫ができる面白いチャレンジだと思う」とした。

消費税・所得税

国民民主党は、コロナ下の時限措置としての消費税5%、所得税還付と組み合わせた「給付付き税額控除」を提案している。

「多くの議員が『軽減税率よりも給付付き税額控除の方が筋が良い』と内心思っている。それでも選挙を前にして軽減税率へ舵を切ったということは、国民に伝わりやすい安易な方に舵を切ったということ。あとは、新聞が軽減税率の恩恵にあずかるために、論点化を抑制したという面がある」と述べた。

そのうえで、「もう一回、給付付き税額控除のメリットを国民に説明する良い機会に、衆院選も含めてなったら良い」。「働く中間層をしっかり後押しするような税制をきちんと議論したい」と述べた。

子育て・教育

教育費の議論を重要とする安倍の指摘に、山尾氏は同意した。

国民民主党では、「教育国債」を提案しているという。

「今の教育予算を倍増すると、3歳から大学までの教育予算を基本的に無償化に近づけることができる。これくらいのことはやってほしい」。

「子どもがどんどん少なくなる、虐待死する、そういう国に未来はない」との安倍の意見に山尾氏は同意した。

「今までのように、机上で産めよ増やせよの少子化対策をやるのではなく、ひとりひとりの今を生きる子どもたちに、困っている状況を解決するためにメニューを出していく。そうすると、子育て・教育予算が徹底的に少ないという話になる。そこにきちんとメスを入れて思い切り支出を増やしてくれるよう、岸田政権を持っていかなくてはいけない」と述べ、子育て・教育関連予算の支出増を求めた。

■外交・安全保障について

「人権問題担当首相補佐官」

山尾氏は、「対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)」及び「人権外交を超党派で考える議員連盟」の共同会長として党派を超えて「対中政策」と「人権外交」に取り組んでいる。

議連はこれまで政府に向けて、「人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)」の制定などを提言しているが政府の動きは鈍い。岸田氏は、「人権問題担当首相補佐官」を置く考えを示している。これに対し山尾氏は、

「議員は、国会対応の縛りが厳しく、海外を飛び回って情報収集をしたり意見交換をしてネットワークをつくったりすることが結構難しい面がある」と指摘。「三役ではまかなえないアクティブな面を補佐官にしっかり担ってもら」うことは必要だとして、期待を示した。

山尾氏は、「人権外交を超党派で考える議員連盟」での活動を通じて、諸外国議員との意見交換の重要性を体感しているという。

しかし、議連が提案書を提出しても政府は動かないという安倍の指摘には同意。総裁選を、議論をもう一歩進める機会ととらえ、4候補に賛否を問う質問状を送ったという。結果は、河野氏を除く3人が支持を表明した。

「少なくとも岸田さんは、『厳格に対応する』とした。行動で示してもらえるように、背中を押していきたい」と述べた。

議員立法で人権侵害制裁法を成立させる可能性を問われると山尾氏は、「議員立法は、与党のGOがかからないと、与党が委員長を占めている委員会にかからない」と、難しさを明かした。

ただし、人権侵害制裁法が政策論点として認知度を挙げたことについては評価した。

「与党・野党関わらず、メディアの皆さんとともに、問題をきちんと可視化して、解決しようという議連の取り組みがどんどん広がっていくといい」と述べて、オープンな議連の運営の重要性を訴えた。

敵基地攻撃能力・中距離ミサイル配備

「タブー視されずに、理性的に議論の俎上に上がったのは良いことだったと思う」として、論点を緻密に議論する姿勢が出てきたことを評価した。ただし、米軍の中距離ミサイルを日本に配備することについては慎重な姿勢を示した。

拉致問題

「トランプ政権の時にチャンスがあったのではないか」との安倍の指摘に対して、山尾氏は積極的に同意はしなかったが、自衛隊法改正の必要性に言及した。

自衛隊法を含めた安全保障法制の改正は、山尾氏が新総裁に期待していたことの一つであるという。山尾氏は自衛隊法改正について、過去の予算委員会で自ら質問し、河野防衛大臣(当時)の約束をとりつけている。

「今の自衛隊法を含めて、海上保安庁の役割にしても、領土保全が任務に入っていなかったり、警戒監視、情報収集が明記されていなかったりする。書いてあるべきことが書いていないという部分がかなりある。きちんと明記して、我が国の姿勢を明確にすることは、間接的に北朝鮮に対する一定の抑止力になると思う」と述べた。

インド太平洋戦略

中国包囲網ができつつある中での、中国のTPP加盟申請について、日本の戦略を問われると、山尾氏は次のような考えを述べた。

「自由で開かれたインド太平洋構想の提唱者として、上手にこの状況を使ってほしい。ただ、欧米と中国の間の仲介者として、取り持つ役割まで日本が今できるのか、やるべきなのかというと、懐疑的だ」とした。そのうえで、「日本が第三者的に、こうもり的な立場で、どっちつかずの対応を続けているというマイナス面も考えた方が良い」。

「現時点では、『我々は「インド太平洋(構想)の提唱者です、私たちは中国と同じようにアジアの一員です、西洋の価値観ではなくアジアも含めた人道主義を徹底していきましょう、インド太平洋地域で』という形で、欧米とは違う呼びかけが中国に対してできるというメリットは使った方が良い」と述べた。

「アメリカが(TPPに)戻ってくるのが先決」との安倍の意見には同意した。

「仲介役をやりきる自信がないのなら、しっかり自分の基本的な姿勢を明確にし行動で表すという策をとった方がいい。それもできていないように今は見える。せめて『私たちは人権国家として同じ価値観の国々とともに、発言するだけではなく行動します』と人権侵害制裁法と人権デューデリジェンスに取り組んでいただきたい」と述べた。

■今後について

山尾氏は、野党から政策を提示して、実現させることは可能だという。

「与党・野党こだわらず、きちんと仕事をしていこうという議員が増えると良いと思うし、それをちゃんと評価する物差しができてくると良い」。

「こうやって一旦総裁選が終わった。残念ながら来週からの国会は、本当はちゃんと議論すべき話題がたくさんあるが、ある意味選挙のための国会になってしまうと思う。そうであるならば、次の選挙に向けて、国民の皆さんからしたら、各政党・各候補者が何をしようとしているかを図る大きなチャンス。ぜひチェックしてほしい」と締めくくった。

▲動画 【Japan Inーdepth】チャンネル 「自民新総裁誕生」(2021年9月29日)

(了)

トップ写真:©︎Japan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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