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.国際  投稿日:2021/11/29

護衛司令部までゆらぎ始めた北朝鮮


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北朝鮮護衛司令部トップの粛清相次義、解体に近い組織改変が。

金正恩、護衛司令部を4組織に分割。

・北朝鮮の経済悪化により権力中枢組織の疲弊も続く。

 

北朝鮮では2018年に、金正恩総書記など金氏一家に対する警護業務を担ってきた護衛司令部で、相次いだスキャンダルと不正が発生し、NO1・NO2が共に粛清されるという前代未聞の事態となり、解体に近い組織改編が行われた。

粛清・処刑続く護衛司令部

2018年秋の南北首脳会談を控え、北朝鮮は、護衛司令部が管理する北朝鮮最高の迎賓館である百花園を大々的に改修した。 その時、護衛司令部財政担当の金某(女性・29)大佐が、外国から各種豪華資材を持ち込み、なんと50万ドルもの大金を横領していた。金少佐は司令部傘下の貿易会社責任者などと共に2018年11月、姜建総合軍官学校の射撃場で処刑されたと言われている。

事件の調査過程で、護衛司令部のNO2である政治委員のキム・ソンドク上将が、この財政担当の金少佐から賄賂と性上納を受けていたことが発覚した。その結果NO2のキム・ソンドクだけでなく、ユン・ジョンリン(尹正麟)護衛司令官(大将)も共に解任され、平安南道介川(ケチョン)政治犯収容所に連行さたという。

護衛司令官と政治委員が同時に粛清されることは、前代未聞の出来事だったが、それほど護衛司令部の腐敗が相ひどかったということだ。

護衛司令部を四つに分割

金正恩総書記は、自身の安全を担当する組織で、スキャンダルと不正腐敗が相次いだことに衝撃を受け、警護部隊3個を新設して護衛司令部の権限・機能を大幅に分割した。護衛司令部を除隊した北朝鮮の内部消息筋は、「金正恩の指示で昨年に護衛司令部が4つの組織に分けられた」とし「護衛司令部、護衛局、労働党中央委員会護衛処国務委員会警衛局に改編された」と説明し、金正恩とその一家に対する護衛任務部隊は、人員が一新されたと伝えてきた。新たに組織された護衛司令部以外の3つの組織は、2020年10月10日、朝鮮労働党創建75周年閲兵式行進でその姿を内外に示した。

護衛司令部改編の狙いについては、身辺安全に対する金正恩の不安感のためだという分析が主流だ。最近、北朝鮮社会全般の規律・忠誠度が崩れていることを金正恩が懸念しているが、そこに自身の身辺警護を担う護衛司令部の劣化まで重なり、身辺警護の再編に踏み切ったとの分析だ。またクーデターなどを意識して、信頼できる部隊の能力だけを強化し、護衛司令部の力を削いだとの説もある。

再編のもう一方の狙いは、中心部隊以外を切り離すことで、経済的負担を少なくしようというものだ。事実、北朝鮮の経済難が深刻化する中、護衛司令部に対する待遇と補給は以前よりも悪化している。また平壌の部隊と地方の部隊との格差も広がっている。

経済難で格差広がる護衛司令部

北朝鮮内部消息筋は、「直接護衛任務を担当する部隊は、食糧も米とトウモロコシを5:5の比率で供給を受けているが、一般戦闘部隊や地方の部隊は3:7あるいは2:8の比率でしか補給されず、醤油、味噌のような副食と洗面石鹸、歯磨き粉、歯ブラシのような消耗品も地方部隊へは補給が滞っている」と指摘し、護衛司令部が新たに改編されてその差がさらにひどくなった」とした。

また、「地方の護衛司令部部隊で、あちこちにある金正恩一家の別荘を守る部隊は、ほとんど深い山の中に駐屯している」とし、「私が服務した部隊は高い山が多く、猛山(メンサン)と呼ばれる平安南道猛山郡にあったが、その山奥に一個旅団規模の部隊が駐屯していた」「猛山郡が鉄道もつながっていない山岳地帯なので、物資補給が頻繁に途絶えた」と説明し、「そればかりか梅雨時になると道路が遮断され、食糧などの供給物資が10日、あるいは半月遅れることが日常茶飯事であったが、野菜が不足して春には全部隊が動員され山菜取りを行う中で、毒キノコを誤って食べて死んだ兵士もいた」と証言した。金正恩の警護部隊がこの有様では、金正恩も枕を高くして眠れないに違いない。

最近新型コロナウィルスの強烈な新種オミクロン株が南アフリカで発生したとのニュースが流れたが、この影響で北朝鮮の経済悪化はこれからも続くと予測される。それに伴い、権力中枢組織の疲弊も続いてゆくに違いない。

トップ写真:ソウル駅で北朝鮮の金正恩についてのテレビ報道を見るソウル市民、韓国のソウルで(2020年4月21日) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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