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.政治  投稿日:2021/11/11

中国、TPP加盟で岸田政権に秋波


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・総選挙、自民党は15議席減らしたが、単独で「絶対安定多数」を確保。

・来年は日中国交正常化50周年。習近平主席、岸田首相へ祝電、日本との関係強化を訴えた。

・TPPへの加盟に協力して欲しいというメッセージか。

 

今年(2021年)、第49回衆議院議員総選挙は、議員の任期満了に伴い、10月19日に公示され、10月31日に投開票が行われた。

今回の総選挙(衆議院定数は465議席)は、①与党の自由民主党と公明党で過半数(233議席)に達するか、②自民党が単独で過半数を獲得するか、③自民党が「安定多数」(244議席)、あるいは、④「絶対安定多数」(261議席)を確保するかが、選挙の焦点となった。

初めに、「過半数」、「安定多数」、「絶対安定多数」の違いから説明したい。

衆議院は(本会議前の審議を行う)17常任委員会があるが、予算委員会(定員50名)を具体例として挙げてみよう。

自民党が単独過半数の233議席(233÷465=0.5011。50人×0.5011=25.055人)に達した場合、委員は《自民党(正確には“会派”。以下、同じ)25議席:他党(同)25議席》に振り分けられる。ただ、自民党が委員長職に就くと、同党が24議席となる。この時、委員長は裁決に加わらないので、法案が予算委員会で法案が通過しない場合が生じるかもしれない(委員長の評決参加は賛否同数の場合)。

▲写真 COP26で演説する岸田文雄首相(2021年11月2日、英国グラスゴーにて) 出典:Photo by Hannah McKay – Pool/Getty Images

次に、「安定多数」とは、17の常任委員会で委員長ポストを独占し、さらに委員の半数を確保した状態を言う。自民党が「安定多数」の244議席(244÷465=0.5247。50人×0.5247=26.235人)を獲得した場合、委員会で《自民党26議席:他党24議席》で振り分けられる。自民党が委員長を出しても、《自民党25議席:他党24議席》なので、法案は通りやすくなる。

自民党が「絶対安定多数」の261議席(261÷465=0.5613。50人×0.5613=28.065人)を確保した場合、《自民党28議席:他党22議席》となる。自民党は委員長を出した上、《27議席:22議席》なので、たとえ同党所属議員1~2名の欠員が生じても、まだ余裕がある。

周知の如く、総選挙は次のような結果に終わった。

与党①自由民主党が261議席、②公明党が32議席、併せて294議席である。最終的に、自民党は15議席減らしたが、単独で「絶対安定多数」を確保できた(選挙後、無所属の細野豪志氏が自民党に入党し、同党は262議席)。

一方、野党は①立憲民主党が96議席、②日本維新の会が41議席、③国民民主党が11議席、④共産党が10議席、⑤(無所属を含む)その他は14議席となっている。

今度の総選挙では大物議員らが小選挙区で数多く落選したが、大半が比例区で復活した(ただし、自民党の石原伸晃氏や立憲民主党の副代表、辻元清美氏は、比例区でも救われなかった)。自民党現職の甘利明幹事長が小選挙区で落選し、比例区で復活した。だが、甘利幹事長は辞任し、後任の幹事長には茂木敏充外務大臣がなっている。

そして、茂木外相の後任は「日中友好議員連盟」会長、林芳正氏の外務大臣就任が決定した。同連盟の副会長は志位和夫日本共産党委員長である。この人事に違和感を覚える方が少なくないのではないか。来年は日中国交正常化50周年に当たる。「親中派」の林氏が外相になれば、自民党内外で習近平主席来日に向けた工作が始まるかもしれない。

今回、立憲民主党と日本共産党は、小選挙区で選挙協力を行った。ところが、小選挙区制で約6割が敗北している(この選挙協力の結果は、今年9月に行われた自民党の総裁選での「小石河」連合のそれと酷似)。当然、立憲民主党の枝野幸男代表は、その責任が問われた。近く、同党は代表選挙を行う予定になっている。

今度の総選挙では、自民党が15議席減らし、立憲民主党13議席減らし、日本共産党が2議席減らした。その票が日本維新の会(30議席増)へ流れたのではないか。一部の有権者は、自民党に対して不満を抱き、立憲民主党と日本共産党の選挙協力も評価できなかったのだろう。彼らが、日本維新の会へ票を投じたと思われる。

 ところで、今回、投票率は、小選挙区が55.93%、比例区が55.92%で、いずれも前回の2017年衆院選の投票率を2.24ポイント以上、上回っている。

選挙後の11月2日、総務省は総選挙の18歳・19歳の投票状況(速報)を発表した。18歳が51.14%、19歳が35.04%、両者では43.01%となり、前回の2017年衆院選の投票率40.49%を上回った。

ここで、年代別比例区投票先について見てみよう。

自民党支持層は①10代(42%)、②20代(40%)、③30代(37%)、③70代以上(同)の順である。他方、立憲民主党の支持層は、①60代(24%)、②70代 以上(同)、③50代(20%)と続く。また、日本維新の会の支持層は、①40代(17%)、②30代(16%)、③50代(同)の順だった。

▲図表 年代別比例区政党別投票先:筆者作成

30代以下の支持層が多い党は有望だが、逆に、60代以上が主力の党は先行きが暗いだろう。

米国の「バイデン大統領」・ブリンケン国務長官と台湾の蔡英文総統は、早速、岸田文雄首相に祝意を表した。また、中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領も、岸田首相へ祝電を打っている。

特に、習主席は日本との関係強化を訴えた。中国はTPP加盟を望んでいる。これは日本に同国加盟に協力して欲しいというメッセージではないか。

トップ写真:中国共産党創立100周年を祝うアートパフォーマンスに出席する習近平中国国家主席(2021年6月28日、中国・北京にて) 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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